第546話
カース達が帰った後の王宮では、国王グレンウッドが重臣達と話し合っていた。
「魔女の息子か……母が母なら子も子だな。まだドラゴンと戦った方がマシだ。」
「公爵本人は口を噤んで話しませんが、アレクサンドル家の一件もあの者の仕業とか。」
「いかがいたしましょう? 不敬罪や反乱罪に問うという手もあるかと。」
「さすがに強引ではないだろうか。」
「無理だな。こちらに大義のない状態で捕らえようとしてもあの者は素直に従うまいよ。まあ、それを理由にこちらの全力を以て叩き潰すことも不可能ではないが……」
「その場合、ゼマティス卿やウリエンなどはどう出ることでしょうな。」
「反乱罪ならば連座の適用も可能かと。」
「いやむしろ取り込むべきでは?」
考え込む国王。
「猛犬には首輪を付けるものだが、あれは魔王だ。飼い慣らすことなどできぬ。ならば王国にとって不利益さえ齎さなければよい。約束を重んじる人柄なれば話は通じよう。」
「しからばどのように対応いたしましょう。」
「甘い対応では王家の威信に傷が付くかと。」
「誠実に対応するのが一番では?」
「よかろう。ヨヒアムの件を全力で追え。明らかに単なる思い付きの犯行ではない。あの仕掛けを使うために何年も前から準備をしていたに違いない。本来なら余や家族、またはお前達を標的にするためにな。」
敵にとっては一度しか使えない仕掛けである。要人を殺害するために何年も前から入念に仕掛けを施していたのだろう。それがカースを狙ったばかりに空振りに終わった。それどころか王の怒りを買い、カースにも狙われることになった。現時点での手がかりは偽ヨヒアム、そしてメイド。果たしてどうなることだろうか。
重臣、側近を下がらせ自室に戻った国王は頭を悩ませていた。
「参った。吊り天井の仕掛けをあっさり生き残ったガキがいる。問題はそんなガキが王家に逆らいうる力を持っていることだ。危うく敵認定されるところだったぞ。」
「大変でございましたね。お疲れになったことでしょう。お飲みになりますか?」
「聞いてくれよ。別人が使者のヨヒアムに成り代わってたんだぞ? それでもしあのガキが城内で死んでみろ!ゼマティス家や魔女が敵に回りかねん!」
「それはそれは、さぞかし大変でございましたね。イザベルちゃんの子供なんですの? それなら私も会ってみたいですわ。」
「ふむ、それはいいかもな。どうせ届けるものがあるのだ。それをお前が届ければあのガキの驚いた顔ぐらい見れるかも知れんな。」
「それならそういたしましょう。喜んで行きますわ。」
国王と王妃の会話である。後宮に何人もの側室や妾を持つ国王だが、本当に心を開いている相手はそう多くない。
国王とてドラゴンを従えるほどの猛者である。それだけにカースやイザベルの魔力、実力が分かってしまう。自分が宮廷魔導士や近衛騎士を率いて挑めば勝てるかも知れないが、国王のやることではないし勝っても意味がない。国王たる者、意地や権威より実をとらねばならないのだから。
一方、騎士団は薬と拷問と尋問魔法で偽ヨヒアムと応接室を担当したメイドの取り調べを始めていた。王国騎士団を統べる騎士長と、その直属の部下のみによって行われている。騎士団員に闇ギルドから金を受け取っている者がいるのは暗黙の了解だったりする。そのためわずかな情報漏洩すらさせないための処置だ。果たして取り調べはうまくいくのだろうか。
カースが行く所には波乱がある。一体なぜなのだろうか?
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