第540話 表彰式

カースがアレクサンドリーネを治療室に連れて行った後、会場では思い出したかのようにどよめきが始まり、しばらく収まらなかった。


『皆さま! カース選手の治療が終わり次第、表彰式を始めます! それまではゼマティス卿とベルベッタ様に決勝戦を振り返っていただきます!』


『うむ。双方見事な戦いぶりであった。あれほどの戦いをやってのけたのが弱冠十三歳とはの。長生きはするものじゃて。』


『もっともだ。私がまだ小さく未熟だった頃、ただひたすらに強くなりたかった時代を思い出してしまったな。』


『ところで、これまで鉄壁の守りで無傷で勝ち上がってきたカース選手が、手こずった理由は何かあるのでしょうか? 単純にアレクサンドリーネ選手の実力と言えるものでしょうか?』


『ワシが気になるのは、逆巻く激流を返そうとした時じゃな。なぜあれほどまでに集中を鈍らせたのか。表彰式の際にでも本人に聞いてみるかのぅ。』


『私は終盤かな。最後の力を振り絞って突進するアレクサンドリーネ選手に大腿部を刺されたな。カース選手の魔法防御どころか、装備まで突き抜いている。一体どんな攻撃をしたのか気になるところだ。』


『さあ話題は尽きませんが、カース選手の治療が終わったとの知らせが入りました。表彰式に移ります!』






係の人に先導されながら私は武舞台へと向かっている。さっきは何気なく国王と会話をしてしまったが、今ごろ緊張してきた。


アレクはまだ目を覚ましていない。問題はないだろうが早く側に戻りたい……昨日もやったことだし、表彰式はさほど長くない。落ち着いていこう。




『ただいまより表彰式を行います! 皆さま、ご起立、脱帽の上、ご注目ください。まずは国王陛下より総評をいただきます。全員静聴!』


『まずは参加者諸君に労いの言葉を贈りたい。よくやった! いい戦いであった! 何名かにはスカウトが向かうこともあるだろう!

さて、総評だったな。余はこの上なく満足している。まさか子供の大会であのレベルの戦いが見られるとは思ってもみなかった。優勝者のカース選手には白金貨三枚の賞金が掛かっていると聞いたが、それでは割に合うまいな。対してアレクサンドリーネ選手の女子とは思えぬ奮闘ぶりには驚かされた。平均的に女性の方が魔力が高いのは世の常だが、それでもあの歳にしては良い魔力を持っている。将来を誓い合った二人だそうだが、どのような子供が生まれるのか今から楽しみにしておくとしよう。そして他の参加者達よ。お前達もよくやった。実力で負けた者、実力を出し切れずに負けた者、様々だろう。お前達がローランド王国の将来を背負っていくことを心より期待している。』


やはり拍手喝采だ。私の時はシーンとしてたくせに。


『それではトロフィーと賞金の授与を行います。カース・ド・マーティン選手、前へ!』


武舞台の中央で国王が待っている。足が震えるな。昨日は平気だったのに……


「汝の勇戦に敬意を表してこれを授ける。また、この度の功績でどこでも好きな進路を選ぶ権利を得た。気が変わって魔法学院などにでも行きたくなったら申し出るがよい。」


「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします。」


新しい魔法を覚えるにはいいかも知れないが、勉強はしたくないな。


「さて、それとは別に優勝者の特権だ。何か望みを言ってみよ。叶うかも知れんぞ?」


「ありがとうございます。実は三つございます。まずはお聞きいただきたく存じます。」


「ふむ、言うがよい。叶えるとは限らんがな。」


『なんとカース選手! 厚顔にも程があるぅ! 確かに望みに回数制限などありませんが! 寛大な陛下につけ込むなんて汚いカース選手汚いぃー!』


言うだけなんだからいいだろ。叶えてもらえないことだってあるんだから。


「まずは一つ目。私はノワールフォレストの森とヘルデザ砂漠の間に家を建てました。そこに対空防御を備えたいのです。空からの魔物に対抗するその仕組みは陛下のご採択が必要だと伺いました。いつの日かそれを実装するためのご許可だけいただけないでしょうか。」


