第671話 騎士学校の下級生

騎士学校の寮に着いた。

スティード君、それからアレクの弟アルベリック君はいるかな?


「五年生の部屋って知ってる?」


貴族学校と違って騎士学校は進級すると部屋が変わるんだよな。


「知ってるわよ。スティード君の所にも何回か来たことがあるもの。」


「アー姉やるっすね! カー兄とスティ兄の二股っすか!」


「私の伴侶はカースだけよ。シビルちゃんこそ意中の男の子はいるの?」


「いやーウチは強い男でないとだめっすね。アー姉の弟さん、アルさんは結構アリっよ?」


「そ、そうなの……確かアルベリックは今八位だったわね……」


ちなみにスティード君は部屋にいなかった。やはり道場かな? 手紙だけ置いて次に行こう。


「カース、アルベリックの部屋にも寄ってみていい?」


「もちろんいいよ。」


アル君か、二年前にフェルナンド先生の荒療治を受けてから生まれ変わったと聞いている。私より心眼が上達してたら悔しいな。


アレクがドアをノックする。そしてドアが開く。


「え、姉上? それにシビルちゃん、カ、カース先輩……」


「元気そうね。強くなった?」


「まあまあですよ。ちょうどよかった。カース先輩、稽古をつけてくださいよ。」


「いいよ。行こうか。」


いきなりだな。どうせかなり強くなってんだろ? 私だって無尽流で稽古を積んだ身だからな。無様な姿は見せられない。


「いいんすか? アルさん結構強いんしょ?」


「よくはないけど、アル君に頼まれたら嫌とは言わないよ。」


私達が訓練場に移動すると、そこには学生が何人も稽古をしていた。




「よし、やろうか。」


私は虎徹を構える。


「いきます!」


アル君も木刀を構えて突っ込んで来る。するどい踏み込みだ。今や私と体格の差はない。

いきなり突いてきた。危ない! 頭を振って躱す私。突きだけでなく横薙ぎまで合わさっており、なかなか厄介な攻めをしてくるものだ。

ならば私は木刀狙いだ。ぶち折ってくれよう。突いてくるアル君の木刀を打ちおろす、が、手応えがない。避けられた、バレてたか……


そこからは間合いをとってにらみ合い。強くなったものだな。では私から行こう。


上段に構えすり足で前に出る。胴がガラ空きだぞ。さあ来い、狙ってこい。

アル君の肩を狙って振り下ろす! 一歩後退して避けられた。さすがにスティード君とは違うな。胴を狙ってこない。


そこからは乱打戦となった。互角のいい勝負。終わってみれば引き分けってところだろうか。しかし可哀想だがダメージは引き分けではない。


「いい感じだったね。ポーション飲む?」


「いえ結構です。ありがとうございました。」


やっぱり私の装備は反則だな。頭だけ気をつければいいんだから。それでもアル君は木刀が折れてない。なかなかやるものだ。


「アルベリック、強くなったわね。見直したわよ。」


「姉上……」


「アルさんカッコ良かったっすよ!」


「う、うん。」


「今からスティード君の所に行くけど、アルベリックも付いて来る? たぶん道場よね。」


「うん、行ってみようかな。」


珍しくアル君が仲間入りか。


「待ってください!」

「魔王さんですよね?」

「僕らにも稽古をお願いします!」


マジかよ。


「それはいいけど、スティード君や教官の方がよっぽど強いよ? どうしてまた僕に?」


「いつもスティード先輩からライバルだと聞いてますので!」

「魔法が使えなくなったのに強いと聞いてます!」

「魔王さんに稽古をつけてもらえたら自慢できます!」


ここではまだ魔王って呼ばれてるんだな。意外だ。でも頼まれたからにはやろう。


「じゃあ三人だけね。一人ずつやろう。」


「押忍! 行きます!」




疲れた……

イキのいい若者が三人。元気いっぱいに打ち込んできやがった。私の虎徹のことも知られているようで、誰の木刀も折ることができなかった。ギリギリ三人に勝つことはできたが、騎士学校のレベルの高さを思い知った。みんな年下なのにすごいな。


「お待たせ。今度こそ行こうか。」


「カッコ良かったわよ。やっぱりカースって魔法がなくても凄いわ。」


「カー兄カッコいいっす! メロメロっす!」


アレクに褒められると嬉しいが、シビルちゃんは……ミーハーなのか?




さて、しばらく歩いて破極流の道場についた。スティード君は休みの日は大抵ここなんだよな。剣術では王国一でありながら槍の稽古も怠らないとは、すごい男だ。


「押忍!」

「お、おす!」

「おすっす!」

「押忍!」

「ピュイピュイ」


あら、スティード君がいない。代わりにアイリーンちゃんとバラデュール君がいるではないか。


「おおカース君。昨日ぶりだな。スティードなら来てないぞ。」

「せっかく来たんだ。やろうぜ? アルベリックもな。」


「よし、少しだけやろうか。」

「押忍! お願いします!」


私がバラデュール君と対戦する間、アル君はアイリーンちゃんとやることになった。




相手を変えて何回かやって終了。アイリーンちゃんはかなり強くなってる。対戦成績は互角だった。


「そろそろお昼だけど、何か食べに行かない? 今日は僕が奢るよ。」


「ふむ、では遠慮なくいただこう。バラドもいいな?」

「おお、ご馳走になろう。」


「僕は帰ります。今日はありがとうございました。」


アル君はそそくさと帰ってしまった。食べてから帰ればいいのに。


「ところでスティード君は今日どこにいそう?」


「いや、分からんな。朝出て行ったのは見たからてっきりここに来ていると思ったんだが。」

「私も知らんな。珍しいこともあるものだ。」


「そっか。それならまあいいや。僕達は明日には王都に行くからさ。一言伝えておいてくれるかな。」


「ああ、言っておこう。」

「私も同行をお願いしたいところだが、野暮だな。」


「今回の夏休みは王都だけでなくあちこち移動するから、悪いわね。」


ふふふ、王都には一週間も滞在しないだろうな。エルフの村と楽園がメインなのだ。

あっ、楽園で思い出した。マイコレイジ商会に行っておかないとな。あの浄化槽は交換かな。お昼を食べたら行ってみよう。

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