第608話 風雲急アレクサンドリーネ
ケルニャの日。もう週末。
まだカースは帰って来ない。
まだ目覚めてないのだろうか。それとも、大変な状況なのにあんな手紙を書いた私に愛想を尽かしたのだろうか。
もちろん本気で浮気をするつもりなんかない。例え後数年カースが帰って来なくても。
カースがどんな顔をするのか、少し意地悪したかっただけ。
たまには色んな男に情熱的に愛を囁かれるのもいいものよってソルは言ってたけど……私には分からない。もし私がアレクサンドル本家の生まれで、そこらの公爵家の誰かと結婚することになったら、私はどうしただろうか?
カースと出会ってなければ言われるがままに結婚して毎日どこかのお茶会に出て、毎晩どこかのダンスパーティーにでも出席していたのだろうか?
それは今の生活と比べるとあまりにも苦痛だ。
ソルがカースを好きになったのも当然かも知れない。
「アレクサンドリーネ様。明日のご予定はどうなっておられますか? ぜひ僕とボーンナム子爵家のパーティーに」
「ならば明後日はいかがでしょう? 僕とプラーント伯爵家のダンスパーティーに行きませんか?」
「ところで今夜はペイジミー男爵家での催し物がありますよ。エスコートさせてください」
昼休み。ここ最近はいつもこうだ。時々アイリーンとも食事をするが、基本的には一人。
すると、このような男の子達がパーティーへ誘ってくる。カースとなら行ってもいいが、それ以外で行く気などない。
「ごめんなさいね。私にはカースがいるから。カース以外と踊る気もないの。そのうちカースと一緒に参加させてもらうわね。」
すると男の子達は決まって可哀想なものを見る目で私を見る。
『現実が見えてないのか?』
『お前は捨てられたんだぞ?』
『そんなことも分からないのか?』
そう言いたいのだろう。言えばいいのに。
「プッ、聴いた? あの女まだあんなこと言ってる」
「聴こえたわよ。可哀想にねぇ〜」
「あんなカス貴族が忘れられないのねぇ」
「その上いつも一人寂しくランチ。哀れよねぇ〜」
「しかもまた順位を落として五位よ?」
「ププッ、恥ずかし〜い」
「どこまで落ちるのかしら?」
「賭ける? 私は十位ぐらいと見たわ」
「じゃあ私は八位ね」
「さすがに魔力的に落ちようがないんじゃない? 六位ね!」
「そうなると、冬休み前のテストかしら?」
「そうね。まあ進級がかかったテストでもないけど」
「賭金は一人銀貨三枚。当てた子の総取りね」
「いいわね。大穴狙いで一位に賭けようかしら?」
「ハハッ、いいんじゃない? 捨て金ありがとーってね」
アレクサンドリーネは気丈に振る舞っているつもりだったが、数字は嘘をつかない。着実に順位を落としていた。
そして翌日。
いつも通り一人で領都の北、カスカジーニ山へ向かっていた……
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