第817話 処刑執行中

ギルドの訓練場に現れたのは組合長だ。


「あんまうちの奴らを好き勝手に使われるとのぉ、こっちもちぃと困るぜぇ?」


「あら組合長? 小賢しいだけの闇ギルドがいつまでたっても無くならないから私が出張ってるんですわ? この際だから全滅させておいてあげますわよ?」


「何が目的じゃあ? クタナツの正常化なんて言うなよ?」


「目障りなネズミを駆除するのに理由が必要ですか?」


「ほぉ? つまり何かぁ。闇ギルドは逆鱗に触れたってことかのぉ? 『皆殺しの魔女』の逆鱗にのぉ?」


はっ、そうか。母上は昔私が三流の殺し屋に狙われた時もかなり怒っていた。今回も不甲斐ない私に怒ったこともあるが、殺し屋にもかなり怒ってくれているのか……これが母の愛……厳しいことを言っているけど全ては私のため……泣きそうだ……


「すぐ終わりますし、ここもきれいに使いますわ。来た時よりも美しくして帰りますよ。カースが。」


そう言ってから母上は組合長の耳元に口を近付けた。内緒話か。組合長は顔色を変えず聞いている。


「ふん、せいぜい気張れや。ワシが知ってる闇ギルドぁ全部潰れちまってるからのぉ……儲け損ねたぜぇ……」


なるほど、組合長にも情報提供を頼んだのか。




「カース、ここからこっちを闇雲で覆いなさい。アレックスはこの内部に消音をかけておきなさい。」


「押忍!」

「お、おす!」


「ではパーティーごと、または個人ごとに捕まえた者を連れて入ってきなさい。」


「はいーっ!」


冒険者は四人あたり二、三人ほど捕まえているようだ。かなりの数だな……クタナツにもこんなに闇ギルドの関係者がいたのか……かなり摘発してると思っていたが。


冒険者達は捕まえた奴を引きずり闇雲の中に入っていく。そして私は待つ。




だいたい五分後、外に放り出されるか、母上から『伝言つてごと』が届く。

内容は一言、『次』だけだ。私の役目は放り出された奴を惨たらしく殺すことか……

だいたい三人に二人が外に放り出されている。

気が進まない……進まないがやるしかない……


『麻痺』

『鉄塊』

『氷壁』


首から下だけに麻痺をかけて奴らを縛っていたロープを解く。そして仰向けに寝かせる。その口にはロープを咥えさせ、反対側には鉄塊で作ったささくれ立つ杭を括り付ける。それを氷で作ったギロチン台にロープで吊るす。顎の筋肉が限界になりロープを離すと杭が落下して自分を刺す仕組みだ。我ながら趣味が悪すぎる……


ぬっ、魔法を使って逃げようとする奴がいるか……『拘禁束縛』

麻痺だけだと魔法は使えてしまうからな。


開始から五分、最初の犠牲者が出た。そもそも大半が母上に何やら魔法を使われて頭がラリラリしてるような奴らだ。この方法は無意味だったか……まあいい。せっかく作ったんだからこのまま行こう。


意外にも途中で正気に戻る奴もいた。何か文句を言おうと口を開くのだが、そうすると当然杭は落ちる。正気に戻った分だけ苦しむハメになった哀れな奴だった。




こうして私は死んだ奴をその場で焼き尽くしたり、次から次へとギロチン台にセットしたりとかなり忙しく動くことになった。ちなみに首は固定してない。動けないのだから必要はないってわけだ。


日付が変わる深夜。ようやく全ての尋問を終えた母上が闇雲内から出てきた。闇雲解除。

ぬおっ、そこには二十人ぐらいの人間が無造作に積み重ねられていた。あいつらはまだ生かしておくのね。


「なるほどね。面白い方法を考えたものね。さすがねカース。やはりあなたは出来る子よ。」


そう言って私の頭を撫でる母上。やはり褒められると悪い気はしない。


「後六人だから先に帰ってもいいよ。」


あれだけたくさんいた冒険者達も大半がいなくなってしまった。捕まえた奴を母上に引き渡せば終わりだもんな。珍しそうに処刑現場を見物しているのが二十人足らずってとこか。

ちなみに死んだ奴は魔力庫の中身をぶちまける奴とそうでない奴が半々。やはり闇ギルドの奴らってぶちまけないように設定してるようだ。中身はロクな物じゃないから見学者に好きにしていいと伝えてある。残っててよかったね。


「まだよ。あれを騎士団に引き渡すまでね。アレックス、騎士団を呼んで来てくれるかしら?」


「はいお義母様!」


こんな夜中にアレクを一人で走らせるなんて……


「カース。あなたは私達夫婦の自慢の息子よ。もちろんウリエンもオディロンも。なぜかあなただけ過酷な運命を背負っているように感じるから、つい厳しく言ってしまったけど……」


「母上……」


「あなたの甘さはアランそっくり……だから心配なの……お願いよ。私より、私達より長生きをするのよ……分かってるわね?」


「母上……分かってる。約束するよ。」


くそ、泣きそうだ……私はこんなにも愛されているのか……


「カースはいい子ね。」


そう言って母上は私を抱きしめてくれた。暖かい……何か大きな優しさに包まれているかのようだ……

目の前では次々と処刑が進行しているのに……残り二人。




そこにクタナツ騎士団がやってきた。夜中のお務めご苦労様です。


「お務めご苦労様。あそこの者が闇ギルドの情報を持っている者共です。証言は全てとってありますが、まだ生かしておいてください。決して死なせないでくださいね。」


「ご協力ありがとうございます! 後はお任せください!」


次々と騎士達によって連行されていった。もしかしてあの騎士達の中にも汚職騎士がいるのだろうか……もしそうなら、悲しいな……

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