第907話 アイリーンの悩み

会場では再び演奏が始まりみんな踊り始めた。私達はテーブルに着きお喋りに興じている。ちなみにスティード君は私が乾かした。


「いやー本番は緊張したけど上手くいってよかったよ。」


セルジュ君でもステージは緊張するのか。


「結構練習したもんね。その度に僕は水浸しさ……」


スティード君……


「アレクは知ってたの?」


「中身は知らなかったわ。何かやるとは聞いてたけど。」


「でもセルジュ君、すないぷって魔法を使うとは聞いてなかったよ? 氷弾ひだんを使う予定だったのに。」


「いやーごめんごめん。内緒で練習してたんだよ。カース君みたいにズバッと決めてみたいじゃない?」


ぶっつけ本番であの威力か。わたしのオリジナル魔法『狙撃スナイプ』は『鉄塊てっかい』の魔法でライフル弾を作り出し『金操きんくり』でぶっ放す危険な魔法だ。最近魔物相手には効かないことが多いけど。金操を使うために貴族学校では随一の魔力を持つセルジュ君でさえ一発で魔力切れになるぐらいだ。まあさっきの彫刻で魔力をだいぶ使ってくれたんだしね。


「それに上から水が降ってくるのも聞いてなかったよ? もー!」


「いやーごめんごめん。だってスティード君演技が下手なんだもん。何回練習しても棒読みなんだから。」


「あはは、それは仕方ないね。おかげで見てる僕達は楽しかったよ。ね? アレク?」


「本当にそうよ。むしろ打ち合わせなんかしてないかのような自然さがとても面白かったわ。」


「そ、そう? カース君とアレックスちゃんが言うならまあ……」


つくづくスティード君はいじられキャラなんだから。


いつの間にかステージではバラデュール君とアル君の模擬戦が始まっている。見世物じゃないじゃん。ただの稽古じゃん。


しかもそこに木槍を持ったアイリーンちゃんまで乱入している。三つ巴の戦いは見てる分にはおもしろい。


「ところでスティード君、アイリーンちゃんが何か悩んでそうなんだけど知ってる?」


「ああカース君も知ってたの? バラデュール君によると、胸が原因らしいよ。」


「胸?」


アイリーンちゃんに胸がなんかないのに? ウエストはくびれてそうだけど。


「そうなんだよ。最近胸が大きくなってきたらしくてね。思い通りの動きができなくて苛立っているらしいんだよね。」


「そうなの? アレク?」


「知らないわよ。私は普段から部屋のお風呂に入ってるんだから。そうでなくてもアイリーンはお風呂に入らないし。」


以前アレクに聞いた話によると、寮には全部屋に湯船があるらしい。しかし、入浴するためには自らの魔法で水を出し、沸かす必要があるとか。それができない生徒は大浴場を利用するんだそうだ。


「ちなみに最近は矯正下着ってのを着けて無理矢理締め付けてるらしいよ。それはそれで呼吸が苦しいそうだよ。」


スティード君はどこまで聞いてるんだ……いや、バラデュール君はどこまで情報を漏らしてるんだよ……まあ、アイリーンちゃんも気にするタイプじゃないだろうけどさ。

それにしても難問だな。どうするべきか、私にはさっぱり分からない。


「ちなみにアレクは大丈夫なの?」


アレクは巨乳だからな。かなり動きにくいはずだが。


「私は魔法がメインだもの。なるべく激しく動かないで済むよう立ち回ってるわ。」


その割に王国一武闘会での決勝戦は激しかった気がするが。


「それに……カースが……」


「ん? どうしたの? 赤い顔して?」


「知らない! カースのバカ!」


うわぁこの感じ懐かしい。質問しただけで破廉恥とか言われた初等学校時代を思い出すな。


それよりこの手の問題は誰に相談するべきなのか?

巨乳かつ強い女性格闘家……?


あっ!

心当たりがあるぞ!

後で教えてあげよう!

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