第703話 ひとときの団欒

ゼマティス家に到着。歩いたから時間がかかってしまった。


「ただいまー。こっちに現れたんだって?」


「お帰り。ええ、取り押さえておいたわ。」


あなたの好きなお菓子があったから、ついでに買っておいたわってトーンだな。さすが母上。


このエルフはテーゲン何とかって言ったな。憎しみ全開で私を睨んでいる。なのに何も喋らないしピクリとも動かない。母上が何かやったな?


「母上、こいつに情報は吐かせたの?」


「ええ、だからもう用無しよ。そっちのエルフと同じ程度の情報しかなかったわ。完全に遊びね……」


さすが母上。仕事が早い。実家を壊された母上の怒りはいかほどだろうか。ならばあまり意味はないが、この男エルフには絶望を与えてやろう。女エルフ、ガブ何とかに伝言つてごとで命令を出す。『……………………』


「テーゲンハルトさー、今さら何しに来たの? 私はもうアンタなんか用無しよ? 私はこれからご主人様に飼っていただくの。じゃあねー。」


汚い格好に顔だけハッピー。そんな状態の女エルフに用無し宣告をされた男エルフ。命がけで助けに来たのに可哀想に。無駄だったね。視線で殺せるほど私を睨んでいるが、何も喋れない。目からは大粒の涙が溢れている。ざまあみやがれ。どうせお前らは一生奴隷なんだからよ。せいぜい苦しみやがれ。


「じゃあ今夜はこんなところかな? そろそろキアラが来てもいい頃だけど。」


「そうね。来ないなら仕方ないわ。休みましょうか。」


そう言って母上とアステロイドクラッシャーの面々はゼマティス邸に入っていった。私とコーちゃん、そしてマリーとお兄さんは辺境伯家上屋敷に戻って寝ることにした。


男エルフは母上が何か魔法をかけているようで、やはり先ほどから少しも動いていない。ならば私も。


「命令だ。お前は門の前で立ってろ。朝まで誰も入れるなよ。 教団の奴らは見かけ次第殺せ。」


「はい……」


ついでだから門番をさせよう。別にそのまま死んでも構わないしね。


「お待たせ。帰って寝ようよ。今日は疲れたよね。」


「坊ちゃん……」


「これが魔王か……」


二人して何だよー。まだまだ解決してないけど、首謀者だけでも潰したんだから褒めてくれよ。あー早くアレクの元に帰りたいぜ。




到着。キアラ達はこちらに来るはずだが、まだ来ていない。少し心配だな。


「夜の見張りは俺がする。君らは休んでくれ。」


「分かりました。お願いしますね。」


さすがお兄さん。ダミアンの兄とは思えない責任感だ。


「カース!」


アレクが飛びついてきた。可愛いやつめ。


「ただいま。残る二人のエルフを捕まえたよ! ゼマティス家に置いてきたけどね。これで残るは教団の幹部達だね!」


「すごいわ! さすがカースね! エルフと言えど敵じゃないのね!」


まあ半分は母上なんだが、別にいいか。


「だから疲れたよ。もう寝よう。それからマリーをいい部屋に案内してあげてくれる?」


「ええ、もちろんよ。ソルー!」


しかしやって来たのはソルダーヌちゃん、ではなくエイミーちゃん。


「ソルダーヌ様は手が離せませんので、私が代わりに承ります。」


「こちらのマリーさんを一番いいお部屋へご案内してあげて。」


「え、いや、お嬢様、私はそんな……」


「いやいや、わざわざクタナツから来てくれたんだから当然だよ。今日だってマリーがいたから無茶できたんだから。」


「こちらでございます。」


「え、で、ではお言葉に甘えまして。お先に失礼いたします。坊ちゃん、お嬢様。」


「おやすみ。今日はありがとね。」

「おやすみなさい。ありがとうございました。」

「ピュイピュイ」


「さあ、僕らの部屋はどこだい? いや、その前にお風呂だね。ここの風呂はどうなんだろう。」


「そうね! それがいいわよね! 行ってみましょう!」


「ピュイピュイ」


アレクは結構ご機嫌だ。コーちゃんは先に寝るのか。おやすみ。




アレクに案内されて到着したのは大浴場。各部屋にも小さい風呂ならあるのだろうが、このような大浴場に二人きりってのも乙なものだ。


うーむ、お湯が汚れている。きっと大勢入ったんだろうな。水や湯をきれいにする魔法なんか使えないから、全部抜いてしまおう。それから新しくお湯を入れよう。今の私はわざわざ水から沸かさなくても、いきなりお湯を出すこともできる。全く、魔法は便利だなぁ。


それにしても広い湯船だ。ゼマティス家の何倍あるんだ? これは大理石かな? 高級感が素晴らしい。備え付けの石鹸も上品な香りがするし、さすがは辺境伯家だ。ここには白い奴らが侵入しなかったのか。ラッキーだった。

風呂では少しだけイチャイチャして、続きは寝室にて。はてさて明日はどうなることか。






その頃、ゼマティス家では。


「イザベルさん、来てくれてありがとう。主人も義両親も子供達も、誰もいなくて参ってたの。」


「帰ってきたのは何十年ぶりかしら。お義姉さんには苦労をかけますわ。自由な人間の面倒見は大変ですわよね。」


「本当に。カース君とアレックスちゃんがいなかったら私は死んでたし、ゼマティス家はもっと荒らされてたわ。」


「カースが役に立ったようで何よりですわ。あの子ったらやっと魔力を取り戻して。」


「不思議な魔力になってるわね。まるで魔法を覚えたての子供のように、ほとんど感じないわ。」


「カースの魔力なんて分からないことだらけ。考えても無駄ですわ。それよりカースの妹が…………」


女傑二人のおしゃべりはその後しばらく続いた。アステロイドが入浴の礼を言いに来なければ朝まで続いたことだろう。


「じゃあお義姉さん。私もお風呂をいただいて、休ませてもらいますね。」


「ええ、来てくれてありがとう。頼りにしてるわ。」


そんなイザベルの後ろを影のように付き従うアステロイド。行き先は風呂ではないのか?




入浴後、甲斐甲斐しくイザベルの体を拭くアステロイド。一流の冒険者は一流の召使いでもあるのか。


そしてイザベルが向かったのは、アステロイド達パーティーの部屋だった。夜はもうすっかり更けている。

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