第603話 憂鬱2

週末。

アレクサンドリーネはいつものようにムリーマ山脈へと向かっている。カースと行ったような高所まではとても行けないが、比較的低く魔物が多い地点で腕を磨いていた。


昼。太い木にもたれかかり『木遁』を使いながらの昼食。使える魔法の数はとっくにカースより多い。無事に昼食を終えたら午後の部だ。いつも午後からは大物を狙う。しかしカースがやるように無茶な集め方はできない。あんな危険な行為はカースがいるからこそできる。アレクサンドリーネはカースに追いつけないことを苦々しく思いながらも焦らずやろうと心に決めている。


午前中に解体した獲物の残りカス。アレクサンドリーネはそれを片付けていない。彼女らしくもないマナー違反。一体どうしたことか?


答えは……


「ギャォオァォーー!」


大物を呼ぶためだ。カースの魔力と違って大物が即座に来ることもなく、ある程度時間を置いて現れてくれるこの手法をアレクサンドリーネは多用していた。それに自分の手に負えないほどの大物が現れても困るため、遠巻きに現場を観察しながら待てるという利点もあるのだ。


今回現れたのは、ブルーブラッドオーガ。

牛のような鋭い二本の角と青く頑丈な皮膚を持つムリーマ山脈では定番の魔物だ。サイズだけは三メイル超えの大物だが群れの中では雑魚クラス。クタナツの六等星冒険者なら一撃で終わるだろう。


『氷弾』『氷弾』


アレクサンドリーネの魔法が二発同時に放たれる。狙いは両目。寸分違わずオーガの目を奥まで貫きそのまま絶命させる。どうやら本当の大物でないと彼女の相手にはならないらしい。


それから断続的にブルーブラッドオーガがやって来たものの、似たようなレベルばかりだった。あらかた解体を済ませたので、そろそろ帰り支度を始める。


『豪炎』


一ヶ所に集めておいた残りカスを全て燃やす。これほどの魔法を使ってしまうと本当の大物が来るかも知れないのだが、そこはアレクサンドリーネ。さっさと飛んで帰るのみだ。ちなみに乗り物はエリザベスの影響なのか木の板である。

カースから借りっぱなしの真っ白なコートをなびかせることなく、悠々と飛んで帰っていく。




「おい、いたか?」

「いや、いねーな」

「おいあれ! 見てみろ!」


「この灰の量からすると……」

「どんだけだよ……」

「あの女が一人で……」


「おいどうするんだよ?」

「お前こそ! まだやる気か?」

「俺らだけじゃ無理だな」


「ちっ、俺らだけで楽しもうと思ったのによ!」

「魔道具がいるな。例えば魔封じの腕輪とかよ?」

「ちっ、金貨が飛ぶじゃねーか」


「参加する野郎どもで頭割りすりゃ大した額じゃねーだろ」

「そんなら俺ぁパスだ。他の野郎どもの後なんざ汚くて使えたもんじゃねぇ」

「ばかだな。それがいいんじゃねーか」


「ならお前が先にやりゃいいじゃん」

「おお、それもそうだな。いやー催促したみてーで悪ぃな」

「俺は一番最後でいいぜ。ぐったりして動かねぇあの女をじっくりいただくからよ」


このような言動をローランド王国では『取らぬオークの皮算用』と言う。

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