第658話 海と海鼠

久々の海。

タティーシャ村にやって来た。道中自力で飛ぶキアラと競争になったが、私は勝った。

キアラったら風壁も張らずに飛ぶもんだから、すごい顔になっていた。やはり恐ろしい子だ。


さーて、ツウォーさんはいるかなー。




いた。


「おお、坊ちゃんじゃねーか。久しぶりだな。大きくなったか。」


「こんにちは。お久しぶりです。もしヒマでしたら前みたいにみんなでワイワイ飲み食いしましょうよ。」


「おお、そいつはいいな。村長にも声をかけておくわ。」


「じゃあ僕らは昼まで遊んでますので。昼ぐらいにこの前の所に行きますね。」


「おお、適当に食い物を集めておくわ。」




さて、いよいよ海だ。


「マリー、だいぶ待たせてしまったけど、例のアレできてる?」


「できてますよ。材料はたっぷりいただきましたから。」


ふっふっふ。まずは私の海パン、少しぴっちりとしたトランクスタイプ。これはどうでもいい。

大事なのは、アレク用のスク水。それもいわゆる旧型。ふふふ。


「さてアレク、だいぶ前にムリーマ山脈でメガシルクスパイダーの糸を回収したよね。あれでマリーに作ってもらったんだよ。泳ぎやすさを追求した形状なんだ。貰ってくれる?」


「うん、ありがとう。あの時の蜘蛛の糸がこうなるのね。着てみるわね。」


「キアラにはこっちな。これを着ると早く泳げるぞー。」


「カー兄ありがとー!」


キアラの方は新型スク水だ。しかし胸元の白い布には『きあら』と書いてある。これは最早お約束だ。アレクの方には『あれく』と書いてある。


『闇雲』


「じゃあマリーは着方を教えてあげてくれる? この向こう側でね。」


「ええ。さあお二人とも行きましょう。」


私も着替えよう。一旦魔力庫に収納すれば……一瞬で着替え終了だ。ちなみに魔力庫の中身はあの時のままだった。本当に何もかも、私は取り戻したんだ。




「カ、カース、ど、どう? 少し肌を出しすぎなんじゃ、ない?」


「きれいだよ。よく似合ってる。」


濃紺のスク水と白い素肌のコントラストが素晴らしい。来年はビキニかな。


「あ、ありがとう……//」


久々に見た、赤面アレク。かわいいなぁ。


「カー兄先に行くよー!」


キアラは準備運動もしないで海に飛び込んだ。元気なやつめ。


ちなみにマリーのサービスでアレクにはスイムキャップもある。まだ元の長さには戻ってないけど、それなりに伸びたもんな。うなじが眩しい!


よーし! まずは浅瀬で水遊びだ。アレクやカムイと水のかけ合いだー! コーちゃんはキアラについて行ってしまった。いつの間に?


オディ兄とマリーも姿が見えない。二人で何やってんだぁ? んん?

でも、あの二人もスク水着てるんだよな……


そして私とアレクは段々と沖に出て行く。カムイも水中とは思えないスピードで泳いでいる。水陸両用かよ。


「湖で泳ぐのも楽しかったけど、海もいいものね。怖いイメージしかなかったわ。」


「大きい魔物がたくさんいるもんね。それに魔法が使いにくいし。よし! じゃあ本格的に泳ごうか。足の裏から水の魔法は出せる?」


「ええ、どうにかね。とてもキアラちゃんほど速くは泳げないけど……」


キアラは速すぎる。遥か沖の方で白波が立っている。あの辺りにいるんだろうなぁ。

私はアレク、カムイと泳いだり潜ったりしよう!「ガウガウ」




そろそろ昼かな。キアラが沖の方で泳いでいるせいか、魔物が全然寄ってこない。キアラバリアーだな。


「よーし、お昼にしようか。キアラを呼んでくるね。」


「じゃあ先に上がってるわね。」

「ガウガウ」


私はミスリルボードに乗りキアラのもとへ。

やはりキアラは魔物達と追いかけっこを楽しんでいたようだ。


「キアラー! お昼だぞー! モリモリ食べようぜー!」


「あー、カー兄! 行く行くー。」

「ピュイピュイ」


魚の魔物達はキアラを追ってくるが、殺すのも忍びないな。『睡眠』少しだけ寝ていてもらおう。食後はまたキアラが遊びに来るだろうからな。




そして昼食。

前回のようにミスリルボードで鉄板焼きだ。私が獲った貝類、ツウォーさんが用意してくれた魚。村長が用意していた酒。


つまり、宴会が始まった。

真っ昼間から飲めや歌えや大騒ぎ。

特にアレクがいると、バイオリンの素晴らしい音色が楽しめる。

そうなると、コーちゃんを中心にしてダンスが始まる。


うーむ、魚が足りない。

釣ってくるしかないな。




釣ってきた。

その場に置くと、あっという間に解体されてボードの上で焼かれ村民が群がる。ここは楽しい、いい村だなぁ。来てよかった。


ところで海辺でバイオリンって傷まないのかな?




そんな時間を邪魔する無粋な高波がやってきた。地震のないローランド王国で高波や津波なんて珍しい。何事だ?




ん? あれは……


「マリー、あの沖にいる魔物知ってる? 大きいけど。」


「あれは……アスピドケロン!」


「知ってるのマリーさん?」


アレクが知らないなんて珍しい。もちろん私は知らない。


「島と間違えられることすらあるような巨大な亀です。ご覧ください。あんなに沖にいるのにあの大きさ。もしも近付かれたらここら一帯が水没してしまいます。」


それはまずい。ここは……


「キアラ、あの子を沖の方に誘導してあげてくれる?」


「いいよー。行ってくるー。」


どうせキアラの魔力に惹かれて来たんだろ。キアラに任せておけば大丈夫。



あ、キアラの奴、誘導するどころから押し流してる。無茶しやがって……あれをされると海水の揺り返しが危ないんじゃないのか? まあいいや。海岸線に水壁をずらっと並べておこう。全くキアラのやつ、考えなしなんだから。




さて、海も落ち着いたことだし、日が暮れる前に帰ろう。お土産の海産物もたくさんもらってしまったな。やけにナマコが多いぞ。ここではカイソって言うんだったか。ポン酢があればいいのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る