第525話 二回戦第三試合

二回戦も残り二試合。

上手くいけば決勝でスティード君と戦うことができる。例え勝ち目がなくても……


『決勝トーナメント二回戦第三試合を始めます! 一人目はカース・ド・マーティン選手! ただの場違いなオシャレボーイが運良くここまで勝ち残ったのかと思えば、違ぁーう! 何とこの選手もクタナツ出身! それも『聖なる魔女』イザベル様の三男だったぁー! ということは! 王太子殿下の近衛『模範騎士』ウリエン様とド腐れクソ女『虐殺』エリザベスの弟だぁー! 十等星のペーペー冒険者と見せかけて汚い! その上明日の魔法部門にまでエントリーしているぅぅ! 正気なのか!?

二人目はムラサキ・メタリック選手! 詳細不明!あからさまに偽名です! そしてド派手な紫の鎧! はたしてそれは勇者への憧れか、それとも王家への敬意か!

さあ、準備はいいですね?』


『双方構え!』




『始め!』


こいつは偽勇者の関係者か? それより偽名がアリなら年齢確認はどうするんだ?

フルプレート並みに全身を覆いやがって。その上ふてぶてしく歩いて寄ってきやがる。余裕かましてやがんな。


「テメー、偽勇者と関係あんのか?」


「…………」


無視か。あいつは戦闘中なのにペラペラしゃべる奴だったよな。紫の鎧といい、身の丈に合わない大剣といい、奴をそのまま小さくしたような姿だ。ムカつくな。


『何やら話しかけたカース選手。しかし返事がありません! さあ、見合ってないでガンガン打ち合ってくださいね!』


やってやるさ。打つぜホームラン!


『おーっと素早く懐に潜り込んだカース選手! その場で八相のような構えから横薙ぎ! ムラサキ選手反応できずに脇腹直撃だぁー!』


『ふむ。いい音はしたが、あまり効いてないようだ。恐ろしい鎧と木刀だな。』


マジかよ。虎徹でフルスイングしたのにほとんどへこんでない。まさか偽勇者の鎧と同じ材質なのか? だとしたらヤバイ……

こんな時は、関節攻めだ。

左膝を横や正面から叩きまくってやる。余裕かましているうちにブチ折ってやる!


『カース選手の連撃が続きます! そこにまるでハエを追い払うかのように大剣を振るうムラサキ選手! 対照的な攻防が続きます!』


少しずつではあるが膝周りの鎧がへこんできた。あんまりへこむと膝が曲げられなくなってしまうぞ?

おらぁ! もう一回ホームラン!

よし、膝の動きが鈍くなった。ならば後ろから膝を叩く! つまり強烈な膝カックンだ!

効いてる! 左膝が地面に付いた! チャンス!

その首もらった! 延髄目がけて虎徹を振り下ろす! 鎧越しでも延髄ならばそれなりに効くだろう。

ちっ、左腕で防がれたか。ならば次は左の肘を破壊してやろう。


『何という猛攻! 一度はムラサキ選手に膝をつかせ、あわや決着かという場面でした! しかし間一髪、左腕による防御が間に合ったようです! それにしてもあれだけ丈夫そうな鎧を攻撃して折れることもないカース選手の木刀は一体どうしたことでしょう?』


『トレント系の魔物素材だろうな。それも魔境の奥深くに住む大物。どうやって手に入れたのか、興味深いところではある。』




さすがに肘には上手く当たらないか。それにかなり疲れてきた。幸い装備のおかげで汗だくになるということはないし、暑くてたまらないってこともない。スタミナが尽きるまで叩き続けてやる!

左膝辺りはもうベコベコでろくに動かせないだろう。左肘あたりもかなりへこんできた。どうやら肘にダメージが溜まり、左手は動かせなくなったらしい。それにしても、こいつ今までどうやって勝ってきたんだ? 他の試合もしっかりチェックしておくべきだったな。

さて、これで重そうな大剣も振るえまい。さっさと降参すればいいのに。


『あれだけの猛攻を受けてなお倒れません! 鎧がすごいのかムラサキ選手がすごいのか! それにつけてもカース選手のスタミナはどうなっているのか! 汗ひとつかいていません!』


『装備の力だろうな。大物の魔石を使って温度調節や汗排出などを付与するのは長期戦でも有効だからな。』


さすがに腕も肩もだるくなってきた。もし素手で虎徹を振ってたら手の皮なんてズタズタだったろうな。手袋をしておいてよかった。さすがにもう終わらせてやる!

奴の周囲を回りながら首元に虎徹を叩きつける。ろくに防御もできてないため叩き放題だ。マジでどうやって勝ち上がってきたんだ?

これだけガンガン叩かれればダメージはなくても衝撃や音はかなりのものだろう。いい加減倒れろよな。

おや? ピクリとも動かなくなった。気絶したのか? 離れて様子を見よう。


それから奴はグラついて武舞台に崩れ落ちた。


『勝負あり!』

『結局最初から最後までカース選手のペースで、ついに押し切ってしまいました! 当たれば胴と下半身が泣き別れしそうな攻撃も当たらなければ意味がない! 逆に小さな攻撃もコツコツ行えば岩をも穿つ! そんな攻防を見せてくれました!』


『今まで見た中だと、カース選手の木刀がなければムラサキ選手に勝てそうな相手はいなかった。組み合わせの妙か……ムラサキ選手にとっては不運だがな。』



あー、疲れた。でも第四試合はしっかり見ておかないとな。勝者が私と当たるのだから。せいぜい時間をかけてやってくれ。あぁ……かなり疲れた……




第四試合が始まったのだが……困ったな……どっちも強い。しかし、それだけに消耗してくれそうだ。どちらも堅実なタイプだし、決着まで時間がかかりそうだ。




激闘の末、勝者が決まった。私は疲労や筋肉痛だけだが、私の相手となる選手はその上怪我までしている。これなら勝機が見えてきた。基本に忠実な相手だから正攻法で戦う以外の方法が見当たらないんだよな。




準決勝が始める前にスティード君を探しておかないとな。大事な用があるのだ。いた!


「おーいスティード君、大事な用があるんだよ。」


「どうしたの? もうすぐ始まるけど。」


「これを貰ってくれないかな。」


「これは?」


「エビルヒュージトレントの鍛錬棒、の片割れ。僕の木刀と同じ材質だよ。使うかどうかの判断は任せるから、貰って欲しい。」


「カース君……、これはさすがにミスリルの腕輪どころじゃない。貰えないよ。」


「じゃあ貸すだけ! マルセル選手の装備はかなりの上級品だけあって、普通のロングソードだと相手にならないかも知れないからさ。」


スティード君ならそれでも勝てるかも知れないが……領都でやった子供武闘会の時のように装備の差で負けて欲しくないんだ。


「分かった。ありがたく借りるよ。これが折れてる理由は今度じっくり聞かせてね。」


「もちろん! 実はかなりの自慢なんだよ!」


よし、これなら勝てそうだ。私も勝ってスティード君と決勝だ!

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