第843話 勝利の宴

うぅん……


ここは婆ちゃんちだな。


ギリギリ勝てた……嫌な魔物だったな。お、首の傷が治ってる。体も怠くない。婆ちゃんが何かやってくれたのかな?




「おはよ。もう昼?」


「おおカース、目覚めたか。心配したぞ。気分はどうじゃ?」


「いいよ。婆ちゃんが治してくれたんだよね? ありがとね。」


「ふふ、礼を言うのはこちらじゃ。まさかグレイトロックゴーセルにあのような魔物が潜んでいようとはの。お前がおらねばワシが禁術を使うか村ごと逃げるしかなかったわい。ありがとうなぁ。」


「禁術ってまさか『毒沼』とか!?」


「ふむ、知っておったか。神すら殺す猛毒の魔法じゃ。あれを使い道連れにする以外の方法をワシは知らぬ。使うことにならなくて良かったわい、本当に……」


怖すぎる。使ったが最後、いつまでも毒沼に囚われて未来永劫苦しみ続けるなんて……

勝ててよかった。


「気分が良いなら宴じゃ。お前は村を救った英雄じゃからな。」


「そう? 照れるな。お腹もすいてるし丁度いいね。」


宴会ばっかりやってないか? うまい酒と料理にありつける分には問題ないが。




昨日と同じ村の中央広場。私の両サイドにはクロコとクロミ。


「ねーニンちゃん? クロコが役に立ったって本当?」


そんなわけないだろ。


「いや、全然。むしろ足を引っ張られて参ったわ。よく見捨てずに助けてやったもんだと思うぞ。」


「ちょっ、ニンちゃん酷い!」


「酷いのはお前だろ。反省しろよな。お前が邪魔しなければもっと楽勝だったんだからよ。」


「クロコぉ? アンタ嘘ついたねぇ?」


「いやいや知らないし! アタシ頑張ったし!」


反省の色なしか。せっかく一件落着になりそうなのに。


「なあクロコ。正直に言ってみな? そしたら同衾の件、考えてやるから。約束する。」


「えっ!? ホント!? マジっぐぅうん……」


かかった。チョロすぎる……


「なぜクロミと一緒に村に戻らなかった?」


「ニンちゃん一人じゃ危ないから、助けようと思って……」


「おかげで死に、いや殺されかけたけどな。しかも自分のやったことに反省なしか?」


「だって悪気はなかったんだもん! ニンちゃんだってあいつ倒せたんだからもういいじゃん!」


一気にムカついてきた。こんな奴を助けるために、私は……


「婆ちゃーん。こいつ反省してないね。どうにか反省させてやってくんない?」


「ふむ、村の英雄たるカースの足を引っ張っただけでなく、命まで狙ったとはのぉ。『独悔房どっかいぼう』で反省してもらおうかのぉ?」


「ひいっ! イヤぁー! お願い! お願いします! それだけは勘弁して! お願いよニンちゃん!」


私にお願いしても意味がないだろうに。


「反省するか?」


「イヤよ! 私悪くないもん!」


契約魔法が効いてるせいで正直だねぇ。反省してるフリができないとは。


「心から反省したら出してもらえるさ。がんばって来い。」


「そんなぁ! 同衾の件は!? 私ニンちゃんの子供が欲しいのに!」


「しっかり考えた結果、お前に反省の色が見えないから失格。もうチャンスはないぞ。」


アレクの一厘も魅力がないくせに。私の子供が欲しいだと? 子供が子供作ってどうすんだ。そもそも人間とエルフでは子供ができないんだろ?

そういえば前世でもいたなぁ。私は五年生の担任だったが、六年の女の子が尿検査で妊娠が発覚してたなぁ。その相手が実の兄と来たもんだ。やだやだ……と思ったけど、それってうちの姉上と兄上もそうじゃん! 子供はまだみたいだけど。変な気分だな……まあいいや。


「連れて行け。」


婆ちゃんの号令がかかり、クロコは連れて行かれた。何やら泣き喚いていたが、生きてるだけで儲けものだろ。


「婆ちゃんありがと。反省したら出してやってね。」


「ああ、そうするさ。どうやらクローディアはお前の魔力、魅力を目の当たりにしてイカれちまったようだねぇ。」


そんなものか。アーさんの順番がどうとか言ってたしな。発情してトチ狂ったってとこか? 何にしてもこれで楽しく飲み食いできるな。


「ごめんねニンちゃん……クロコが迷惑かけて……」


「いや、もういいさ。終わったことだしな。」


これだよこれ。心のこもった謝罪があればスパッと終わってたんだよ。クロコとクロミ、見た目は似たような黒ギャルなのに中身は大違いか。


「ニンちゃん、これ貰って?」


「これは?」


「元気になる薬。その若さで役に立たないなんて可哀想すぎるもん……」


この野郎……私の話を聞いていたくせに……


「貰っておくけどここでは飲まないぞ? 帰ったら飲んでみるわ。」


これでアレクをめちゃくちゃにしてやろう。きっと喜んでくれる。


「そう……だよね……人間って白い肌が好きなんだよね……勇者もそうだったって……こんな黒くて汚い肌は……嫌いだよね……」


こいつマジで話聞いてないな。最愛の女がいるからダメだって言ってるのに。言ったよな? もういいや、酒を飲もう。ああうまい。これは何の肉だろう。片っ端から食ってやる。


「ほれ、ニンちゃん。俺の酒を受けてくれ」

「次は俺だ」

「この肉は俺が熟成させたんだぜ?」

「人間には勇者よりスゲーやつがいるんだな。驚いたぞ」


なぜか野郎達に囲まれてしまった。全員美形。私が女なら高級逆ハーレムなのだが……理由は分かってる。若くして不能と思われ同情されているのだ。敬意も感じるし、悪意はさっぱり感じないからいいんだけどね。もう残りの滞在はずっと飲みまくってのんびりしよう。ああ酒が旨い……私はまだ十四歳なのに……

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