第483話

先ほどの親衛隊三人組はアンリエットお姉さんが回復させていた。私がお姉さんを手放しで褒めるとシャルロットお姉ちゃんが自分だってできると言いたそうな表情をしていたな。


ちなみに帰りはゼマティス家の馬車だ。護衛が二人に私達が四人、六人乗っても少し余裕がある室内だ。


「姉上はまた何か新しい魔法を開発してたりしない?」


「してるし使ったけどアンタには効かなかったわよ。どうやって防いだってのよ。」


「へぇ、私も知りたいわ。エリザベスにしては珍しくここ三ヶ月ぐらい決闘してないことだし。」


新しい魔法を使っていたのか。言われてみれば自動防御の魔力消費が桁違いだった気がする。姉上なら当然だと思っていたが秘密があるのか。


「言うわけないでしょ。アンリとはいずれ決着をつけることになるんだし。」


何ぃ? まさかアンリエットお姉さんまで兄上に惚れてるのか!?


「ふふ、それもそうね。楽しみにしておくわ。」


まあこの分なら私にはこっそり教えてもらえそうだな。




そして屋敷に到着。


夕食はおじいちゃんが帰ってきてからなので、もう一時間後ぐらいらしい。おばあちゃんは優しくて上品な貴婦人だが、おじいちゃんはどんな人なんだろう?


ここが自宅ならそれまでに風呂でも入るところだが、ここではそうもいかないので用意してもらった部屋で錬魔循環と魔力放出でもしてよう。魔境と違ってここでなら魔力が空になったって問題はないよねーコーちゃん?「ピュイピュイ」


そんなことをしていると、シャルロットお姉ちゃんが部屋に来た。やはりノックはしないのか。私が裸だったらどうするんだ?


「何やってたの?」


「いつもの錬魔循環と魔力放出だよ。特に魔力放出は最近あんまりできなかったからさ。もう魔力が空っぽだよ。」


「ねぇ何かコツとかないのかしら? 私も強くなりたいわ。」


「うーん、実は教えるのは苦手なんだよね。指の一本ずつとか足の指とかから魔力放出をやってみたらどう? 結構難しかったよ。」


「それはやってるわ。両手両足の指から同時にだって魔力放出できるわよ。」


「うーん、なら全身からだとどう? 全身から全魔力を一瞬で放出するの。」


「何それ……そんなの出来るわけないじゃない……」


「ならその辺りから始めてみたらどう? どうやったら上達するかなんて僕にはよく分からないからね。」


「そうね……やってみるわ。そろそろ夕食の時間よ、行きましょう。」



昼食を食べた部屋、食堂にはアンヌロールおばあちゃん、マルグリット伯母さん、アンリエットお姉さん、ギュスターヴ君、そして姉上が既に着席していた。


「遅くなりました。お祖父様はまだお帰りではないのですね。」


「カースや、そんな呼び方をしたら拗ねてしまうわ。おじいちゃんと呼びなさいな。」


「はい! 分かりました!」


「おばあちゃん! カースったら全身から全魔力を一瞬で放出するんですって! 私もやるわ!」


シャルロットお姉ちゃんは燃えているようだ。頑張って欲しい。


「あらそう。すごいのね。それよりカース、先ほどアレクサンドル家から使いが来たわよ。明日の昼だけど宿ではなくて上屋敷に来て欲しいそうよ?」


「えー? そうなんですか? 嫌だなぁ。でも分かりました。」


「何よカース、アレックスちゃんに良いとこ見せてあげなさいよ。」


「え? カースってアレクサンドル家と関わりがあるの?」


シャルロットお姉ちゃん以外には姉上が話してくれたのだろう。お姉ちゃんはさっき私の所にいたから聞いてないのかな。


「僕の最愛の女性だよ。クタナツの分家、アレクサンドル男爵家の一人娘なんだ。王都には一緒に来たからね。それが何で本家の上屋敷なんかに呼ばれるんだか。」


「そう……相思相愛なのね……」




そんな恋バナをわいわいしていたら、おじいちゃんのお帰りだ。全員起立して出迎える。


『お帰りなさいませ!』


「ただいま帰った。エリザベス、そしてカースよ。よく来てくれた。儂は嬉しいぞ。二人とも夏休みじゃろう? いつまで居るんじゃ? ずっとか? ここに住むか?」


本当に爺バカなのか……

背格好は私と変わらない小柄。短く整えられた白髪に理知的な眼差し。ふさふさとした口髭がさらなる聡明さを醸し出している。


「おじいちゃん初めまして! イザベルの三男カースです。そしてコーちゃんです。王都には今週末まで、こちらには今夜一泊の予定です。」


そんなに絶望的な顔をしなくても……


「こんばんはおじいちゃん。私は外泊届を出してないので夕食後に帰ります。」


魔法学院は夏休みでも外泊届が必要なのか? おじいちゃんの顔が更に絶望に染まる。


「がっ、カース……たった一泊なのか……エリザベスも外泊届ぐらい儂が教授に言えば……」


「だめですよおじいちゃん。規則は守らないと。貴族は平民を導く存在なんですから。」


アンリエットお姉さんが助け舟を出す。そうだよな。ルールは守らないと。何度も関所破りをしてしまった私が言うのも変だが。


「さあさあ夕食にしましょう。あなたも座って。」


おばあちゃんの一言でようやく夕食が始まる。姉上はこの長いお祈りには慣れているのだろうか?

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