第537話 三回戦第一試合

準決勝、ついに残りは四人。

私とアレク、ナグアット選手にカッサンドラ選手。さあ、抽選だ。できればアレクとは当たりたくない……


アレクが一を引いた。

ナグアット選手は三だ。

カッサンドラ選手は……二!


やった!

私の相手は第二試合、ナグアット選手だ!


「アレク、分かってると思うけど強敵だよ。気合でぶっ飛ばしておいで。」


「ええ、分かってるわ。先に決勝で待ってるわね。」


「聞き捨てならないわね。もう私に勝ったつもり? さっきのような戦い方では私には勝てないわよ?」


カッサンドラ選手だ。背丈はアレクと同じぐらいだが、全体的にアレクより細い。表情は陰鬱、乱れた紫の髪のせいで余計にそう見える。


「ご忠告ありがとう。私の戦い方は変わらないわ。対戦してからのお楽しみにしておきましょ。」


「ふん……」


アレクは余裕だな。




「いい勝負をしよう。」


こちらはナグアット選手だ。気負いも緊張もなく自然体だ。


「どうも。いい勝負をしましょう。」


スティード君に近い体術、剣術に加えてアレク並みの魔力。そして私以上の冒険者経験。強敵だな。


『大変長らくお待たせいたしました! 決勝トーナメント三回戦、第一試合を始めます! 一人目はァー! アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル選手! 高い魔力に任せて力づくで勝っている印象ですが、今回はどうでしょうか!?

二人目はァー! カッサンドラ・ド・ベクトリーキナー選手! なんと魔法工学博士として名高いベクトリーキナー卿の末娘だぁー! 中等学校四年! もちろん首席! 幻術が有名だが、それだけを警戒すると決める一撃が飛んでくるぅ! 見逃せない対決だぁー!』


『装備についての物言いはありますか?」


「ありません。」

「そこの小さい盾を借りたいです」


『うーむ、ギリギリじゃな。こんな時は、アレクサンドリーネ選手よ。カッサンドラ選手がその盾を使うことを許可するか? 見た目は小さいがかなりの強度じゃ。』


「構いませんわ。」


『よろしい。ではカッサンドラ選手よ。使うがよい。』


「ありがとうございます」


『では双方構え!』




『始め!』


『氷弾』


アレクの氷弾がカッサンドラ選手の額を突き抜ける。まるで立体映像を通り抜けるように。


「効かないわ。だからそんな戦い方じゃあ勝てないのよ」


『燎原の火』


アレクは氷弾がすり抜けたことなど気にもせず武舞台全てを火で覆い尽くした。すると……


カッサンドラ選手は火の中で平然と佇んでいるのに、円状に燃えてない範囲があった。


『火球』


「くっ」『水壁』


『やはり幻術を使うことがバレていると対応が早いです! 開始前から既に幻術を使い居場所をズラしていたことなど気にもしてないようだぁー!』


『開始前から魔法を使うのは一応反則じゃが、対戦相手にバレなければ構うまい。こちらから指摘することはないからの。』


『初手の氷弾はただの確かめ。初めから燎原の火まで使う予定だったようだな。』


それからもアレクの猛攻は止まらない。珍しく火球ばかり使っている。燎原の火に紛れて見えにくいのは戦略だな。


「調子に乗るんじゃないわよ!」『渦巻く波濤』


『おおーっと! カッサンドラ選手! 武舞台の上を丸ごと押し流そうとしているぅー! あわよくばアレクサンドリーネ選手も場外へ落とす作戦だぁ!』


『どちらも見事じゃ。ほぼ溜めなしで上級魔法を撃つとはの。』


『わざわざ渦巻く波濤を使う必要があったかは疑問だがな。何か思惑があるのだろうか?』


しかしアレクの方が先を読んでいる。アレクはどーこだ?


『水球』『水球』『水球』


アレクの水球があらゆる方向からカッサンドラ選手を襲う。出どころの分からない魔法は避けるにも防御するにも大変だぞ?


敢えなく水球が直撃し場外へ落ちるカッサンドラ選手。


『場外! 勝負ありー! アレクサンドリーネ選手が勝ったぁー!』


『…………』


『…………』




『燎原の火』


『アレクサンドリーネ選手!? 何を!? もう勝負は……』


その瞬間、水球に包まれたアレクが空中から落ちてきて……武舞台に叩きつけられた……


「ふふ、やるねぇ。でも空中に飛び上がったぐらいで私の目を逃れたつもり? 甘いんじゃない?」


『氷散弾』


アレクは気にもせず攻撃をする。


「ちいっ」『水壁』


「甘いのはあなたよ。あんなバレバレの場外もどき。もう逃がさないわ!」『火球』『旋風』『風壁』


『なんとぉー! カッサンドラ選手! 場外に落ちてなかったぁー! 落ちたと見せかけた幻術だったぁー! 騙された私が間抜けなのか、それともカッサンドラ選手の幻術が強力なのかぁ!』


『あの歳で恐ろしい幻術を使いおる。当時のイザベルを超えておる。』


『ああ、私達は幻術だと思って見ているから気付けたのだ。アレクサンドリーネ選手も同様だがな。』


『なるほど! 私が悪いわけじゃないと分かって安心です! さあアレクサンドリーネ選手、高所から叩き落とされて瀕死かと思えば、間髪入れずに連続魔法! カッサンドラ選手を取り囲んだ! 先ほど見たような炎の旋風だぁー!』


『ぬっいかん、やめよ! 勝負ありじゃ! カース! 止めろ!』


マジかよ、おじいちゃん? いいのか?

しかし確かにあれは危ない。『高波』


武舞台を丸ごと消火する。アレクは飛んで避けているが、カッサンドラ選手は場外へ落ちる。服はおろか頭部も黒焦げ、ギリギリ生きている状態だ。取り敢えずポーション。


『勝負あり! アレクサンドリーネ選手の判定勝ちといたします!』


『間に合ったようじゃ。先ほど見た火の旋風をさらに風壁で囲うことで、威力を数倍に高めておる。間に合わせの水壁では防ぎきれぬわ。』


『さすがゼマティス卿、的確な判断おそれいる。私にはカッサンドラ選手が命と敗北のどちらを惜しむか判断が付かず止められなかった。』


『あの年代は全てワシの孫のようなもの。また映えある王国民は全て陛下の子。いたずらに命を散らすべきではない。カッサンドラ選手に異存があればワシが聞くとしよう。』


やっぱこのおじいちゃんカッコいいわ。尊敬するな。何でもアリだから死んでも仕方ないのに、それでも救えるなら、間に合うなら救うってスタンスかな。


それよりアレクも心配だ。結構高くから落ちたよな。


「大丈夫? 骨が折れたりしてない?」


「ええ何とか大丈夫よ。まだまだ私も甘かったみたい。空中にいるものだから、さらに上からの攻撃なんてこないと思ってしまったわ。」


「それならよかった。はいポーション、飲んで。」


「だめよカース。今は敵なんだから貰えないわよ。」


ぐおっ! アレクに敵と言われてしまった。確かにそうなんだけど……

意外にダメージが大きいな……

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