第687話 教団の黒幕

「もう少し詳しく言えよ。何が止められないってんだ?」『落雷』


こいつには効くなぁ。


「ぐっ、教団の信徒がどれほどいると思っている……一万や二万ではないのだぞ……」


ふーん、マジでクーデター? それとも一揆的な? ならば目的は? 総代教主は国王にでもなりたいのか?


「で? 何がしたいんだ?」


「神の教えに従わない不届きな者共に天誅を与えるのだ……」


うわ、こいつマジだ。イカれてやがる。もしかして王都中で信者? 信徒? が暴れてたりするのか? それはさすがに騎士団でも抑えられないだろうな。いくらなんでも多すぎる。とりあえずここを更地にしておけば多少は狂信者にもショックを与えられるのではないかな?


「もういいや。死んどけ。」


『火球』


「まっ、待っとぁ!」


結局こいつが何者か分からなかったなぁ……


「よし、アレク。ここをぶち壊すよ。アレクも思いっきり魔法を撃っていいよ。」


「分かったわ。何だかすごく悪いことをしている気分ね。」


悪いことなんか何もしてないさ。世のため人のため、悪は絶対許さない。私達は正義の味方なのさ。


おっ、アレクはお得意の氷塊弾で壁をぶち抜いている。コーちゃんはアレクと一緒にいてね。「ピュイピュイ」


私はあの鎧をゲットしておこう。金操が効かないなんて珍しいからな。気持ち悪いけど死体ごと収納だな。一つだけ残しておいて実験。私の火球で融かすことはできるのか?


『火球』


ちっ、全然融けない。周りの石壁は溶けているのに。

魔力多めで……『火球』


それでも融けないのかよ! まあいいや。また後日チャレンジしてみよう。


「あーあ。めちゃくちゃされちゃった。」


ぬおおっ!? びっくりした! どこから来たんだこいつは! いつの間に!?


「教団のモンか?」『狙撃』


うおっ! 跳ね返された……今の魔法って……


「お前……自在反射を使えるんかよ。何モンだ?」


オマケに他の魔法も使ってるな? 白いローブで顔がさっぱり見えない。


「へぇ、自在反射を知ってるんだ? 君こそ何者だい? 感じる魔力と使ってる魔法に差がありすぎなんだけど?」


「約束だ。名乗るからお前も正直に言えよ?」


会話を終える度に魔法を撃ってきやがる。アレクは私の後ろに移動済みだ。


「ふふっ、いいだっろおぁ……へえ、契約魔法かい? 鮮やかなものだ。」


「俺はカース・ド・マーティン。お前の名前と出身を言え。」


「ボニファティウスデトレス。出身はフェアウェル村。ふふっ、恐ろしい契約魔法だ。」


「やっぱエルフかよ。エルフが人間の国のど真ん中で何やってんだ? 勇者ごっこか?」


王都は位置的には全然真ん中じゃないけど。


「何をやってるかと聞かれれば……遊んでいるってことになるな。勇者ごっこかと聞かれれば、違うな。」


意味が分からん。こいつらってどいつもこいつも意味が分からん奴だらけだろ。

それにしてもスラスラ喋りながら魔法をチクチク撃ってきやがるな。


「この教団を作ったのはお前か?」


「違うな。」


「じゃあこの教団で何やってんだ?」


「そりゃ遊んでるのさ。神の声を聞きたがってた人間がいたからさ、聞かせてあげたのさ。そしたら神を信じちゃってさ、神はこーんな姿をしていると知らせたのさ。そしたら僕のことを神様だってさ。バカだよなー。」


えらく楽しそうに話すな。あぁ、遊びだからか。人間を操る遊びか。黒幕あるあるだな。人間を使ったリアルなロールプレイングゲームってわけか。


「全部言えよ。神の声を聞かせた方法から、教団が大きくなった秘密。そして、あの毒の秘密もな。」


「逆らえないから言うけどさ。自在反射を知ってるのなら伝言つてごとの魔法だって知ってるんじゃない? 少し声を低めにしてさ……『我は神なり。使徒ジャックモンドよ。そなたの信仰心に祝福を与える』なんて言ってやったら一発だったな。」


