第686話 王都出発の朝

そして翌朝。今日の昼には王都を発つ。やり残したことはないよな?


「では伯母様、また来ますね。お邪魔しました。ギュスターヴ君のことはウリエン兄上に相談してみたらいいかも知れません。」


「そうね。ご心配ありがとう。シャルロットとギュスターヴはあれから出て行ったきり帰ってこないし。」


「シャルロットお姉ちゃんが一緒なら大丈夫ですよ。では伯母様、お元気で。」


「あなた達もね。じゃあこれ、イザベルさんへの手紙ね。」


そして馬車に乗ろうとしていたら、門番さんが慌てて伯母さんのところにやって来た。


「大変です奥様! 屋敷が妙な連中に囲まれております! あれは確か教団の奴らかと!」


何だと!?


「分かったわ。私が出るわ。」


そう言って伯母さんは躊躇いもなく門から外に出た。私も後ろに付いて行く。


「ここをゼマティス家と知っての狼藉であろうな! 代表者は姿を見せよ!」


うおお! 伯母さんカッコいい! 凛々しいぞ!


『神を畏れよ』『神を敬え』『神に跪き』『神に赦しを請え』『神は偉大なり』『神は慈悲深く』『神は悪を赦すまじ』『神を畏れよ』『神を敬え』『神に跪き』『神に赦しを請え』『神は偉大なり』『神は慈悲深く』『神は悪を赦すまじ』『神を畏れよ』『神を敬え』『神に跪き』『神に赦しを請え』『神は偉大なり』『神は慈悲深く』『神は悪を赦すまじ』『神を畏れよ』『神を敬え』『神に跪き』『神に赦しを請え』『神は偉大なり』『神は慈悲深く』『神は悪を赦すまじ』……………………

……………………

…………

……




キモ……

何だこいつら……

伯母さんもキモくて関わりたくないって顔をしている。

それでも奴らはじりじりと近寄って来る。


そもそもここは第三城壁内だぞ? どうやって入り込んだんだ? これだけもの人数が! 騎士団は仕事してないのかよ。


「取り敢えずここは僕が何とかしますので、伯母様は中をお願いします。他から入り込んでる奴がいるかも知れませんので。」


「必要ないわ。この屋敷に門以外から入ることなどできない。黙って見てなさい。」


「押忍!」


伯母さんカッコよすぎだぞ! 上級貴族モードバリバリだ!


「下郎! 私に触れるな!」


『吹き荒れる暴風』


街中で上級魔法かよ……無茶するなあ。白い奴らは上空に巻き上げられたり、遠くに吹っ飛んだりしてる。


それでもまだいる。白いゴキブリだな。


『神を畏れよ』『神を敬え』『神に跪き』『神に赦しを請え』『神は偉大なり』『神は慈悲深く』『神は悪を赦すまじ』『神を畏れよ』『神を敬え』『神に跪き』『神に赦しを請え』『神は偉大なり』『神は慈悲深く』『神は悪を赦すまじ』『神を畏れよ』『神を敬え』『神に跪き』『神に赦しを請え』『神は偉大なり』『神は慈悲深く』『神は悪を赦すまじ』……………………

『神の雷』『神の雷』『神の雷』『神の雷』『神の雷』『神の雷』『神の雷』『神の雷』……………………


一斉に魔法を使いやがった。一つ一つは大した威力ではないようだが、あれだけの数が集まれば少しは効くのか? 伯母さんはとっさに避雷を使ったようで効いてない。


『神の火』『神の火』『神の火』『神の火』『神の火』『神の火』『神の火』『神の火』……………………


おっ、中々大きな炎だ。伯母さんは氷壁で防いでいる。こいつら街中でここまでやらかしたら、もう後戻りできないよな? とことんやるのか?


『渦巻く波濤』


だから伯母さんたら街中で使う魔法じゃないだろ。後先考えてないのか? 大量の白い奴らがまるで洗濯機の中のように撹拌されて、やがて一ヶ所に渦高く積み上げられた。


なのに……まだいるのかよ……何人来てんだよ……


「伯母様、ちょっと教団に行ってきますね。ここは任せていいですよね?」


「好きにしなさい。」


「アレク、行こうか。」


「ええ! 行くわ!」

「ピュイピュイ」


コーちゃんも行こうね。




もちろん隠形を使い空から到着。まずは素直に正門をぶち壊す。

もっとゾロゾロ出てくるかと思ったら、誰も出てこない。あ、全員でゼマティス家の方に行ってるとか?

それならそれで家探ししてみようか。金目のものはないかなー。


お、廊下の向こう側から歩いて来る奴がいる。


「よく来たな。死ね」


呑気にスタスタと現れたと思ったら、いきなり剣で襲ってきやがった。『狙撃』


剣を撃ち抜き、肩も貫いた。


「お前は幹部か?」


「くっ、殺せ!」


『狙撃』額を撃ち抜いておいた。


「他にもいるかも知れないから気をつけようね。」


「ええ、この剣には毒が塗ってあるみたいだし、注意しないといけないわ。」


「ピュイピュイ」


とりあえず今の奴が来た方へ進んでみよう。最終的には更地にするか、丸焼きにしてやろう。伯父さんがいないタイミングでゼマティス家にケンカ売りやがったんだ。ぶっ潰してくれよう。


おっ、広そうな部屋だ。何の部屋かな? 入ってみよう。ドアの感じからすると会議室的な?


「ようこそ。我が教団へ。まあお茶でも飲んでいきなさい。」


おっ、服装が違う。同じ白だが、装飾が多いな。このジジイは幹部か?


「どーも。残念ながら今日で解散だ。ここは更地にするからよ。今逃げたら助かるかもな。」


「ほう? ワシの茶が飲めんと言うのか? そんなに怖いのか?」


怖くなんてないやい。じゃあ飲んでやるよ! とはならない。私達にも効く毒があると分かっているんだから飲むわけがない。


「せっかく淹れたんだ。自分で飲むといい。うまそうなお茶じゃん?」


「魔王も噂ほどではないな。問答無用で殺しにくるかと思えば、甘い甘い。」


私は姉上とは違うのだ。いきなり殺すなんて真似をするはずがない。まずは会話が大事だと考えている。だから周りを囲まれていても気にしない。ゾロゾロと現れやがって……紫の鎧だらけだ。


「偽勇者と同じような紫の鎧か。ローランド王国にない製法ってことは東の国、ヒイズルか?」


「さあな。君は金操がお得意なようだが、やってみるといい。」


『金操』


あら、全然動かない。まるでそこらの石ころに魔力を流したかのような手応えのなさ。


「やれ!」


一斉に襲ってきた。

ならば『榴弾』『狙撃』『徹甲弾』


普通にゴリ押しだ。


おっ、結構生き残ってるな。やっぱあの鎧はすごいのか。『徹甲弾』


よし。全滅。魔法が効かないなら無理矢理ブチ抜けばいいだけだよな。まあ……ブチ抜けなくて衝撃貫通でダメージを与えたわけだが……くそう。


「ところでお前は総代教主か?」


「なっ、なっ、バカな! ムラサキメタリックの鎧が! きっさまぁ〜!」


ん? どこかで聞いたネーミングだぞ?


『重圧』


「で? お前は誰なんだよ? ゼマティス家にケンカ売った理由は?」


「機は熟したということだ……もう私を殺したところで止まりはせん……」


全く意味が分からん。クーデターでもするのか? この王都で? 無理だろ。

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