第657話 ヒモ
ギルドの建物内。キアラとカムイは入口で待っている。コーちゃんはそんなキアラの首に巻きついている。仲良くなったよなぁ。
さて、私はアレクと受付にて、組合長への面会を申し込む。
「いきなり言われましても無理です」
「そうですよね。じゃあいいです。」
そりゃそうだ。でもこれでよし、義理は果たした。もういいだろう。
さーて遊びに行くぞー!
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
待たせたね。海に行くよ。
「待てやテメー! クラーサに何しやがった!」
行かせてくれよ。何だこいつ?
「殺されかけた。だからこの狼が殺した。」
「ガウガウ」
カムイもそうだと言っている。私もよく生き残ったものだ。母上とマリーに感謝だな。
「俺はもうすぐクラーサと結婚する予定だったんだよ! それをよくも!」
知るかよ。じゃあ何で私を狙ったんだよ。
「自分の婚約者が将来ある若者を殺しかけておいて言うことはそれかよ。ならこっちも言うぞ? この落とし前どうする気だ?」
ギルド内の空気はこの男に同情的か。こっちは被害者だってのに。被害者ぶる気はなかったが、あっちがそう言うなら仕方ない。
「テメーこそ! 人の婚約者を殺しておいて何開き直ってんだよ! この無能野郎が!」
カッチーン、とは来ない。今の私は何を言われても許せる大きな心を待っている。
「で? どうしたいんだ? 生き返らせろって言われても無理だぞ?」
「テメーいい金持ってるらしいじゃねぇか? 半分よこせ。それで手打ちにしてやる」
あーあ。結局金目当てかよ。ギルドの受付嬢は高給取りだから結婚しようとしたってとこか。イケメン顔に騙された受付さん、可哀想に。
「欲しけりゃ取ってみろ。決闘でもするか? 一対一でな。」
ちなみに私の全財産は白金貨で八枚程度だ。こんな奴に四枚、金貨で四千枚もくれてやるはずがない。
「ほほぉー、無能のくせに大きく出やがって。そんな脅しにビビると思うなよ? 所詮テメーなんて一人で何もできねー無能なんだからよ!」
「やるのかやらないのか、ハッキリしろや。それでもクタナツの男かよ。」
「ざんねーん。俺は領都出身なんだよ。テメーみてーな田舎もんと一緒にするんじゃねぇ! 一対一でやってやるよ!」
周りまで巻き込んでやがる。私を嫌う奴らがゾロゾロと訓練場に集まってきた。まあいいか。
「では約束だ。俺の全財産の半分は白金貨二枚。勝てばくれてやる。俺が勝ったらお前に白金貨二枚の借金をいつも通りにかぶせるからな。」
本当は四枚だけど、それだと高すぎて払うのが大変だろうからな。
「おおいいっぜぉ、なっ、今のは、まさか……」
「契約魔法に決まってんだろ。お前はもう逃げられない。始めるぞ。アレク、合図をお願い。」
アタフタするイケメンをよそ目にアレクは淡々と前に出てきた。
「決闘を開始する! 双方構え!」
狼狽するイケメンに構わずアレクは続ける。
「始め!」
『狙撃』
あぁ、やはりこの魔法は最高だ。自分の早撃ちにため息が出そうだ。同時に発射された四発の弾丸が大腿部を貫いた。終わりだ。
「まだやるか?」
「ぐぐっ……テメ、魔法使えねーんじゃ、なかったんかよ……」
「知るかよ。勝手に勘違いしたバカどもがいるんだろ。降参しねーんならトドメ刺すぞ?」
「参った……」
「さーて、それじゃあ落とし前の時間だ。この際だ、受付さんが俺を狙ったことは許してやる。やられた俺が間抜けだったんだからな。白金貨二枚の借金だが、本来ならトイチの複利。しかしそんなの絶対払えんだろ? だから無利子にしてやろう。今日は機嫌がいいからな。」
「あ、ああ……」
「では約束だ。毎月一日に金貨五枚払え。遅れない限り利子は付かない。一回でも遅れたらトイチの複利に変更だ。その時は死ぬまで追い込むからよ。分かったな?」
「ああ、分かっとぁっ……」
こいつの身元は知らないが、冒険者なら月に金貨五枚ぐらい簡単だろう。私は何て優しいんだ。
周りは私が魔法を使ったことでザワザワしている。あれだけ無能無能と蔑んでいた奴があっさり魔法を使ったんだからな。あー、気分がいい。
「やっと終わったのー? 早く行こーよー!」
キアラもすっかり退屈させてしまったな。
「よーし待たせたね! 行こう行こう! アレクもごめんね。」
「うふふ、完全復活ね! ついでにこれ、返しておくわね。」
おおお、何て懐かしい……
私のミスリルボード……
「ありがと。姉上から預かっててくれてたんだよね。またこれに乗れる日が来るなんて……」
いかん、泣きそうだ。嬉しすぎる。
「よーし! オディ兄とマリーを誘って海に行こう!」
「行こー!」
二人は家にいた。喜んで行くそうだ。
久しぶりにみんなで海だー!
あ、これならベレンガリアさんも来てもよかったんじゃない?
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