確かに渋い、いい声だった。真似してみよう。


『私は神だ。全てのエルフを殺し、そして私も消えよう』


「おおー、伝言使えるんだな。威厳溢れる声じゃん。君も教団作ったら?」


「いいから続きを言え。どうやって大きくした?」


「簡単だよ。金貨を月に一枚払った奴に神の声を聞かせてやったのさ。どうせ魔力が低い奴を相手に伝言は使えないもんな。それだけの金を用意できるのは裕福な奴。そんな奴には魔力も高いから伝言も届くってわけだ。」


なるほど。後は口コミか。金を払えば神の声が聞こえる。そんなのでよく何万人も集まったよな。たぶん金を払っても聞こえない奴とかもいたんだろうな。それで逆にリアリティが出てしまったと。


「集めた金の使い道は、あの鎧か?」


「たぶんそうだよ。まあ僕の指示じゃないからね。神の国を作るとか言ってた気がするな。」


「で、毒の秘密は? どうすれば、あれほどの猛毒を作れる?」


「はあ、本当に何かも吐かせるんだな。エルフはみんな知ってるんだけどさ。『死汚危神ダイオキシン』って知ってる?」


「名前だけな。」


「あれって訳あってエルフじゃないと作れないんだけど。エルフの作り方で人間が作ったら出来たってだけ。」


「だから本物ほど危険じゃないってことか?」


「その通り。で、作り方なんだけど、要は自分を生贄にして魔法で毒を作るだけ。エルフの間では『禁術の毒』とか言われてるな。」


「ふぅん、じゃあ総代教主か誰かがその魔法を使ったってことか?」


「正解。総代教主が使ったよ。神の御許に行ける魔法だって教えたら喜んで使ったよ。」


「じゃあ今は誰が総代教主をやってんだ? のんびり話してる場合じゃないんだがな。」


これは嘘。私としては狂信者が暴れようが知ったことではない。サンドラちゃんが少し心配かな。後で寄ってみよう。


「ん? 総代教主のジャックモンドは生きてるよ? 地下深くで毒の沼に溺れてるかな。」


「ん? 生贄なのに生きてるのか?」


「ああ、少し違うな。あの魔法は正確には『禁術・毒沼』と言うんだけどね。使ったら最後、周囲は神すら殺す毒の沼で覆われるのさ。しかし術者はその沼の中心に囚われて、死ぬことも許されずいつか全ての毒がなくなるまで苦しみ続けることになるわけさ。まあその魔法を使うのも結構大変なんだけどな。」


うっわ、きっつ。さすがに可哀想になってきた。トドメを刺してやりたいが、方法が分からん。毒がなくなるっていつの話だよ。もういいや。


『榴弾』


お前もミンチになれや。


ちっ、半分ぐらい返された。やるな。しかし数百発は半分でも数百発。粗挽きミンチの出来上がりだ。


「ぐふっ、酷いな、正直に話したのに、ただで、は死なない、よ……」


さっきからずっと、いや今この瞬間も攻撃してるくせに何言ってやがる。


『麻痺』『重圧』


「死にたいか、死にたくないか選べ。」


「死にたく、ないに、決まってる……」


「エルフはお前一人か? 俺に従うなら助けてやるぞ?」


「もう二人いる……そいつらは現場で動くタイプだ……助けてくれ……」


「では約束だ。このポーションをくれてやるから俺に絶対服従な。」


「ああっ、分かっとぁぐっ!」


あらら、死んでしまった。残念。深手だったから時間切れかな? それとも何か別の契約魔法でも仕掛けられてたか? まあいいや、多分ショック死だろうし。よし、一応収納しておこう。


「お待たせアレク。続きをしようか。」


「こんな呑気なことしてていいの? 知らせたりしなくて……」


「いいよいいよ。王都の騎士団は柔じゃないから。きっとね。ついでに金目の物もいただいていこうね。」


「それもそうね。張り切ってやるわよ!」


「ピュイピュイ」


え? お酒が欲しい? 分かってるって。じゃあ厨房から行ってみようね。


「ピュイー!」

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