第733話 辺境伯家の上屋敷とギルド

ゼマティス家に帰ってみれば、伯母さんもお姉ちゃんもいなかった。王城に出かけたらしい。そりゃそうか。

ならば私達もどこか外へ行こう。例えば王の海鮮亭なんかどうだろう。

海鮮料理をたらふく食べて宿でアレクとしっぽりと。よし、すぐ行こう。営業していればいいのだが。そして明日王都を発つ。盗賊問題が解決してないが、構うことはない。


その旨をメイドさんに伝えて出発だ。ゼマティス家の馬車は出払ってるので歩きだな。




歩くこと約一時間。到着したのだが結構荒れている。壊滅ってほどではないが、おかしいな。第二城壁内って貴族エリア以外は無事ではなかったのか? なぜ今になって荒れているんだ?


せっかくの高級宿が台無しではないか。入ってみよう。入り口は閉ざされていないので。


「こんにちは。やってますかー?」


「お客様、申し訳ありません。見ての通りの状況でして……お出しできるものがないんです……」


「ちなみに何があったんですか? 白い奴らに襲われたにしてはタイミングが変ですよね。」


「それが、教団の奴らがいなくなったと思ったら今度は盗賊らしき奴らが……昼に夜にと、騎士団が来ないのをいいことに盗み放題なんですよ……」


なんと!

もう盗賊来てたのか!


「盗賊ですって? 何人ぐらいだったんですか?」


「うちに押し入ってきたのは十人もいませんでした。そんな小さな集団がいくつもあってあちこちを襲っているようでした。」


手際が良すぎないか?


「アレク、どう思う? 盗賊にしては統制が取れてる気がしない?」


「そうね。大抵の盗賊は目の前のもの全てを奪うものよね。それも後先考えずに。それにしてはこのお店でも盗るものを選んでいる節があるわ。女将さんだって生きてるし。」


「しかも細かいグループに分かれて動けるなんてとてもそこらの盗賊じゃないよね。陛下が心配するのも当然かもね。」


てっきり全員でまとまって一気に来ると思ってたら……王都の混乱につけ込んで少人数グループでコツコツ狙うとは……ただの盗賊ではないのか?

押し入られたのに生きてるんだもんな。


「女将さん、現在陛下は王城の取りまとめをしているようです。それが済めば直ちに鎮圧に乗り出すでしょう。それまで命を大事に頑張ってください。また来ます。」


あーもー面倒だな。王城の門番さんにでも伝えておくしかない。でも、このぐらいのことは王宮側でも把握してるはずだよな?


