第670話 セルジュの部屋と謎の女

さて、欲望の夜を過ごした翌日。本日から夏休みだ。セルジュ君とスティード君に挨拶しておかないとな。


「おはよ。セルジュ君達に会ってから王都に行こうと思うんだよね。アレクは領都で何か残ってる用事ってある?」


「もちろんないわよ。あの二人もカースを心配してたわ。行っておきましょうよ。」


「よーし、じゃあ朝食を食べたらさっそく行ってみようね。あ、その前にマーリンの家にも行っておきたいんだよね。」


「あら、植木のお礼でも言いに行くの?」


「そうなんだよ。それなんだよ。実はいいことを考えたんだよ。」


「あらあら、それは楽しみね。」


そして私達はマーリンの朝食を食べてから……


「ねぇマーリン、実はプレゼントがあるんだよ。マーリンちに行ってもいい?」


「いいですが……どうしたことです?」


「まあまあいいからいいから。」




そして私とアレクはマーリンの自宅へと移動した。結構遠い……案内してもらうのが悪いな。


「坊ちゃん、こんな荒屋あばらやによくお越しくださいました。」

「どうも坊ちゃん、初めまして。うちの家内がお世話になってるようで。亭主のオリバーでさぁ。」


「オリバーさん、突然申し訳ありません。オトワノキの件でお礼をしたく罷り越しました。風呂場を見せていただけますか?」


「風呂場? そりゃ構いやせんが……」


ふむふむ。結構カビてる風呂場だな。湯船の大きさも……よし、分かったぞ。


『洗濯』『乾燥』


とりあえずカビは全部きれいにしておいた。


「オリバーさん。あの湯船なんですけど、マギトレントにしませんか? マギトレントの湯船は最高の入り心地ですよ!」


「そ、そりゃ、出来るもんなら……」


「分かりました! 任せて下さい! 用意します! サイズも分かりましたので、いい感じに用意してみせます!」


「あ、ああ、ど、どうも……」


「もちろん我が家の風呂も今まで通り入っていただいて構いませんので。植木の手入れと合わせてよろしくお願いします!」


「お、おお、ど、どうも。」


「じゃあ、お邪魔しました。また設置に来ますね!」

「お邪魔しました。」

「ピュイピュイ」


ちなみに平民宅に風呂がある時点で結構裕福ってことが分かる。きっと腕のいい植木屋さんなんだな。




「よーし! じゃあまずはセルジュ君のとこから行ってみようか!」


「そうね。セルジュ君はいるかしら。」


「ピュイピュイ」




私達は貴族学校へ向かって歩いている。アレクは私の腕に腕を絡ませて。コーちゃんは私の首に巻きついている。


そして到着。貴族学校の寮、セルジュ君の部屋。私がコンコンとノックをする。いるかな。


「はーい。どちら様っすか?」


現れたのは私達と同年代風の女の子だった……


「……セルジュ君……いる……?」


マジか……まさか、セルジュ君が浮気……?


「あー、カー兄じゃん! 久しぶりっすねー!」


ん? 私をそう呼ぶこの女の子は……?

どこかで見たぞ……?


「あ、まさかシビルちゃん?」


「そうっすよ! まあ入ってよ!」


「う、うん、お邪魔しまーす。」


セルジュ君の妹、シビルちゃんか。確かキアラと同い年ぐらいだったよな? 成長早すぎじゃないか?


「ところでシビルちゃん、学校は? 夏休みって今日からじゃない?」


「あんなかったるいトコなんていってらんないっすよ。二週間前にクタナツを出てさ、昨日領都に着いたんっすよ。カー兄はいつ来たの? あ、アー姉ちーっす!」


「ち、ちーっす……シビルちゃんって自由なのね……」


初めて出会うタイプか。アレクが対応に戸惑っているじゃないか。


「僕は昨日来たよ。二週間前かー。それはもったいないことをしたね。もう少しクタナツにいたら面白いことがあったのに。」


それからキアラがやらかしたことを説明してあげた。アレクにもまだ言ってなかったしね。


「ヒュー! さっすがキアラ! やることがパネーっすわ!」


シビルちゃんたら、どこでそんな言葉を覚えたんだ?


「カース、あの後そんなことがあったの?」


「そうなんだよ。マトレシアさんのおかげですごく美味しかったんだよ。」


「帰らなければよかったわね。惜しいことをしたわ。」


ところでセルジュ君はまだ起きてないのか? ここはセルジュ君の部屋だよな?


「シビルちゃん、セルジュ君は? まだ寝てるの?」


「カー兄、それがさー、兄貴ったら昨日ちょっと酒を飲んだらすーぐダウンしちゃったんすよー。ダメ兄貴っすよね!」


「シビルちゃんが酒を飲ませたの? まだ酒はある?」


「あー、ちっと残ってるっすよ。カー兄、朝から飲むっすか?」


「ピュイピュイ」


コーちゃんが飲むって言ってるよ。朝からね。


「じゃあセルジュ君は寝かせておこうよ。僕とアレクが来たって伝えておいてくれる?」


「いいっすよ! っつーか今からどこに行くんすか? ウチも行くっすよ!」


「スティード君のとこだよ。来る?」


「へるいぇーっすよ! 行くっすよ! スティ兄って王国一の男っすもんねー! 狙い目っすよ!」


おかしい……シビルちゃんって私達より四つ五つ年下だよな? キアラとあまりにも違うっ! へるいぇーって何だ!? 勿論だぜってか!?


結局セルジュ君を放置したままスティード君の寮へと向かうことになった。もちろんシビルちゃんも付いて来た。

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