第852話 領都の青春
パイロの日。前世で言う日曜日。
昨夜のパーティーで盛り上がり、帰ってからも盛り上がった私達が目覚めたのは、やはり昼前だった。
「おはようございます。坊っちゃんにお客様がいらしております。」
リリスか……
「おはよ。誰?」
「エルネスト・ド・デュボア様と名乗っておいでです。」
「エルネスト君か。通してお茶でも出してあげて。」
「かしこまりました。」
アレクは……寝かせておくか。それにしてもどうやって我が家を知ったんだ?
「お待たせ。よく来たね。」
「やあカース君。突然ごめんよ。昨夜はパーティーに出席したそうだから今日ならいるかと思ってね。」
「そうなんだ。いい読みだね。で、何事?」
「短剣直入に言う。助けて欲しいんだ。」
どうでもいいが、単刀直入と言わないとしっくりこないよな。乗り出した馬車とかさ。異世界あるあるかな?
「事情によるかな。これでも結構予定が詰まっているんだよね。」
「実は……」
エルネスト君が語った内容は大した話ではなかった。タンドリア領を拠点に冒険者として活動している彼らパーティー。そんな彼らにいつも絡んでくる厄介な先輩パーティーがいるそうだ。普段はギルド内でネチネチ因縁をつける程度だったのが、街の外でも鉢合わせするようになり、タカリ、カツアゲのいい的にされているらしい。自分達だけで対処しようにも相手は六等星を中心に八人もいるため勝ち目がない。そこに偶然フランティア領都で私に会ったものだから助けを求めるだけ求めてみたと。貴族の力を使えばいいのに、意地があるんだろうな。
「うーん、助けるのは簡単なんだけど……それでいいの? 僕が助けてあげられるのは多分一度きりだよ?」
「もちろんそれでいいとも。僕以外のメンバーはみんな平民なせいか、いつもされるがままなんだ。僕らでもできるってところを見せればきっと変われると思うんだ。」
「そう。エルネスト君がいいなら構わないよ。それから報酬については現地で決めさせてもらうよ。多分現物で貰うことになると思うから。」
「分かったよ。少し怖いけどカース君はお金では動かないよね。」
金なら浴びるほどあるもんな。同級生のよしみで一度だけは助けてやるのもいいだろう。解決するかどうかは怪しいがね。
「色々と立て込んでるから行けるのは今月末ぐらいだと思っておいてくれるかな。どこに訪ねたらいい?」
「ああ、それでいいよ。ありがとう。現在僕は母上の実家、デルヌモンテ伯爵家にお世話になっているんだ。タンドリア領の港湾都市バンダルゴウにあるよ。イボンヌもそこで行儀見習いをしつつ中等学校に通ってるんだ。」
イボンヌ・ド・クールセルちゃんか……あの子も何を考えているのか謎だよな。上級貴族大好きっ娘だったなぁ。
「では約束をしよう。僕は今月末にバンダルゴウのデルヌモンテ家を訪ねる。だからエルネスト君は正直に言ってくれる?」
「いいともっうっ……契約魔法だね。やっぱりカース君の魔力は強烈だね。何でも聞いてよ。」
「この間の冒険者、当たり屋のあいつはどうした?」
「治療院に連れて行ってあげたよ。僕に恩義を感じてるらしく一緒にタンドリアに行くことになってるよ。」
「そもそも領都に来た用は何?」
「依頼があったことだし修行も兼ねて受けてみたんだよね。珍しく護衛の依頼でさ。僕らには荷が重いかとも思ったんだけど、これも経験ってことで思い切って受けてみたのさ。おかげでカース君に出会えるとはね。」
うーん、考えすぎか。何かの罠かと思ったが。
「ところで、聖白絶神教団って知ってる?」
「もちろん知ってるよ。王都であんな大事件を起こしたんだから。怖いよね。」
「エルネスト君は関係ないよね?」
「あるわけないよ! 変なことを聞くんだね。」
「いや、ないならいいんだよ。ところで昼食どう?」
さすがに疑いすぎか。
「ありがとう。でも仲間が待ってるんだ。タンドリアで会う日を楽しみにしてるよ。」
「うん、またね。」
パスカル君もそうだったけど、たまにはこうして旧交を温めるのも悪くないな。素直に助けてと言われたからには助けようではないか。
さーて、昼からは何しようかな。劇場はもう公演やってるのかな? アレクを起こしてお昼にしようかな。
「おはよ。よく寝てたね。」
「おはよう……だってカースがあんなに……するんだもの……」
「お昼にしようよ。食べられる?」
「ええ、いただくわ……」
昼食の最中にエルネスト君が来たことと、その用件を話しておこう。アレクの反応は……渋い。
「カースって本当にお人好しなのね……」
「いや、まあ、素直に助けを求められるとね……お土産楽しみにしててよ。」
「ええ、楽しみにしてるわ。それにしてもエルネスト君も苦労するわね。上級貴族なのにわざわざ冒険者なんかやって。そのくせ自分達のパーティーの面倒も見れないなんて。まったく……いい気なものね。」
「はは……全くその通りだね。どんなメンバーなんだか。」
「それより昼からだけど道場に行ってみない?」
アレクにしては珍しい。どうしたことだ?
「いいよ。スティード君もいそうだしね。」
破極流の槍術道場。私は槍の腕はさっぱりだが新しく手に入れた木材が長物なので木刀以外の武器を作るのもいいかと考えている。さーてスティード君は来てるかなー。
「押忍!」
「おすっ!」
おっ、いたいた。休日だってのにいい汗かいてるね。相変わらずだ。
「カース君! アレックスちゃん! よく来たね。あ、そうそう、昨日エルネスト君を見かけたよ。」
「来たかアレックス。カース君もようこそ。」
アイリーンちゃんも相変わらずだな。バラデュール君の姿が見えないが……
『水弾』
ぬおっ! アレクがいきなり魔法を撃ったぞ! 何っ!? 嘘? スティード君の横をスライドして逸れた……
「え!? スティード君もう魔力感誘を使えるようになったの!?」
「まだまだだよ。今のはアレックスちゃんが威力を抑えてくれたからだよ。」
いやいや、いくら威力は抑えていても、あの発動スピードにいきなり対応してみせたんだぞ? マジで?
『
「どわぁ! 無茶しないでよー! あーあ、穴が空いてる……」
マジかよ……私の狙撃をも逸らしたではないか。そりゃあ全力ではなかったにしても、直撃すれば手の平ぐらいは貫通する威力だぞ? この短期間によくもここまで……私はまだ全然できてないのに……
「スティード君すごいよ! いつの間にここまで使えるようになったの!? びっくりだよ!」
「いやー、放課後に何度もアレックスちゃんに稽古をつけてもらってたんだよ。お互いいい刺激になったと思うよ。」
そうか。アレクはそれを私に見せたかったのか。負けてはおれんな。
それにしても放課後に友と汗水流して特訓か……
「青春だね。」
おっと、つい声に出してしまった。
「むっ!? カース君! 今なんと言った!?」
「え? 青春だけど?」
アイリーンちゃんどうした?
「青春……なんていい言葉なんだ……心が燃え上がるかのようだ。カース君勝負だ!」
おいおい私は素手だぞ。容赦ないな。
こうして日が暮れるまで私達四人は稽古に励むのであった。これこそ間違いなく青春だな。アイリーンちゃんも立派な青春仲間だな。
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