第477話

八月八日、ヴァルの日。

今日は母上の実家に初訪問。朝からドキドキしている。


「じゃあカース、第三城壁内まで一緒に行きましょ。行き先は馬車任せだからどっちが先に降りるか分からないけど。」


「うん、それがいいね。」


そう思っていたら……

「辻馬車はこれより先は入れません。」

城門でそう言われてしまった。前回はセルジュ君のお姉さんトコの馬車だったもんなぁ。

私達の身分なら立ち入るのに問題はないので歩くことにした。気分的にはこちらの方がいい。


城門で聞いたところ、ゼマティス家の方がここから近いらしい。しかし……


「先に本家に行こうよ。どんな建物か見てみたいし。」


「カースったら……ありがとう。」


そしていつも通り腕を組んでテクテク歩く。見回りの騎士とすれ違うが、アレクの上級貴族オーラ故か職質を受けることなく目的の建物へ到着した。でかい……!


私が知ってる中では辺境伯邸にも匹敵するほどの大きさ……あの、部屋数が多過ぎて容易く迷子になる豪邸……

庭で百人規模のパーティーを軽く開催できるほどの広さ……に匹敵するのに上屋敷、つまり出張所とは。アレクサンドル領はもっと東だもんな。


「送ってくれてありがとう。明日のお昼ぐらいに宿で会いましょうね。」


今日は頬への口付けはなし。門の前だもんな。思いっきり門番さんもいるし。


「うん、また明日ね!」


そう言ってアレクの分のお土産を魔力庫から取り出す。結構多いな。門番さん、頼んだぜ!


さて、私は来た道を戻りながら探そう。きっと大きい家だからすぐ見つかるはずだ。しかし表札でなく家紋、紋章で探すなんて慣れないよなぁ。見回りの騎士に尋ねると面倒なことになりそうだし。


歩くこと十五分、同じような邸宅ばかりで迷ってしまった。さりとて騎士には聞きたくない。馬車は通りかかるが通行人はいない、困った。


おお、前から珍しく通行人だ。護衛を連れた少女だ。少し年上ぐらいかな? 尋ねてみよう。


「すいませーん。少々道を尋ねたいのですが、ゼマティス家はどちらかご存知ないですか?」


キツい目でこちらを睨むだけで無視か……

護衛は興味ないものを見る目で見ているだけ。


くそ、下級貴族風情と話す口はないってか。でも言いがかりをつけられるよりマシか。仕方ない地道に探そう。




結局見回りの騎士に声をかけたのだが、案の定あれこれ聞かれ、確認のため同行することになった。まあ道案内してもらってることに変わりはないのでいいのだが。

そして五分後、やっと着いた。


「こちらの子はご当主のお孫さんらしいのですが、確認をお願いします。」


騎士が門番に確認を取る。私は母上からの手紙を渡す、ただし爺ちゃん宛のものだけだ。


「この筆跡は……イザベルお嬢様! 少々お待ちを!」


この門番さんはそんなに昔からここにいるのか? 少し嬉しくなったぞ。


五分も経たないうちに門が開かれ、中には年配の女性が立っていた。


「騎士さん、この子は間違いなくうちの孫です。お勤めご苦労様でした。」


「はっ! ではこれにて失礼いたします!」


「ありがとうございました!」

道案内してもらったもんな。


「あなたがカースね。ようこそ王都へ。私はイザベルの母親、あなたのおばあちゃんのアンヌロールよ。」


「初めましてお祖母様。クタナツ騎士アラン・ド・マーティンが三男カースです。こっちはフォーチュンスネイクのコーネリアス、コーちゃんと呼んでやってください。お会いできて嬉しいです!」

「ピュイピュイ」


「あらあらそんな余所行きの挨拶なんかやめなさい。おばあちゃんと呼んで欲しいわ。分かった?」


「はい! 分かりましたおばあちゃん!」

「ピュイピュイ!」


「分かってないじゃない。まあいいわ。さあお入りなさい。かわいい蛇ちゃんもね。たっぷり話を聞かせてね?」


さすがに先程のアレクサンドル家と比べるとかなり小さい。しかし古いというより歴史を感じる、さぞかし歴史ある家系なんだろう。


応接室へ通されお茶が出てくる。旨い。結構歩いたからな。「ピュピュイ」


「これは母上からの手紙です。こっちはクタナツのお土産です。」


爺ちゃん宛は先程渡したので、おばあちゃん宛、それから伯父さんとその奥さん宛の三通を取り出す。そして私からのお土産も渡す。


「まあ、こんなにたくさん!? ホユミチカの風紋茶壺? 同じくホユミチカの湯呑みとコーヒーカップね。サヌミチアニのスカーフとハンカチまで。多過ぎよ……でもありがとうねカースや。」


いかん、前世での祖母を思い出してしまった……私が小学校の時に亡くなったんだよな。早くに夫を亡くして魚の行商をしながら母達を育てたとか。なぜこんな時に……


「どうかした? それよりお昼は張り切るわよ! たくさん食べなさいね。」


「はい! ありがとうおばあちゃん!」


いかんいかん、私は無駄に涙脆いんだよな。

その時部屋に誰かが入ってきた。ノックぐらいしろよ。


「おばあちゃーん! 私のいとこが来てるんだって?」


それは先程路上で私を無視した女の子だった。あー、このパターンね。これはファンタジーあるあるではなく、いわゆるお約束ってやつだな。

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