第776話 フランツウッド王子とカース

昼からは全員ウォータースライダーで遊んだ。半開きにしたり、パイプラインにしたり。一回転させたり、途中のレールを無くしてみたり。

王子も年相応の楽しい表情をしていたようだ。私と同級ぐらいだっけ?


スク水であるためマリーもアレクもポロリをすることなく楽しく遊んだ。ちょっとぐらい食い込んでもいいのに……おかしいな……

魔物もウヨウヨ寄って来たがオディ兄が全部片付けてくれた。海では近衛騎士も出番がないよな。何にしても楽なことはいいことだ。




三時のオヤツタイムを過ぎ、もうすぐ夕方。楽しい時間はあっという間だな。


「カース。先日約束していた魔法対戦だが、今からここで行わぬか?」


「え? いや、まあ……いいですよ。どんなルールにします?」


「開始の合図後、海に落ちた方が負けでどうだ?」


「いいですよ。いい勝負をしましょう。」


「おっと、待て。ハンデを貰えないか?」


こいつ、王族のくせに。でも正直な奴は嫌いじゃない。


「いいですよ。どんなのですか?」


「カースは海上二メイルより上昇しない、でどうだ?」


うーん、上下の動きが封じられるわけか……まあいいや。遊びだしね。


「いいですよ。」


「えー! カー兄とフランツ君が勝負するのー? 私もやりたーい!」


おおキアラ。お前の魔力は恐ろしいから私は対戦なんかしたくないぞ。


「キアラ、指輪だ。忘れたか?」


「あー、そうだったー。じゃあ見てるねー!」


なんだ指輪って! まるで二人だけの合言葉のように言いやがって!


「アレクサンドリーネ嬢。開始の合図を頼む。」


「かしこまりました。双方位置について……構え!」




「始め!」


私と王子は向かい合って海上に浮かんでいる。先手は譲るぞ?


『轟く雷鳴』


マジか……いきなり上級魔法かよ……

しかし残念。私に雷は効かないんだよな。それに自動防御もあるし。


『吹雪ける氷嵐』


海が凍るほどの低温の吹雪。しかし海が凍ったらどちらも落ちなくなってしまうぞ?


『舞い踊る砂塵』


ちっ、視界がなくなってしまった。何も見えない。さっきから王子の奴、やたら上級魔法ばかり連発してやがるな。


『降り注ぐ氷塊』


くっ、さすがにあれは自動防御で防ぐのは割が悪い。だから遠くに逃げる。対人戦でそんな魔法が当たると思うなよ? 『隠形』を使って身を隠してやる。さあ、王子よ。私を見つけられるかな?


『燎原の火』


マジかよこいつ……

海の上を一面の火で覆いやがった。居場所が分からないからヤケクソか? と思ったら私めがけて氷弾まで飛んできた! バレてるのか! ならば喰らえ『重圧』


「効かぬ! そのような遠距離から魔法を使っても私には効かぬぞ?」


ちっ、さすがは王族。魔力が高い。重圧で穏便に海に落としてやろうと思ったが……『水鞭』

あまり男に使いたくない魔法だが、こいつで手か足を捕まえて海まで引きずり込んでやろう。


なっ!?


私の水鞭が王子の足を拘束したと思ったら霧散していた。あれは前に見たことがある。母上がキアラの水壁を消し去った時だ。味な真似をしやがって……喰らえや!


『水球』


四方八方から襲いかかる直径三メイル程度の水球。もちろんホーミング、しかも衝撃貫通だって使ってある。さあどうする? 避ければ避けるほど数が増えていくぜ? 消せるものなら消してみろや!


消してる……


つまり、母上の魔力感誘にはまだ上があるのか?


それが今まさに王子がやっているこれなのか? 魔法が王子に触れると消滅していく……


『狙撃』


「ぐうっ!」


ほっ。さすがに狙撃は効いたか。大腿部を貫通したぞ。スク水だもんな。ならばこの攻め方で行くか!


