第798話 動き出す時代

道場に行ってはみたものの……

アッカーマン先生は不在、いや体調が悪く寝込んでいるらしい。私に出来ることなどないので奥さん、ハルさんにヒュドラなどの海産物を渡しておいた。


では領都に戻るとしよう。ラグナはどうなってるのだろうか。


北の城門に向かう道中で騎士達とすれ違う。私は軽く会釈をする。


「カース・ド・マーティン殿か? お代官様が呼んでおられる。代官府にご同行願えぬだろうか?」


おや、代官だと? これはまたどうしたことだろう?


「いいですよ。何事ですか?」


「おそらく表彰関係だろう。先ほど家の方にも行ったのだが、無尽流道場に行ったと聞いてな」


表彰? 何のことだ? まあいい。ついでに代官にも毒針の話をしてやろう。




騎士達と世間話をしながら代官府へ。王都の動乱と私の殊勲の話をしておいた。


さあ、到着。代官の執務室に来るのもかなり久しぶりかな。


おっ、執務室には代官だけでなくアレクパパまでいるではないか。


「カース・ド・マーティン、お召しにより参上いたしました。」


「よく来てくれた。そんなに畏まらなくていい。もう我らは同格、そうだろう?」


そう言われても……


「は、はぁ……」


「騎士長は君の義父、私は君の義兄のようなものだ。さて、来てもらったのはまさにそのこと。勲章についてだ。クタナツの民が『勲一等紫金剛褒章』並びに『勲一等緋翠玉褒章』を殊勲されたのだ。私としても表彰しないわけにはいかない。」


なるほど。それはそうなのだろう。しかしよく知ってたな。


「そもそもその勲章は男爵や子爵位に匹敵する。その上、君の兄ウリエンと結婚したオウタニッサは私のイトコだ。だから我らはすでに同格だ。仲良くしようではないか。それで表彰の件だが、今年の秋の大会が良いのだ。今年はクタナツ開催だからな。そこで大々的に表彰式を執り行うつもりだ。少し先の話になるから詳しい日程は追って知らせる。ひとまず含み置いてくれ。」


「押忍! 分かりました。」


「カース……アレックスを頼んだぞ……」


アレクパパの絞り出すような声。まさか断腸の思いだったりするのか?


「押忍! ちょうど自分に契約魔法を掛けたばかりなんです。いわゆる不犯の誓いのようなものです。お嬢さんのことは最後の女だと思っています。」


ついでにソルダーヌちゃんとのことも説明しておいた。


「なんと……そこまでアレックスのことを……アレックスは幸せ者だ……」


今気付いたけど、お嬢さんをくださいって挨拶に行ってないよな? もう行ったことになっているのか? まあいいや。パパがこう言ってることだし。


ここでもヒュドラをお土産に渡す。どこでも喜んでもらえるのは嬉しいものだ。さらにダミアンと毒針の話もしておいた。さすがに全面協力とはいかないが、何か分かれば知らせてくれるそうだ。これで包囲網はバッチリではないだろうか。しかし顔も名前も分からない相手ってどうやって探すんだ? 年齢だって当てにならないし。


あ、ついでに国王の話もしておこう。代官は国王に心酔してるからな。


「なんと……陛下が退位されるのか……そして御自ら新しい王家直轄の街を拓かれると……」


代官は嬉しそうな顔をしたり悲しそうな表情をしたりと顔面七変化だ。何を考えてるんだ?


「騎士長。ソルサリエから海沿いに街道を北へ延ばすことは可能か?」


「私には何とも。予算と相談するべきでは?」


「予算など気にすることはない。必要なのは武力だ。王国最強のクタナツ騎士団が総力を挙げれば遥か北まで街道を延ばせるのではないか?」


「確かにヘルデザ砂漠の西端を通過する街道ができれば魔境への進出も進むでしょう。そしてもしも、陛下がお創りになられる新しい街と街道で結ぶことができたら……クタナツが王都になりかねませんな。」


「ふふふ、騎士長も意外に野心家だな。クタナツが王都か。ふむ、そうなると街道より先に建設しなければならないモノがある。カース、分かるか?」


いきなり私に話が飛んできた。街道より先だと? 知るかよ。普通に考えれば港って話になるけどさ。北はノルド海だぞ? 荒海だぞ? 港なんか作れるワケないだろ。となると……道の駅? 分からん!


「いえ、分かりません。」


「意外だな。簡単なことよ。答えは港だ。」


はぁ!? あんな所にマジで港だぁ!? 正気か代官?


「港と言っても王都の南、ポルトホーン港ほどの大規模な港は必要ない。陛下の御座船、バーニングファイヤーメガフレイムただ一隻が入港できる程度のサイズさえあればいいのだ。」


あ? バーニングファイヤーメガフレイム? 意味が分からん。どんだけ燃やしたいんだ? それが国王の船の名前なのか。趣味悪っ。

そりゃまあどの程度のサイズかは知らないが港は重要だよな。それによって国家、または街の格が決まると言っても過言ではない。ソルサリエ以上の一大事業じゃないか。どこからそんな発想に至ったかは知らないが、ぜひ頑張って欲しい。時代が動きまくってるな。

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