第815話 目覚めたカース

ここは?

確かクタナツの実家に戻ったはずだが……


痛っ……くない……胸の傷が治ってる。やはり母上に助けを求めて正解だった。ポーションを飲んでも傷が塞がらないし、何やら嫌らしい毒が回ってきたし。内心焦ってたんだよな。

ん? この温もりは……アレク。私を温めてくれていたのか。ありがたいことだ。いや、それよりもアレクが無事で何よりだ。

まだ頭がぼおっとするな、血を流しすぎたようだ。アレクが起きるまで寝てよう……




「カース?」


「おはよ。起こしちゃったかな。」


「カース!?」


「うん。アレクが無事でよかったよ。」


「カース!」


「よしよし。もう大丈夫だよ。不用意に部屋に突入したせいでアレクにまで怪我をさせちゃってごめん。もっと慎重に行くべきだったよ。」


「違うわ! 明らかに私のせいよ! 私のせいでカースは自動防御を解除してしまったし……」


それは……確かにアレクが私に飛びついてきたものだから、つい解除してしまった……


「多分だけど、解除してもしなくても関係なかったと思うよ。サウザンドミヅチの装備を紙のように通されてしまったんだから。」


自動防御を本気で張っていれば通さなかったかも知れないが、あの時のレベルだと傷が一センチ浅くなる程度かな。結構違うじゃないか。いや、そんなことはどうでもいい……


「アレク……あれはアッカーマン先生じゃないよね? 偽者だよね?」


「カース……」


「アッカーマン先生が僕やアレクにあんなこと……するはずが……」


くそっ、なんでだよ! なんで先生があんなことを!


「カース……」


「分かってる……偽者にあれほどの真似はできないよ……あれは本当に、本物のアッカーマン先生なんだね……」


「カース……」


「先生が毒針なんだね?」




それからアレクは話してくれた。アッカーマン先生の生い立ちから毒針の秘密を。つまりスパラッシュさんの先々代毒針はまだ生きている。死に損ないだが、生きているんだ……

そいつが依頼人ってことは、魔蠍のボスだったアンタレスが言ったセリフ『俺達の仕事に失敗はない』と関係があるのではないか?

保険会社の保険を引き受ける会社があるように、殺し屋のフォローをする殺し屋もいるのではないか? それが生きている毒針とその組織なのか?

くそ……何もかもぶち壊してやりたい……

スパラッシュさん……アッカーマン先生……何で私の好きなあの人達が殺し屋なんてクソ下らない仕事なんかを!


「アレク、このことは誰が知ってる?」


「ダミアン様とリリスだけ……セバスティアーノさんは死んだわ……」


なっ……セバスティアーノさん、謎の経歴を持つ凄腕執事じゃなかったのかよ! くそ、アッカーマン先生だと相手が悪すぎるか……


「ダミアンは無事なの?」


「ええ、無傷よ。リリスも、カムイもね。」


そうだよ、カムイだよ! カムイが居てなぜ!?


「カムイは先生といい勝負だったわ……でも、鼻に何かを振りかけられたみたいで……」


「そう……」


カムイの弱点もお見通しか……


「ゴーレムだってセバスティアーノさんが指示をしなければ何の役にも立たないわ。周到に用意されて後手に回った私達が甘かったのね……」


「そっか……済んだことは仕方ないね……それよりもアレクが無事で何より嬉しいよ。」


それはもちろん本当だ。ダミアンも心配だが、アレクを犠牲にしてまで守る気なんかあるはずがない。


「カース、お腹の具合は?」


「食欲はないかな。でも何かスープぐらいなら飲みたいかな。」


「待ってて! すぐ作るから! キッチンを借りるわ!」


シーツから飛び出たアレク。


「待った!」


「どうしたの?」


「スープはいらない。アレクに側にいて欲しい。」


「カース……」


今はただ、アレクの温もりを感じていたいだけなんだ。私はアッカーマン先生を相手に生き延びることができたのだから。くそっ!

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