第846話 楽園の西側

フェアウェル村を後にした私は真南に飛んでみた。最短距離狙いだ。果たしてどこに辿り着くのだろうか。


あ、結局呪いの魔笛のことを婆ちゃんに聞くのを忘れていた。フェアウェル村の村長に聞いてもよかったってのに。まあいいや。明日はアレクに会えることだし、面倒なことは全て忘れよう。




さて我が領地、楽園に到着。最短距離で帰ったはずなのに遠回りした気分だ。通り慣れてないルートってそんなものなのだろうか。

帰っては来たがコーちゃんもカムイもいない。一体どこへ行ってしまったんだ……


とりあえず魔力庫に入っている岩を出そう。楽園の西側、堀からさらに外へ。ここらへ岩を配置する。適度に間隔を空けて、何かの境い目だとアピールするかのように。


南北に四キロル程度の岩のラインが通った。今後はここを基準に新たな城壁を作るとしよう。土地はいくらでもあるからな。王都並みに広く周囲を囲うことも可能。面白くなってきたかな?

ここらはヘルデザ砂漠とノワールフォレストの森の間を東西に分断する平原。少なくともこの東半分は私の領地にしてくれる。西半分は王家に残しておいてやらんとな。


さて、これで魔力庫内の岩は残りわずか。領都の自宅で使うとしよう。




ん? なんだあいつら? こちらに走って来るようだが……


「おうコラてめー! 誰に断ってこんなとこに岩なんざ置きやがった!?」

「ここは俺らミッドナイトブルースが縄張りにすんだよ!」

「どけろやオウ! それともてめーごと片付けてやんかよ?」

「おらぁ何とか言えや!」


「意味が分からん。ここは天下の大魔境だろうが? 早いもん勝ちだぞ?」


正確には強いもん勝ちなのだが。それにしてもこいつら、どこに潜んでやがった? 岩が頭上に落ちなくてよかったな。


「つまりてめーは俺らに逆らうってんだな?」

「この大魔境で独りぼっちか? 誰も助けてくんねぇぜ?」

「やんのかオウ? てめぇ一人ぐれー殺したってよぉ、まずバレねぇんだぜ?」

「おらぁ! 何とか言えや!」


「別にここじゃなくても、もう少し東に行けば魔王の楽園エデンがあるぞ? 安全で過ごしやすいぜ?」


こんな奴らは入れてやらないけどね。


「はぁ? バカかてめぇ? 俺らが何しに来てっと思ってんだ?」

「魔王とかってチョーシこいてるガキをぶっ殺しに来てんだよ!」

「そんで領地はいただき! 俺らも貴族ってわけよ!」

「おらぁ! 分かったらさっさと有り金置いて消えろや! マジ殺すぞ?」


『榴弾』


「なっ!?」

「ぐうっ?」

「いってぇ!」

「ぐうおっ!」


両足をミンチにしてやろうと思ったら意外としぶといな。なかなかいい防具を装備してやがるじゃないか。


『榴弾』


反撃する間なんか与えないがね。


「いぎゃおぉっ足がぁっ!」

「くっぐうっ……」

「おっ、俺の足……」

「ぱにゃろ……」


さて、問題なくミンチになった。


『氷壁』


いつものように氷に顔だけ出して閉じ込める。さあ尋問タイム……なんだけど……もうすでに面倒になってきた……


「なぜ魔王を狙う? 素直に話すなら見逃してやるが?」


「だ、だれが! てめーごときに!」

「ぜってぇ殺して……やんからよぉ……」

「おお……おれのあし……」

「ぐにゅら……がは……」


『狙撃』


三人殺した。


「お前も死ね。」


「ま、待てぇ! 何なんだよ! おかしーだろ! 何あっさり殺してんだよ!」


『狙撃』


両耳を撃ち抜いた。


「次は額に穴を開ける。」


「ま、待ってくれぇ! 話す! 何でも話すからぁ!」


「ならば約束だ。俺に絶対服従しろ。そしたら高級ポーションをくれてやる。」


「あ、ああ、分かっとぁっぐぉ……」


「ほれ、飲め。」


「あ、ああ……」


「では命令だ。今からソルサリエのギルドまで帰れ。帰って今回の企みを全部ギルドの職員に伝えろ。全部伝えたらその場で腹を掻っ捌いて死ね。」


「あ、ああ……そ……そんな……」


面倒な事情なんか聞きたくもない。どうせまたサヌミチアニ辺りのノータリンどもだろ。ここまで来れるぐらいなんだから雑魚じゃないだろうに……一体何を考えてんだか。

王家の街の話がフランティアにも流れてきたからか? もしもここの西側に本当に新しい街なんかできたら、ここも一気に栄えてしまう。いや、まあ私が鎖国政策でもとれば関係ないんだが。ただの広い一軒家だから誰も入るなって感じで。でも、どうでもいいや。


それよりこいつ、一人でちゃんとソルサリエまで帰れるんだろうな? 途中でのたれ死んでも構いはしないけど。足だってポーション一本でまともに治るわけないし。それもどうでもいいや。あ、歩き出した。せいぜいがんばれ。




再び自宅前。何度見てもコーちゃんもカムイもいない。留守だ。はぁ……


一応情報共有だけはしておこうかな。




掘立小屋エリアに来てみた。私が伝言を頼んだ冒険者は……いた。


「よう。うちの蛇ちゃんと狼は来たか?」


「おお魔王か。いや、見てないぜ。」


「そっか。ところでさ、ここから西に四キロルほど行ったところに冒険者の死体が三つ転がってる。装備や所持金は手付かずだ。早い者勝ちだろうぜ。」


「ま、魔王……わ、分かった……ありがたく貰っとくぜ……」


仕事を頼んだからには報酬が必要だからな。奴らの死体には手を付けていない。事情など知るものか。魔王を殺すと言ったのだ。逆に殺して何が悪い。さすがに街中でやるとまずいがここは天下の大魔境、無法地帯だからな。


さて、今夜は少し早く寝るとするかな。明日は早めに領都に行って放課後までブラブラしてみよう。復興具合も気になるし。さーて風呂でも入るとしようか……一人で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る