第547話

ゼマティス家にて。落ち着いた午後のティータイム、私達はお喋りに興じている。


「そう言えばみんなクッキーと紅茶の毒に気付いてたの? 教えてくれてもいいのに、ひどいやー。」


「だってカースがあんまり美味しそうに食べるから。実際美味しいから私も食べたんだけどね。」


「ピュイピュイ」

お土産はどうしたって? ごめんよ。あの騒ぎで用意できなかったんだよぉー。ごめんねコーちゃん。


「あそこにはメイドさんがいたからね。毒が入ってるから食べないでって言いにくかったんだよ。それにカース君なら平気だよね。でも僕も食べたかったなぁ。」


「ソリチュードポイズンフログの汗腺液とマッドコカトリスの毒液ね。一体どれだけお金をかけて用意したのかしらね。」


サンドラちゃんは詳しい。やはり勉強は大事だよな。


「じゃああの部屋に入ったこととか首輪は? 怪しいとか思わなかったの?」


私は全く思わなかった。


「首輪は仕方ないわ。陛下への初めての謁見ですもの。当然よ。」


当然だったのか。なのにアレクは騎士達に啖呵切った時には付けさせられたとか言ってたよな。やっぱさすがだな。


「あの部屋は怪しかったよね。でも毒を盛られたわけだし、王宮が丸ごと敵だとすると入るしかなかったよね。」


「優勝者が二人もいるんだから何とかなるって思ってたわ。実際カース君があっさり助けてくれたしね。」


結局黒幕はどこのどいつなんだろうな。心当たりが多過ぎて分からんな。私の方でも少し当たってみようかな?




それから、ゼマティス家のみんなが続々と帰ってきたので夕食となった。


「カースにみんな。大変じゃったのぅ。よく生きて帰ってくれた。ワシは嬉しいぞ。」


「まだ解決してはいませんけど、話の分かる陛下でよかったです。」


「陛下がお前達のことを褒めておられた。ワシも鼻が高いわい。それで明後日の昼時に使者が許可証を持ってきてくれるそうじゃ。個人で都市型結界魔法陣の許可を貰った者などおらんぞ。カースの功績がすごいからじゃな。」


仕事が早いな。さすが国王。


「ちょっとカース! 何やったのよ! 詳しく聞かせなさいよ!」


「後でね。大したことじゃないよ。」


シャルロットお姉ちゃんは根掘り葉掘り聞きそうだからな、話すと長くなりそうだ。




結局アレクがみんなに上手く説明してくれた。それにおじいちゃんも補足を入れてくれ、家族間での情報共有が済んだ。


「さて、みんなに伝えておこう。今回カース達が入った吊り天井の間だが、裏切り者を始末するだけの部屋かと言うと違う。王国にとって重臣たるにふさわしいかどうかを問われる部屋でもある。言って見れば側近になるための最終試験じゃな。しかし呼ばれた方にしてみれば、試験なのか裏切り者と思われているのか分からぬ恐ろしい試練じゃ。グレゴリウスにガスパールよ。お前達もいずれ入ることがあるやも知れん。心しておけ。」


「ああ、次期魔道貴族として心しておく。」

「はい! おじいちゃん!」


ほぉーそうだったのか。確かに裏切り者だったら怖くて入れないよな。それで入らなかったら裏切り者として処理されるか、出世の道を閉ざされるかってとこか。




さて、食事も終わったことだし出かけよう。


「おじいちゃん、少し遊びに行ってきますね。」


「ああ、気を付けてな。どこに行くんじゃ?」


「まだ決めてないんですけど、たぶん酒場とかですね。酒は飲みませんけど。」


「そうかそうか。何事も勉強じゃからの。」


今度はコーちゃんも連れて行ける。コーちゃんはお酒が好きだもんね。「ピュイピュイ」


「私も行っていいわよね?」


「カース君、夜遊びに行くの?」

「悪い遊びをするのね。」


「そんなとこかな。僕達のことは気にせず寝ててね。」


アレクは連れて行くが、スティード君とサンドラちゃんは無理だ。本当はスティード君だけに来て欲しいんだけどな。




まずは以前シンバリーと出会った小さい酒場に行ってみる。私ははうろ覚えだったが、アレクがばっちり覚えていてくれた。とっくに潰れてるものと思ったら、まだ営業していた。早速入ってみる。


小汚くて薄暗い。前回より雰囲気が悪くなってないか?


「子供が来るとこじゃねぇぞ。さっさと帰りな」


「こんばんは。ここってニコニコ商会と関係ありますか?」


すると突然周りで飲んでいた酔客が立ち上がり、私達を取り囲んだ。


「こぉらガキぃどこでそんなこと聞いてきやがったぁ?」

「有り金出したら無事に返してやるぜぇ?」

「いーや俺ぁこっちの女を貰うぜ」

「なら俺はこっちの男にしとくわ」

「待て、このガキの格好……テメー! 魔王カースかぁ!」


「魔王かどうかは知らんがカースだな。幹部とか偉い奴はいないか? 少し話がしたくてな。こいつは手間賃だ。」


適当に金貨を渡す。


「分かってんじゃねぇか。素直なガキは長生きするぜ? で、何の用よ?」


他の奴らは金貨に群がっている。


「詫びを入れに来たに決まってるだろ。白金貨三枚も賞金掛けられて参ってんだよ。とりなしてもらえないか?」


さらに金貨を握らせる。


「ふん、景気がいいみてぇだな。いい判断だぜ? 今の賞金は白金貨六枚だからよ。少し待ってろ。おい、飲み物でも出してやんな」


「なら一番高い酒をくれ。一杯でいい。」


「けっ、ガキが格好つけてんじゃねぇよ。飲めんのかよ」


コーちゃんが美味しそうに飲んでる。えっ? もう一杯? 仕方ないなぁ。


「すまんがもう一杯頼む。かなり美味い酒のようだな。」


「金払えよ……」


結局十杯も飲んでしまった。コーちゃんはウワバミだなぁ。そのまんまか。

幹部はまだか?

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