第526話 決勝トーナメント 三回戦

さて、いよいよ準決勝か。疲れが取れないし、筋肉痛がますます酷くなってきた。しかし相手はもっと酷いはずだ。


『楽しいお祭りも残すところ後四試合! 決勝トーナメント三回戦、第一試合一人目はクタナツの強者スティード・ド・メイヨール選手! 先ほど見せつけた足腰の強さは幼少の頃より水中で鍛錬をして得た賜物だとか! 背中に折れた妙な棒を背負って入場です!

そして二人目は王都の雄マルセル・ド・アジャーニ選手! アジャーニ家の直系に生まれ、弛まぬ努力の結果全ての教科でトップを取った! こちらも何と明日の魔法部門にエントリーしていたぁぁー! しかぁも! 真新しい装備に着替えて入場です!』


マルセル選手の装備はさっきよりグレードアップしてないか? 革鎧だったのが金属鎧になってるし、頭部もしっかり固めてある。鍛錬棒を渡しておいてよかった。


『双方構え!』





『始め!』


いきなり間合いを詰めて斬りかかるスティード君。まだ鍛錬棒は温存か。まあ背中の防御にもなるし。

マルセル選手はギリギリではあるが、スティード君のスピードに追いつけているようだ。激しい剣戟戦となっている。手数のスティード君に、一撃の威力に勝るマルセル選手か。


スティード君は動きを止めない。ひたすら攻撃を続けている。マルセル選手はその全てに対応できてはいないが、致命傷をくらわぬよう装甲の厚い所で受けたりしている。やはり伊達に高い装備をしているだけではないな。


『スティード選手は勝負を急いでいるように見えますが、ベルベッタ様いかがですか?』


『私にもそう見える。マルセル選手の装備を考えたら長期戦は不利だ。それだけに勝負を急ぐのは当然なのだが……私にはスティード選手が怒りに身を任せてただ暴れているようにも見える。』


言われてみればその通りだ。だがスティード君はマルセル選手に何か怒りを抱くようなことがあったとしても冷静に戦えるタイプだ。どうしたのかな?

一方、マルセル選手にも余裕があるわけではない。あれだけの激しい攻めだ。むしろよく防御できているものだ。


「君は、こんなに強いのに、どうして……」


「何を言っている? 君こそこの戦いは何だ? 先程までとは全く別物じゃないか。それで勝てるつもりか?」


鍔迫り合いの状態で何か話しているようだ。スティード君は何か悔しそうな顔をしているが……


スティード君は鍔迫り合いからマルセル選手を吹っ飛ばした。そしてロングソードを投げ捨てマルセル選手を押し倒しマウントポジションをとった。


『おおーっとスティード選手どうしたことだ!? 馬乗りになったはいいが、わざわざ素手で殴りつけているぅー! これは意味がない! いやむしろ手が、指が折れてしまーぅ!』


『いや、あれは……』


「ぐぎゃあぁぁぁーーっ!」


マルセル選手の悲鳴だ。それにスティード君の手の中にあるものは……


「聞けぇっ! アジャーニ家の者ども! たった今マルセル選手の目玉を片方抉り取った! 要求は一つ! 貴様らが誘拐したサンドラ・ムリスをここまで連れて来い! 五分だけ待ってやる! それを過ぎたら残る片方の目を抉った上で殺す!」


『な、なんとぉー! お聞きになりましたでしょうか!? 人質です! スティード選手は人質を取られていたようです! そこで覚悟を決めてマルセル選手を人質に取り返してしまいました! 何でもアリのこの武闘会! もちろん人質もアリです! しかし人質を取れば勝てるとは限らないのがこの武闘会の面白いところなのです!』


『しかもスティード選手はクタナツ出身。クタナツの人間には人質が通用しないことをまさか知らなかったのだろうか? それともアジャーニ家の権勢の前にはクタナツ者だろうと膝を屈するとでも勘違いしたのだろうか?』


『さあ! 場内が騒ついて参りました! おおーっと武舞台への乱入者が……現れませんでした! あれは氷壁ですね。乱入者は氷壁に阻まれて乱入できません! さあ、残り二分! どうするアジャーニ家!』


『ふむ、見事な氷壁だ。私でもあれを壊すとしたら骨が折れそうだ。』


まさかそんな状況だったなんて。言ってくれよスティード君。いや、まさか知らされたのが私と会話した後なのか? それはともかく乱入者ぐらい鎮圧しておこう。武舞台に近寄る奴は片っ端から敵と見なす。『落雷』


「おおーっと! 何者かが武舞台をガードしているぅー! これでは乱入どころか悪事の証拠を積み上げるだけだぁー! マルセル選手の命は風前の灯かぁー!』


『抉られた片目は握り潰されてなければ元に戻せる。早めの決断が必要だな。』


ちなみにスティード君はマルセル選手が抵抗できないように両腕をへし折っている。高価な鎧も関節は曲がるもんな。スティード君の敵ではなかったようだ。鍛錬棒を貸す必要なんてなかったな。

残り一分。


「すまない……まさかそんなことになっていたなんて……」


「知らなかったとでも言うのかい?」


「すまない……知らなかった。だが、知らなかったでは済まされないことも分かっている。甘んじて制裁は受けよう。」


何やら話しているようだが、氷壁ごしではさすがに聞こえないな。


「時間だ。残った目をもらう。そして死んでもらう。」


そこに再び乱入者が!

サンドラちゃんだ! 氷壁を一部解除。


「スティード!」

「サンドラちゃん!」


人質から解放されて王子様へ抱き着く感動のシーンだ。こうなるとマルセル選手とアジャーニ家の惨めさが浮き彫りだな。この期に及んでスティード君に手を出すなら私も手を出すぞ。


『感動です! 感動の一場面です! ああ私にも白馬の王子様は来てくれないものでしょうか!? もうスティード選手の勝利でいいですね? マルセル選手は立てないでしょうから!』


『いいだろう。クタナツ精神をしっかり見せてもらったことだしな。』


『勝者スティード・ド・メイヨール選手! 人質を取られたにもかかわらず! あのアジャーニ家を敵に回したにもかかわらず! 女の子を見事に救った上で勝ってしまいました! 皆様、盛大な拍手を!』


スティード君はすごいな。人質を取られても勝ってしまった。それも無傷で救出までして。わずか五分で人質を解放したのも気になるが、これだけの観客の前で恥を晒したんだ。そうそう手出しもしてこないだろう。


「カース君! 助かったよ! 本当にありがとう!」

「また助けてもらっちゃったわね!」


「いいよ、そんなの。あの氷壁がなくてもスティード君は自力で撃退したよね?」


本当にそうだと思う。あまり魔力を込めてない落雷で気絶するぐらいだから大して強くない奴らなのだろう。


「それでもだよ。それにこの棒のおかげで立ち向かう勇気が貰えたんだよ! 本当にありがとう! 先に決勝で待ってるから、絶対に来てよ!」


「分かった。幸い相手は結構怪我をしていることだし、勝ち目はあるよ。行ってくるね!」


キョトンと不思議そうな顔をして私を見る二人。何か変なことを言ったかな? まあいいや、これに勝てば決勝だ! 気合入れていこう!

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