第478話

先ほど路上で私を無視した女の子はどうやら従姉妹らしい。


「あー! アンタさっきの変なヤツ!」


「こんにちは。従姉妹になるのかな? カース・ド・マーティンです。」


「どこの平民が迷い込んだのかと思ったわ! マーティンって名乗れば案内したのに!」


あぁ、私が悪かったのか。しかし道を聞くのに名乗るってのも変な話だ。初対面の貴族同士の会話で道を聞くなんてまずないもんな。


「そんなことよりキチンと自己紹介なさい。」


おばあちゃんが彼女を窘める。


「シャルロット・ド・ゼマティスよ。魔法学校の五年生なんだから!」


「五年ってことはもう卒業なんだね。やっぱり魔法学院に進学するの?」


「当然ね! 私はゼマティス家の女なんだから!」


「この子の他には兄が一人に姉が一人。そして弟が一人いるの。長女はエリザベスと同級生よ。昼頃にはこの子の母親も帰ってくるわ。」


「それよりアンタ! 魔法の腕を見てあげるわ! イザベル叔母様の息子なんだからそれなりにヤルんでしょ?」


「いいよ。魔法対戦でもやる?」


「そんなヌルいことやってられないわ。私に好きに撃ち込んで来なさい。全部跳ね『氷弾』かえ……」


やっぱりこんなもんか。当たらないように、顔を掠めるように撃ってみた。そして室内だから壁に当たる前に消した。


「お姉ちゃん大したことないね。」


実はさっき無視されて少しムカついていたので挑発してみる。すると『氷弾』背後から撃たれた。おばあちゃんかな? もちろん私に当たるはずもない。自動防御は無敵だぜ。


「うふふ、シャルロットの負けね。エリザベスとも似たようなことをしたのにあなたも学習しないわね。素直に外で魔法対戦してごらんなさい。」


「う、うん……」


急に大人しくなったな。よく見ると赤みがかった金髪にスレンダーな体型。目つきはキツいが顔立ちだって悪くない。母上の姪なんだから当然か。




それから昼までは仲良く魔法対戦を行った。アレクより魔力が高く連発できるようだが、一撃の威力に欠けている。その代わり使える魔法の種類は多そうだった。いきなり地面が陥没したのには驚いたな。その範囲がぴったり円に沿っているものだから見事な制御と言えよう。思わず円外に手を着きそうになったが、とっさに浮身を使って事なきを得た。勉強になる楽しいひと時だった。




「お昼の時間でございます。大奥様がお呼びになられてございます」


メイドさんが呼びに来てくれた。


「分かったわ。行くわよカース。」


いつのまにかアンタではなく、カースになっていた。私は普通にお姉ちゃんと呼ぼう。


「来たわね。さあお昼にしましょうか。その前に自己紹介ね。」


食卓、広いテーブルには母上より少しだけ年上に見える上品な女性と生意気そうな男の子が着席していた。


「ようこそ我が家へ。あなたのお母さんの兄の妻、つまり伯母のマルグリットよ。」


シャルロットお姉ちゃんとタイプがまるで違う、優しそうな美人だ。何歳なんだろう? 見た目は三十代半ばだが。


「そして二男のギュスターヴよ。ほらカースお兄ちゃんにご挨拶しなさい。」


「ギュスターヴ・ド・ゼマティス、です、魔法学校の一年生、です……」


初対面で緊張してるのかな?


「こちらこそ初めまして。フランティアはクタナツより参りましたカース・ド・マーティンです。学校は行ってませんが、年齢はギュスターヴ君の二つ上、シャルロットさんの二つ下になるのでしょうか。それからこの子はフォーチュンスネイクのコーネリアス。コーちゃんと呼んでやってください。よろしくお願いいたします。」

「ピュイピュイ」


「え!? フォーチュンスネイク!? しかもカースって魔法学校とか通ってないの!? じゃあ魔法学院にも行かないの!?」


「行ってないし、行かないよ。言ってなかったけど僕の本業は金貸しと冒険者だからね。」


ゼマティス一家全員が驚いた表情を見せる。冒険者はともかく金貸しだもんな。


「カ、カースや。金貸しとはあの金貸しなのかい?」


「そうですよおばあちゃん。金を貸して利子で稼いでいます。もちろん両親の許可は得ております。」


「そ、そうなの……なら私達がとやかく言うことじゃないわね……」


マルグリット伯母さんとシャルロットお姉ちゃんは唖然としたままだ。


「そんなことより食べませんか? とても美味しそうですよね!」

「ピュイピュイ!」


私が言うことではないが空気を変えないとな。


忘れていたが、上級貴族は食前のお祈りが長い。危うく先に手を付けるところだった。


それからの食事は和やかだったし料理は美味しかった。おばあちゃんが腕を振るってくれたらしい。これこそ本当のご馳走だよな。ありがたいことだ。


さあ昼から何をしようかな。

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