「ねえカース。ギルドに行ってみない? あれからどうなったのか気になるわ。」


「それもそうだね。行ってみようか。」


すっかり忘れてた。冒険者は他の街を訪れたらギルドに寄るのがマナーだったな。ちなみにすでに勲章は外している。




到着。掘立小屋みたいなのがいくつか建っていた。まあ再建はこれからだよな。


「こんにちは。クタナツの十等星カースと言います。何か僕宛に伝言は届いてますか?」

「同じく八等星アレクサンドリーネよ。何かあるかしら?」


私達はギルドカードを受付さんに手渡しながら挨拶をした。


「ま、魔王……さん? 氷の……女神様?」


やっぱり私は『さん』でアレクは『様』なんだよな。まあいいけど。


「そうですよ。ちなみにギルドの盗賊対策はどうなってますか?」


「え、ええとお待ちを……まず伝言は、ありませんね。それから盗賊対策ですが、賞金が掛かってます。一般が銅貨五十枚、幹部が金貨一枚、頭目なら金貨三十枚です。」


えらく差が激しいな。まああれだけのことをやってのけたんだ。頭目が厄介なのは当然か。狙う気なんかないけどね。よし、帰ろう。


「行こうか。やり残したことはないよね?」


「ええ、問題ないわ。帰りましょ。」


そんな時、どこかで見た三人組が現れた。


「魔王さんチワス!」

「チャス! 魔王さん!」

「ゴクロッス魔王さん!」


思い出した! デビルズホールで絡んできた奴らだ。


「おー、お前らか。よく生きてたな。何か困ってるか?」


「アザっす!何とか生き残れました!」

「魔王さんの活躍は聞いてるっす!」

「おかげ様で助かってまっす!」


「そうか。盗賊で大変だろうが気張りな。ほれ、これで旨いもんでも食うといい。」


金貨一枚を弾く。今の王都で果たして食事ができるかどうかは知らないが。


「アザっす!」

「ゴチっす!」

「イタッキやす!」


「もし、何か急用でもあったらゼマティス家まで伝えておきな。明日には王都から居なくなるもんでな。月末にはまた来る。」


「ハイっす!」

「オスっす!」

「リョっす!」


コミカルな三人組だなぁ。




「ねぇカース? あんな奴らに金貨なんかあげてよかったの?」


「うん。あんな奴らでも何かの役に立つことがあるかも知れないと思ってさ。」


普段は役に立たない奴が最終決戦的な戦いで思わぬ活躍をするのは何あるあるだろうか? ふとそれを期待してしまったんだよな。でもローランド王国で最終決戦って何だ? 外国は攻めて来ないぞ? まあローランド王国も外国を攻めることなど不可能だが。

今度こそ帰ろう。


「待てやぁ〜、見ぃたぜぇ〜? おめぇいい金持ってんなぁ? しかもい〜い女連れてよぉ? 俺にも寄越せやぁ? お?」

「俺も見たぜ? 金が余ってんだろぉ? 置いてけやぁ? 坊っちゃんよぉ〜?」


久々のパターンだ。どうしよう?


「金がいるのか? いくらだ? 貸してやるぞ?」


「お〜分かってんじゃねぇかよぉ〜あるだけ金貨置いてったら女もおめぇも無事に帰れるぜぇ?」

「騎士団なんか来ねぇからよぉ? 誰も助けちゃくれねーぜ? 早く出しな。」


「では約束だ。金貨を十枚ずつ貸してやる。利息はトイチの複利。一ヶ月支払いが止まったら呼吸も止まるぜ?」


手の平から金貨を二十枚、地面に落とす。いい音がするもんだ。


「ほぉー、素直なガキは長生きするっぜぉっな」

「どれどれ金貨十枚かっのぉねっ」


少し遅かったが問題なく掛かったな。契約魔法の弱点は相手が話を聞いてないと効かないんだよな。現金を目の前にして警戒が緩んだな。まあ元々警戒なんてしてないんだろうけど。


「い、今の魔力は……」

「契約魔法……?」


「正解。せいぜい働いてしっかり返済しろよ。何でさっきの三人組がペコペコしてたか、この服装見ても分からんか?」


「あ? 今時そんな魔王スタイルなんか……」

「魔王スタイル!?」


さっきからもう一人の奴は察しがいいな。


「そうだよ。自分で言うのは嫌だが魔王こと金貸しカースだよ。お前らはもう逃げられない。じゃあ元気でな。」


「ま、待ってくれ! お、俺計算ができねぇ! いくら払えば許してくれんだぉ!」

「お、俺もだ! 助けてくれよぉ!」


「それなら今すぐ払えばいいだろ。金貨一枚ずつ出しな。それとそこの金貨を拾って寄越せ。それで終わりだ。」


「あ、あおあ……分かったぁ!」

「は、払うから助けてくれ!」


結局こいつらから金貨二枚を余計に貰い、さっき三人組にくれてやった金貨と差し引きで一枚の儲けか。何もしてないのに。

でもまさかこの場で払うとは。長く時間をかけてくれないと儲からないじゃないか。

でもあいつらよく私が本物だって信じたよな。こんな服装の子供なんてたまに見るぞ?

素材は段違いだけどさ。


色々あったけど、ただの散歩も悪くないものだ。さあ帰ろう。そしてゼマティス家で夕食を。

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