第906話 クタナツコンビの余興

それからはステージにて余興の時間となった。

ダンスを披露する者、アカペラで歌う者。手妻っぽい何かを披露する者。下手でも見てて楽しい!


『次ぁ誰だ!?』


ダミアンの声が響く。


「押忍! 僕達です!」


なんと、スティード君とセルジュ君ではないか。これは楽しみだ。


「貴族学校五年のセルジュ・ド・ミシャロンです! ウィリアム・テルオをやります!」


「騎士学校五年のスティード・ド・メイヨールです! 的になります!」


これで会場が一笑い。


二人は二十メイルほど離れる。スティード君は頭にアプルの実を乗せる。


「では行きます!」


水球みなたま


セルジュ君の水の魔法が、スティード君の顔に直撃する。


「ちょっとー! セルジュ君! 話が違うよー!」


スティード君の抗議に再び会場に笑いが起こる。スティード君はいじられキャラだからな。若手最強のいじられ剣士か……


「ごめんごめーん! 次は大丈夫! 行くよ!」


「もぉー!」


『水球』


今度は上に大外れ、かと思ったら下へ向きを変えてやはり顔に命中。フォーク!?


「そりゃないよセルジュくーん!」


もう会場は大爆笑だ。私とアレクも大笑いしている。まさかこの二人にそんな才能があったなんて。


「いいよもう! 全部斬るから!」


スティード君は剣を取り出して構える。どこまでが筋書き通りなんだ?


「あはは、ごめんごめん。次こそちゃんと狙うよ。」


ぽっちゃりセルジュ君の嫌味のない物言いとの温度差が会場に笑いを呼ぶ。まさか全て計算?


『水球』


今度はステージすれすれを飛んでいる。スティード君は微動だにせず待ち構える。


そして一刀両断。水球は霧のように消えてしまった。しかしその瞬間、上からバケツをひっくり返したように水が……ドリフか!


「そりゃないよセルジュくーん!」


先ほどと同じセリフにもう会場は何を言っても笑う状態になっている。スプーンが転げてもおかしいに違いない。


「おかしいね? 雨漏りかな?」


新築のダンスホールでそれはあり得ない。もう笑い声が大きすぎてセルジュ君達の声が聞き取りにくくなってきた。すごいな。




「よーし、じゃあここから真面目に行くよ!」


「さっきまでは違ったの!?」


スティード君のツッコミが冴えている。いいコンビだな。


セルジュ君は布を取り出して目隠しをするではないか。目隠しでウィリアム・テルオをやるのか!?


スティード君は剣を収納し、定位置に立つ。そして、目隠しをした!?


『おおーっと! 二人とも目隠しをしたぞー! こいつぁ目が離せねぇぜ!』


ダミアンの実況か。そういやこいつって実況とか解説も得意だったよな。つくづく名門貴族とは思えない奴。


狙撃すないぷ


うっそ! あれは私オリジナルの!? しかし速度は遅い、水球より少し速い程度か。危ない! 顔に! 命中するかと思ったら軌道が上向きに変化し、見事アプルの実を貫いた。


拍手喝采! なんて凄いんだ!


目隠しをとり一礼してステージを降りる二人。


「セルジュ君! スティード君! 凄かったよ! あれって自動追尾だよね? しかもスティード君は魔力感誘まで!?」


「へへ、やったよカース君。でも魔力がなくなっちゃったけどね。すないぷって難し過ぎるよ! あ、自動追尾はエリザベスお姉さんに教えてもらったんだよ。」


「僕の魔力感誘はまだまだだけどね。セルジュ君がほとんど操作してくれたから、もし使ってなくても髪の毛をごっそり削られるぐらいで済んだと思うよ。」


なるほど、七割はセルジュ君の実力か、それにしてもお笑いと見せかけて一転して本格派の見世物とは……やるな。


私も何かやりたくなってきたけど、思いつかないな。次の余興は誰だ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る