「お前の功績を考えると許可を出すことは容易い。しかし全く理解できぬ。後日詳しく説明せよ。次だ。」


『なんとカース選手! 都市型結界魔法陣の許可を欲しがっているぅー! 実は領主様だったりするのかぁーー! 私のハートがときめいてきましたぁー!』


やっぱりどこもギルドの受付嬢ってのは金と権力が好きなんだな。素直で好感が持てる。


「二つ目は許可証です。まずはこちらをご覧下さい。」


私は国王に金貸しの許可証を見せる。


「一等金融士? アジャーニ……フランティア……?」


「私の本業は金貸し。普段は『金貸しカース』と名乗っております。闇ギルドを無視するならば、金貸しに許可など必要ありません。しかし私は敢えてクタナツのお代官様と辺境伯閣下からこちらをいただいております。この上は国王陛下からもいただければローランド王国内で誰にはばかることなく金貸しができるという訳です。」


「分からぬ……だが分かった。いいだろう。これも改めて聞かせてもらうぞ。次だ。」


『もはや意味不明! わざわざ金貸しの許可証を求めているぅー! そんなものがあっても闇ギルドには対抗できないぞ? 分かってないのかぁー!?』


そんなもん対抗する必要なんかないっての。


「では三つ目です。法律を作っていただきたいのです。海や川、その他お風呂以外で水遊びをする場合の服装に関してです。こちらも少し複雑になるかと思いますので、後日まとめてご相談させていただきたく存じます。」


「やはり全く分からぬ。お前は一体何を考えているのだ? 後日使いを寄越す故、王宮まで来るがいい。じっくり聞かせてもらうぞ?」


『やはり意味不明! わざわざ海で泳ぐ物好きが一体どこにいるぅー! 陛下も困惑なされているぅー!


ふふふ、ついにあのアイデアを解き放つ時が来たな。そしてダメ押しだ。


「最後に、お願いを三つにしたのには根拠があります。本来なら一つでも過分。それを三つも聞いていただくなどと忌むべき強欲と思われても仕方ないかと思います。

一つ目は優勝したこと。これはそのままですね。二つ目は、全試合開始位置から動かなかったこと。それに免じて陛下の温情にお縋りしたく存じます。そして三つ目、こちらの首輪をよくご覧ください。見覚えはございませんでしょうか?」


そう言って私は特注の首輪を外し、国王の側近に渡す。


「これは!? 夏頃にアントニウスに下賜したものか!? まさかこれを付けたまま戦っていたというのか!?」


「御意。それに免じて三つ目の温情を期待する次第です。」


『ふざけんなぁーー! 首輪がどうしたぁ! 魔封じの首輪でも付けていたって言うのかぁー!』


『あれは拘束隷属の首輪、それも王族用の特注品じゃ……』


『なんだと!? そんなバカな……あり得るのか……?』


おっ、場内がシーンとなった。驚いてくれてもいいんだぞ?

もっとも、これでも効かなくなったぐらいなんだがな。


「ローソン、これを着けてみよ。」


「はっ!」


国王は最寄りの近衛騎士で試してみるようだ。私も興味深い。ベレンガリアさんに着けたのは普通の方だしな。


「ぐっ!」


騎士はなす術なく膝から崩れ落ちた。魔力だけでなく体だって動かせなくなるんだから。他の騎士達が慌てて首輪を外している。外せなくなる機能は付けてないから普通に外せる。


改めて目の前で着けて見せる。


「と言った訳でして、図々しくも三つお願いいたしました。お召しをお待ちしております。」


国王がフリーズしている。アレクが心配だからもう行くぞ?



『これにて王国一武闘会! 十五歳以下の部、魔法あり部門を終了いたします! それでは国王陛下の御退出です! ご起立・脱帽でお見送りください!』


おっと、そうだった。国王より先に動くのはまずいな。ベリンダさんナイスフォロー。

ワンテンポ遅れて国王は我に帰ったらしい。

その後、上空からドラゴンが現れて、国王は空へと消えていった。


さあ、アレクの元へ!

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