第549話

治療院、サービスで幹部のセグノも連れてきてやった。両手足を折ってしまったからな。

深夜料金込み、二人で金貨二十二枚か。さすがに高いな。でも骨折をポーションで無理矢理治すと骨が変な付き方をするらしいからな。


「乗れ。」


治療院を出た私達はボードに乗り上空へ。誰にも邪魔されない会議室ってわけだ。


「さて、これでようやく話ができるな。改めて約束だ。お前ら正直に話せよ? そしたら希望者は楽園に連れてってやる。」


「あたしは行きたいねぇっうぅ」

「私もっぉうそんな所があるなら……」


「さて今日の昼だが、俺らは王城内で命を狙われた。王宮にまで入り込んでる闇ギルドなんてあったりするのか? 何年もかけて入念に準備していたようだったな。」


「ふーむ。潜伏を得意とするのは……『魔蠍まかつ』の連中だねぇ。あいつら親子単位で潜伏しやがるからタチが悪いんだよねぇ……」


ほぉーお、そんなことまでするのか。いわゆる『草』ってやつか。なのに一世一代の仕事を失敗して草ってか。


「そいつらのアジトとか分かるか?」


「あぁ、ウチで言う出張所だけならねぇ」


よし、それさえ分かればもういい。後は明日にしよう。


「いいだろう。帰るぞ。そこでさらに約束だ。お前らこれからは心を入れ替えて真っ当に生きろよ。そしたら楽園での仕事にボーナスを付けてやる。」


「ふん、アンタがボスだ。従うっさおっ」

「わ、私も、おっおぅ」


これで安心してゼマティス家に匿える。


「ついでだから自己紹介するか。改めて、俺はカース・ド・マーティン。十三歳。クタナツ生まれクタナツ育ち。強そうな奴はだいたい先生。お前らは取り敢えずゼマティス家に連れて行く。楽園行きは来週だな。」


「アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル。十三歳。王都生まれクタナツ育ち。強いカースが大好きよ。」


「ピュイピュイ」

自分も紹介しろって? コーちゃんはかわいいんだから。


「この子はフォーチュンスネイクのコーネリアス。コーちゃんと呼ぶといい。歳は分からん。」


コーちゃん自身もよく分かってない。


「ゼマティス家にアレクサンドル家ねぇ。シンバリーもとんだ相手に狙われたもんだねぇ。あたしはラグナ・キャノンボール。生まれは知らないが育ちは王都。先代のボスに拾われたのさぁ。たぶん三十歳かねぇ」


「わ、私はセグノ・ウラナリア。生まれは知らない。王都育ち。三十五歳ぐらい。先ほどの場所に戻してもらえないか? 部下達を放ってはおけない」


まあいいか。


「お前だけな。ボスはだめだぞ。」


「ボスはアンタだろぅ。ラグナと呼びなぃ」


「私だけでいい。希望者は保護してもらえるんだろうな?」


「保護までする気はないぞ? ボーナスが付くのはお前達だけだ。ただ働きでいいなら連れて行くがな。なんせ魔境だからよ。」


「分かった……それでいい」


到着。あまり傷は付けてないから死んだ奴はいないだろうが……


「明日の夜、ラグナと魔蠍に殴り込むからな。参加したければ来てもいいぞ。」


「ああ……行くさ」




さて、ゼマティス家に帰り着いた。あー疲れた。風呂に入ろう。


「おかえりなさいませ」


「ただいま。おじいちゃんかおばあちゃんは起きてる?」


「はい。お二人とも先ほどお風呂からおがりになりましたので、起きてらっしゃるかと」


「分かった。ありがと。」


ラグナを連れて来てしまったからな。挨拶させておかないとな。


ノックをしておじいちゃん達の部屋へ入る。


「「ただいま帰りました。」」

「ピュイピュイ」


「おかえり。思ったより早かったのぅ。」

「あら? その子は?」


「ラグナ・キャノンボールって言います。ニコニコ商会のボスです。心を入れ替えて真面目に生きることになりました。昼間の件は『魔蠍』って闇ギルドが怪しいそうです。そこでおじいちゃんにお願いがあります。」


「ニ、ニコニコ商会なの……よくもまあ……」

「で、なんじゃ? 何でも言うがええ。」


「こいつともう一人、来週までここでメイドとして使ってやって欲しいんです。来週帰る時に連れて行きますので、行儀見習いってことで。」


「あ、あたしがメイド……」


「おうおうもちろんいいとも。ラグナとやら、分かったな? カースの役に立つメイドになるんじゃぞ?」


おじいちゃんの魔力が迸る。これが魔道貴族の片鱗か。可哀想にラグナが顔を青くしている。


「あなたったら。女の子をそんなに脅かしてはいけませんわ。ねっ、ラグナちゃん? あなたはカースを裏切ったりしないわよねぇ?」


「も、もちろん、です……」


おばあちゃんだって脅してるじゃないか……冷たく鋭い魔力がラグナに突き刺さるかのようだ。


「契約魔法をかけてあるから大丈夫ですよ。心配ありがとうございます。嬉しいです!」


これで一安心。こんな極悪人なら楽園に置き去りにしても心が痛まない。せいぜい働いてもらおう。


そこにメイドさんがスッと入って来た。いつの間に呼んだんだ?


「カリン、ラグナちゃんを使用人部屋に案内してあげなさい。短い間だけど後輩としてかわいがってあげなさいな。」


「かしこまりました」


「頑張れよ。真人間になるチャンスだからな。」


「ああ、どうせボスには逆らえないんだ。せいぜい使えるメイドになってやるさぁ……」




それから私達は遅めの風呂に入りスローなラブを営んでから寝た。コーちゃんは私達が風呂に入る前にどこかへ行ってしまった。ラグナの所かな?

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