第904話 アレクサンドリーネとダミアン

そびえ立つムリーマ山脈の上空を飛び越えると、そこはもうフランティアだ。さて、現在地はどこだろう? 眼下には平地、やや北東に小高い山。あの山はもしかして、ホユミチカの南東にあるスオーバ山かな? てことは領都はまだだいぶ西か。この辺りの景色を覚えておけば、再びスペチアーレ男爵の所を訪れるのは簡単だな。


今から領都に行ってコーヒーでも飲めば放課後にぴったりかな。アレクの元へとー、飛べ飛べー飛ぶー。二週間ぶりだもんな。早く会いたいぜ。




一時間もかからず領都へ到着。いつもの事務的な騎士もいる。城門で時刻を確認したらもうすぐ三時じゃないか! コーヒー飲んでる場合じゃない。急がねば!


走りながらもアレクへ『伝言つてごと』を飛ばす。今向かっているよーと。あー早く会いたいぞ。




見えた! 魔法学校の校門!

あっ、アレクだ! いかん、待たせてしまったか! いつも私が先に行って待っていたのに!

相変わらずアレクの周りには人が多い。ちょっと前までほぼ男ばかりだったのに、ここ最近は男女比が半々なんだよな。悪いことではないよな?


「アレク!」


「カース!」


「ピュイピュイ」


「ガウガウ」


走り寄ってアレクを抱きしめる私。そんな私達の首に巻きつくコーちゃん。その横でアレクのほっぺを一舐めするカムイ。久々の全員集合だもんな。


「カース、会いたかったわ。」


「僕もだよ。話したいことはたくさんあるけど、とりあえずうちに帰ろうか。」


「その前に辺境伯邸に行かない? 実はダミアン様から呼ばれているの。カースが来たら連れて来て欲しいそうよ。」


「ダミアンが? まあいいや。それなら行こうか。ダミアンにも話したいことがあったし。」


スペチアーレ男爵に会ったことを自慢するだけなんだけどね。


「この子達も一緒にいいかしら?」


「ん? いいんじゃない? ダミアンちだし。」


見覚えのある顔がちらほら。しかも……


「カース君。後で手合わせを頼む。私は強くなったのか知りたいんだ……」


「う、うん。いいよ……」


アイリーンちゃんは相変わらずだなぁ。




大勢でゾロゾロ歩いて辺境伯邸へ。道中ではやたらアイリーンちゃんが話しかけてきた。稽古の方法がどうとか、無尽流ではどうするのかとか。そんな難しいことを聞かれても私には分からない。適当に相槌をうつだけだった。


そして到着。快く通してくれる門番さん。そこに走って現れたラグナ。


「やあボス。よく来てくれたねぇ。こっちだよぉ。」


「ラグナも元気そうだな。ダミアンは俺に何か用でもあるのか?」


「まあねぇ。ボスがいなきゃあ始まらない用事さぁ。」


そう言って私達を案内するラグナ。あっちは新築したダンスホールか。




「さあボス! 入っとくれ!」


ゾロゾロと入る私達。そこにはたくさんの料理が並べられていた。これは?


「よおカース。やっと来やがったか。コーちゃんにカムイは久々だな。」


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


「ようダミアン。こりゃあ何事だ?」


「オメーの成人祝いに決まってんだろ。」


何!?


「え、マジで?」


「そうよカース。この前十五歳になったものね。私達にお祝いさせて欲しいの。」


「アレク……ありがとう。嬉しいよ。」


いかん、もう泣きそうになってきた……


ダミアンが手を挙げると盛大な音楽が流れ始めた。楽団まで呼んでたとは……


「おら! かてー事は言いっこなしだ! 飲め飲め! 派手にやるぜ!」


「おお!」


まさか辺境伯邸でこんなパーティーを開いてもらえるとは。嬉しいことこの上ないな。


「魔王さん乾杯しましょ!」

「魔王さん! 私も!」

「魔王さん!」


ぬおっ、えらく女の子が寄ってくるじゃないか。珍しい。まあ乾杯ぐらいするけどね。


「乾杯。」


軽く冷えてて旨いエール。さすがダミアン、酒にはこだわってやがるな。


「この狼ちゃんの毛皮ってモフモフしてるわぁ!」

「こっちの蛇ちゃんもお目目がくりくりしててかわいいわぁ!」


コーちゃんにカムイも人気者だ。私まで嬉しい。


「カース。今週は何してたの?」


「例のあれだよ。エルネスト君を助けにタンドリアに行ってたよ。あっち方面は治安がめちゃくちゃだったよ。」


「ああエルネスト君の件ね。うまくいったの?」


「どうかな? 僕としては十分だと思うけどエルネスト君の将来は怪しいかな。」


私はよくやった。エルネスト君がいいと言ったんだから十分な出来だ。後のことなんか知ったことではない。


「大変だったのね。それよりカース、会いたかったわ。」


パーティーの真っ最中なのにアレクは私の頬に唇を寄せてきた。かわいい……




そこに……


「カース君勝負ら!」


アイリーンちゃんだ……もう酔ってるのか……


「まあまあ落ち着いて。後にしようよ。」


「だめら! 私はもう我慢れきない! いくぞ!」


そう言って彼女は槍を抜く。さすがに本物ではなく、練習用の木槍だが。


水鞭みなむち


足を捕まえ、そのまま胴体へ。全身をぐるぐる巻きにしてから……


『快眠』


寝ててもらおう。


「アイリーンちゃんって何か悩んでたりするの?」


「うーん、最近の総合成績は二位なんだけど……私ともそこまで差があるわけじゃないから伸び悩んでるって気もしないし……」


本人にしか分からない何かがあるのかな。まあいいや。


「何か食べようよ。どれも美味しそうだしね。」


「ええ。アイリーンには今度私から聞いてみるわ。」




軽快な音楽に合わせて何組か踊り始めた。私も食べたら踊ろう。コーちゃんはもう踊ってる。カムイは食べてばかりか。


「カース、踊るわよ!」


「うん!」


アレクは行動が早い! もう少し食べたかったんだが。後でいいか。さあ踊ろう!




「カースが大金を持ってることをね、みんな知ってるみたいよ。」


踊りながらアレクが話しかけてくる。


「あら? どこから漏れたのかな?」


「城壁の工事よ。あれだけ壊れた城壁がもう直ってるじゃない? それだけもの岩を一体どこからどうやって運んだのかって噂になったのよ。石切り場から帰ってきた冒険者は運んだ人間について。普段岩を運んでる冒険者からは報酬の相場。それを合わせて考えるとカースがいくら稼いだか判断できるみたいね。」


なるほど。だから今日の私はモテモテなのか。分かりやすい女の子達だな。

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