第836話 ダークエルフの村
昨夜はよく眠れた。私の魔力がたっぷり入った激まずポーション酒を飲んだからかな。さすがに山岳地帯を飛び回るのに魔力が残り一割では心細いから嫌々飲んでみた。死ぬほど不味かった。食べたことはないが、シュールストレミングやホンオフェとどっちが臭いのだろうか。
目覚めてみれば体感で五割近くまで回復していた。これならまあ問題ないだろう。
朝食後、アーさんが村長宅にやって来た。
「では村長、行ってくる。」
「うむ、ついでにこれを待っていくがいい。坊ちゃんの魔力でポーションと化した酒だ。あやつらなら喜ぶやも知れん。」
「分かった。行くぞにん、いやカース。」
「そうです。カースです。」
やっと覚えたようだな。そこに若者三人組もやって来た。
「兄貴! いってらっしゃいまし!」
「大変な道のりっすけど兄貴ならきっと大丈夫っすよ!」
「無事に帰ってきてくださいよ!」
「まあ……行ってくるわ。」
私とアーさんは村の外からミスリルボードに乗り出発した。方角は北だ。
「私が隠形を使うからお前は好きなように飛んでくれたらいい。」
エルフの隠形か。期待できるな。よーし、ぶっ飛ばそう。どこまでも波のように連なる青い山々。所々変な色してたりするが基本的には緑が多い。
「アーさんて何歳なんですか?」
「ああ、二百四十だ。マルガレータとさほど変わらん。」
超歳上!
マリーもそのぐらいなのか! 二百はとうに超えたとは言っていたが。
「じゃあ長老衆とは? だいたい何歳ぐらいの方々なんですか?」
「長老衆は村の幹部だ。年齢ではなく、実力が問われる。私も長老衆の末席ではあるがな。」
「へー、アーさんやるんですね。」
そんな他愛もない話をしていたら遠くに見えるのは……イグドラシルか?
山岳地帯には何本かあるんだったな。ここのは少し細いようだが。神域がそんなにいくつもあるのか?
「もう着くのか……」
さすがのアーさんも唖然としているな、ふふふ。
「あそこの根元に降りたらいいですかね?」
「ああ、だいたいフェアウェル村と似たような造りになっている。門の前に降りてくれ。」
「はーい。」
一時間半ってとこか。フェアウェル村から真北ではなく北北東って感じかな。
門の前には二人ほど門番らしきエルフ。おお、男女ペアだ。しかも二人とも美形。これはエルフあるあるだな。
「久しいな、アーダルプレヒトシリルール。」
「今回はえらく早かったな。もしやそちらは人間か?」
「久しぶりだな。そう、この人間に連れてきてもらったおかげで二時間足らずで到着してしまったさ。」
「どーも人間でーす。カースと呼んでください。」
「よく来たな人間。俺はオルトヴィーンジャコモルトだ。」
「人間にしては中々やるようだな。私はギレィヌグローリオスコルネリア。強い男は種族を問わず歓迎する。」
どちらも美形のダークエルフ。片や筋骨隆々、片や黒ギャルか……しかもエルフにしては胸が大きい。しかし私の心に青い衝動など湧き上がらないがな。それはそれで淋しいかも知れない。でもまあ淋しい病気になるよりいいよな。いやいや私は初対面の女性を前に何考えてんだ?
「ではこいつを村長へ取り次いでやってくれ。」
「ああ、少し待っていてくれ。」
「さあこっちだ。ソンブレア村にようこそ。」
男性の方が村の奥へと向かい、女性の方が私達をどこかに案内するようだ。
「最初はお前からか?」
「ああ私からだ。よろしく頼む。」
「全力は尽くす。」
アーさんと黒ギャルが何かを話してる。アーさんが全力を尽くす?
「人間、お前はあっちだ。オルトヴィーンと村長に挨拶に行っておけ。」
「僕はカースですよ。ダークエルフさん。」
「すまんな。人間の名は覚えにくくてな。」
これはエルフあるあるなのか?
「こいつはうちの村では通称『坊ちゃん』と呼ばれている。よかったらそう呼んでやってくれ。」
またアーさんは……ニヤニヤしてる。
「そうか。坊ちゃんか。ほらオルトヴィーンが来た。付いて行くがいい。」
「分かりました。ではアーさん後ほど。」
一体何をするんだ? そういえば何しに来たのか聞いてなかったな。
「待たせたな。こっちだ。ではアーダルプレヒトよ、ギレィヌを頼んだぞ。」
「ああ。村長によろしく伝えてくれ。」
「では人間、行くぞ。」
「カースです。」
さすがに面倒になってきた。
「すまんな。人間の名は覚えにくいんだ。」
このやり取りは一体何回目だ?
少し歩いて村長の家へ。フェアウェル村の村長宅と違って普通だな。少し大きいログハウスってとこか。
「村長、フェアウェル村からの客人だ。アーダルプレヒトシリルールはギレィヌの所へ行った。」
「初めまして。カースと申します。」
「よう来なすった。ワシが村長のインゲボルグナジャヨランダじゃ。さて客人、アンタはここに何を求めて来なすった?」
見た目はフェアウェル村の村長よりだいぶ歳上だな。声からすると女性、ばあちゃんか?
「こちらの村は金属細工がすごいと聞きましたので、色々とお願いしたいと思ってます。」
「ほほう? 例えば何じゃ? 相応の対価はいただくぞ?」
「例えば、この宝石。アレクサンドライトですが、綺麗にカットして首飾りにできますか? しかも鎖にはこのオリハルコンを使用して。」
「ほっほっほ。無茶を言う客人じゃ。どれ、見せてみなされ。」
アレクサンドライトを手渡し、オリハルコンを村長の前に置く。
村長はアレクサンドライトの手触りを確かめたり目の前で観察したり。オリハルコンにも魔力を流したりさすったり。やはり無茶なのだろうか?
「ふぅむ。どうにかなるやも知れんな。では対価を示してもらおうか。」
「ならば外に出ましょう。たくさん用意して来ましたので。」
「ほっほっほ。それは楽しみじゃて。」
村長と私、そして門番男の三人で表に出る。さあ、魔力庫大開放だ。
「ほほう、これはこれは。中々やるではないか。」
「上物が揃ってるようだ。やるな人間。」
もう訂正するのが面倒だから放置しよう。名前が覚えられないのはお互い様だしな。
「一応説明すると、この辺りが南の大陸産の香辛料です。あっちはオースター海などで採れた海産物。このヒュドラ肉もオースター海ですね。で、これはローランド王国の王都で作られた酒『ラウート・フェスタイバル』と言います。それからあそこら辺は魔石ですね。ここらだと珍しくなさそうですが。」
「ほっほっほ。これはたまげたわ。いささか貰いすぎにも思うが、注文はまだあるのじゃろう?」
「ええ、まだまだあります。足りますかね?」
「先ほどの注文より難しくないのならの。オリハルコンで首飾りの鎖を作れなどと、ワシらを殺す気か。」
「ぜひお願いします! 魔力が必要なら出しますので!」
どうやらやってもらえそうだな。果たしてどれほどの時間がかかるのだろうか。
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