第702話 罪と罰

夜も更けた。少し眠いがまだ寝るわけにはいかない。最後に残ったエルフを誘き出さないとな。


私とマリーとお兄さんで焼け落ちたギルドまでやって来た。アレクには見せられないことをするのだ。


死にぞこなったエルフ、ガブ何とかをミスリルボードに乗せて五メイルほど浮かべる。


「命令だ。そこで踊ってろ。」


「くっ……」


「それから大声で助けを呼びな。拡声を使ってもいいぞ。三十分経過して男が現れなければ……」


『テーゲンハルトぉー! 助けてぇー! お願いぃー! 私まだ死にたくないのぉー!』


「心配するな。絶対死なせねーからよ。」


夜だが光源の魔法を使っているので、女エルフの姿はよく見える。ひょろひょろと無様な踊りだ。アレクの鋭いステップを見習いやがれ。


十五分経過。男エルフは現れない。


「おい! 来ねーじゃねーか! もっとしっかり呼べや! それとも捨てられたか? 可哀想にな! でもまあそんな貧相な体じゃ捨てられても仕方ねーな! この腐れブスエルフが!」


『うわぁあぁん! だずげでよー! デーゲーン! ごんなのってないよぉおおーー!』


「そうそう。せいぜい大きな声で助けを呼びな!」


「さすが魔王……よくこんな手を思いつくもんだ……」


「同性、しかも同郷の私としては見るに耐えないのですが、あやつの罪を思えば……致し方ないかと……」


お兄さんもマリーもドン引きしてる。私だって好きでやってるわけないだろ。姿を現さない最後のエルフが悪いんだ。おっ、生き残った冒険者がちらほら現れたぞ。こんな時に何やってんだって気になるよな。







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「さーて、そろそろ時間だ。どうやらお前は捨てられたようだな。まあ心配するな。俺が飼ってやるからよ。時々餌もやるから死にはしないさ。」


そう言ってミスリルボードを少しずつ降ろす。


「マリー、現れる気配はない?」


「ええ……ありません……坊ちゃん……」


そんな悲しそうな顔をしないでくれよ。あいつらの所為で何人死んだか分からないレベルなんだから。


そしてミスリルボードは地上に降りる。女エルフを取り囲む冒険者達。







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それから五分。伝言の魔法でこっそり命令を送る。『………………』







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それから二十分。現場にコーちゃんがやって来た。


「ピュイピュイ」


え? 何だって?


「ピュイッピ」


何と! 最後のエルフがゼマティス家を襲ったのか! 人質交換でも狙ったのか? それにしてもツイてない奴だな。母上に敢え無く制圧されたと。さすが母上、エルフだろうと敵じゃないな。


よし、それなら帰ろう。今さら吐かせる情報なんかなさそうだけど、落とし前は必要だもんな。


「おい、兄さん方よぉ。そろそろ時間切れだ。」


文句を言いたそうな奴の方が多かったが、知ったことではない。お時間五分前でーす。延長できませーん。


「お待たせ。さあ帰ろうか。まだまだ解決とはいかないだろうけど、少しは前進だよね。」


「そうですね……」


マリーには悪いが同胞の犯した罪が大き過ぎるよな。遊びで王都をぶち壊して大勢の人間を死なせたのだから。


それにしても、母上がいてくれるから守りを気にせず動けたのは大きいよな。まだまだ油断はできないけど。白い鎧と紫の鎧の奴らがいるだろうし、教団の幹部もいるだろう。狂信者なんか何人いるか分かったもんじゃない。その上盗賊まで来るとか。王宮は何やってんだよ。まああっちはあっちで大変なんだろうけどさ。


ちなみにエルフ女は歩けないようなので這ってこいと命令した。そして臭いので十歩離れて付いて来させている。外道にはそれが相応しい。せいぜい罪の重さを感じながら這い蹲ってやがれ。

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