第607話 日常への回帰
そして翌日。
私は一人でギルドへ向かった。再発行と残高の相談をするためだ。
「お疲れ様でーす。」
ここにもしばらく来てなかったな。ひどく懐かしい。知った顔は……いないか。ゴレライアスさんとかに挨拶しておきたいが、いないんじゃ仕方ない。エロイーズさんとかどうしてるんだろうか。
「おはようございます。ギルドカードの再発行をお願いしたいのですが、その場合って残高はどうなりますか?」
「えらくお久しぶりですね。特に変わりはありませんよ。再発行は金貨一枚、そしてランクが一つ下がるだけで結構です」
「分かりました。お願いします。」
そう言って私は金貨を差し出す。姉上からいくらか貰ったのだ。財布を持ってないので、ポケットに直に入れている。ピョンピョン跳ねてみろって言われたら、チャリンチャリンと音がしてしまうな。
これで資金面で困ることはない。むしろ残高が増えている。どうやら契約魔法は解けていないようだ。少し安心した。次は道場に行こうかな。アッカーマン先生にここ最近のことを報告しておこう。それにレイモンド先生が優勝したことも伝えておかないとな。
当然かも知れないが、道場すら懐かしい。先生や奥様へお土産だって用意してたのに……魔力庫から取り出せない……
「そうか。色々あったようじゃな。まあ生きておるんじゃ。よくやったのぅ。」
「押忍! ありがとうございます。」
それから私は王都へ行くことや、王都から帰って来れたら再び道場で鍛え直して欲しい旨を伝えた。
次はいよいよアレクサンドル邸だ……
重い足取りでゆっくり歩いたが、もう着いてしまった。相変わらず門番さんは私を見ると正門を開けてくれる。門をくぐるとメイドさんも出迎えてくれる。
そして案内される。今日は居間の方か。
「よく来たわね。主人から聞いてるわ。大変だったようね。」
「ご無沙汰いたしております。ご報告に参りました。」
もう、お義母さんと呼べないかも知れない。
「あら? 何かしら。アレックスの準優勝のことなら聞いたわよ?」
「実は……」
私は正直に話した。魔力を失い復活の目処が立たないことを。
「そう……そんなこともあるのね。大変ね。せいぜい頑張りなさい。で?」
「は……? で? と言われますと?」
「報告したいことは以上なの? 私にも解決方法なんか分からないわよ? 自力で頑張ることね。」
「いや、その、お嬢様との将来と言いますか……今の僕では……その……」
「アレックスが要らないの? 要らないなら捨てれば?」
「そんなことありません! 必要です! もうアレクなしの人生なんか考えられません!」
「なら何が言いたいの? アレックスは既にあなたにあげたのよ? あなたが守りなさいって言ったわよね?」
「そうですね……それでいいんですね?」
「当然よ。本物の貴族はね、風向きによって判断を変えないものよ。少なくとも私はそうやって生きてきたわ。騎士長にまでなるような男を選んだこともそうね。」
よく分からないがすごい。いつも以上に上級貴族オーラが迸っている。
「もちろんアレックスがどう判断するかなんて知らないわよ? あの子があなたを捨てるのも自由なんだから。」
「ですよね……」
「でも、少なくとも私はカース、あなたに賭けた。この判断を変えるつもりはないわ。だからこれからもお義母さんと呼びなさい。」
「お義母さん……」
くっ、また泣きそうになってしまう……
元々涙脆いくせに、ここ最近の出来事が……
「あらあら、あの子が泣き虫カースって言うだけあるのね。内緒にしておいてあげるわ。」
「あ、ありがとうございます……」
顔が上げられない。
後はアレクだな。元気でいてくれるといいのだが。
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