何!?


王子の野郎、服装を変えやがった! スク水から厚そうな装甲のあるフルプレートアーマーへと。かなり上等な素材なんだろうな。興味深いぜ。


『連弾』


一秒間に五十発のライフル弾! それもワンホールショットだぜ? その高そうな鎧に穴を……開かんのかい! 嘘だろ!?


『魔弾』


嘘ぉ!?

ミスリルの弾丸で凹みもしないのぉ!? ならば近寄るとマズイか……


『徹甲連弾』


一秒間に十六発! いくら鎧は無傷でも衝撃は貫通するぜ?


王子は微動だにせず数百発近い徹甲弾を受けた。さすがに消すことはできなかったようだ。それなのにまだ海上に浮いている。さすがに王族の肩書きは伊達じゃないな。


『逆巻く激流』


ぬっ? まだそんな上級魔法を使う元気があるのか。いくら海が荒れ狂っても私の自動防御の前には無意味だぜ!


それでもかなり海が荒れてきたか……

いや、気のせいではない。通常の『逆巻く激流』以上に海が荒れている。真冬の日本海どころではない!


『降り注ぐ氷塊』


ここに来てまたこんな無差別魔法か! そんなの当たるかっぐぅお……


私は上から何かに叩きつけられ海に沈んだ。もちろん自動防御を張っているから濡れてすらいないが……


「ふぅ……どうやら私の勝ちだな。物言いはあるか?」


「いえ、ありません。僕の負けです。」


くそ、負けかよ。


「最後のあれは何だったんですか? 全然見えなかったんですが……」


「秘密だ。と言いたいところだが私の兄になるそなただ。教えてやろう。」


「あぁ!? 殺すぞテメー!? いや、ついうっかり本音が……」


「それは勘弁してもらおうか。教えてやるから許してくれ。」


いかんいかん。王族に殺すなんて言ったら普通に不敬罪とか反逆罪とかになってしまう。


「まあ、聞きましょうか……」


「火球を二発ほど撃つからよく見ておいてくれ。」


『火球』『火球』


見えているのは一発だけだ。しかし自動防御の反応からすると確かに二発……


「驚いたか? これは私の個人魔法だ。自分が撃った魔法を透明にすることができる。」


「あー個人魔法だったんですか。やりますね。」


「同じ相手に二度は通じぬ程度だがな。しかも魔力消費がただごとではない。役に立たぬ魔法よ。」


「でも王子ほど魔力があったらそんなこと気にしなくていいんじゃないですか?」


あれだけ上級魔法を連発しておいて。まだまだ余裕がありそうに見えるが。


「私に魔力がある? ふふっ、キアラ。ほら、約束の指輪だ。先ほどは助かったぞ。」


「わーい。かわいー! フランツ君ありがとー!」


助かった? 何のことだ?


「カース、キアラの個人魔法を知っているか?」


「え!? キアラも個人魔法を持ってるんですか!? 初耳ですよ!」


「それこそがキアラの真の魅力と言ってもよい。キアラは、魔力をな、他人に分け与えることができるのだ!」


あれ? それ知ってるぞ? 個人魔法だったの!? 私だってそれに助けられたんだから。


「つまり先ほどの対戦は私とキアラ対カースだったのだ。そなたが負けても何の不思議もない。あれだけ手加減をしてもらった上にハンデまで貰ったのだからな。」


なるほど。それは気付かなかったな。キアラの奴、直接触れなくても魔力を渡せるのか。


「キアラ、魔力は大丈夫か? 減りすぎてないよな?」


「大丈夫だよー。えへへー、見て見てー! かわいー!」


キアラの指にはキラリと光る指輪、ん? ミスリルか? そしてきれいにカットされた宝石まで付いている。よーし、私もアレクにはもっといい指輪をプレゼントするぞー!


こうして海を後にした私達だが……


はて? 何かを忘れている気がするのだが……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る