第463話

放課後、いつものようにアレクを迎えに魔法学校の校門に到着。


五分も待たないうちにアレクが出て来た。今日は一段と取り巻きが多いぞ……

私に気付いたアレクはダッシュ、いつものように飛び込んでくる。


「会いたかったわ!」

「僕もだよ!」


いつもだが一日千秋の思いで待っていたのだ。アレクもだろうか。


「この子達は今日の挑戦者よ。やるわよね?」

「いいよ。やろうか。」


金貨が歩いている。小銭稼ぎにはちょうどいい。


「今日は落雷は使わないでくれよ。」


この人は確か上級生だよな。


「いいですよ。他のを使いますね。」


「肉弾戦でも受けてもらえるのかな?」


こいつは魔法学校生なのか? 制服の上からでもムキムキだと分かる肉体だな。


「いいですよ。ただ僕に勝ち目がないのはどうしたもんですかね。」


負けても損はないから構わないけどね。




さて、人数は十五人ぐらいかな。


「誰からですか? 魔法対戦なら全員まとめてでもいいですよ。」


「それなんだが、ハンデをもらえないか? どうやら実力差がありすぎるようでね。君だけ円から出たら負けってのはどうだい? こちらは気絶か降参するまでってことで。」


「いいですよ。金貨一枚貰ったんですからそれぐらいはお安い御用です。」


それから、全員で掛かってくるのかと思ったら、意外にも一人ずつだったり多くても三人だった。しかも先日、城門の外で対戦した二十数人とは実力が段違いだし。




「やはり相手にならないか……では次は私、シャイナール・ド・バズガシカだ。」


そうだ、シャイナール先輩か。五年生の首席なんだよな。強そうだから落雷一発で終わらせたんだった。


『吹雪』


おお、訓練場が一気に寒くなった。私にはあまり関係ないが。


旋風つむじかぜ


おお、冷たそうな旋風。いや、もはや竜巻が私を襲う。


『氷刃』


その上竜巻の中で鋭い氷が渦を巻いている。あれに巻き込まれたらズタズタにされて死んでしまうな。


「あれはシャイナール先輩の必殺コンボ! 教官達ですら手を焼く大魔法だ!」


解説してくれるとはありがたい。ならば正面から打ち破ってみせよう。


火球ひのたま


鉄をも軽く溶かす超高温が氷を容易く蒸発させ、そこから生まれる爆発は竜巻を塵のように吹き飛ばす。


「ああっ! シャイナール先輩の氷雪旋風が消えた!? あんな下級魔法で!?」


『風球』


間髪入れず風球乱れ撃ち。先輩は氷壁でガードを固めているが……


『水球』


氷壁ごとぶち壊してみた。領都の城門に比べれば脆いもんだ。残り一人。


「最後は僕、ナルキッソス・ド・テレシァスです。武器なし魔力なしの肉弾戦でいいですか?」


「いいですよ。ただそんな僕に勝つ意味があるんですかね?」


「シャイナール先輩ですら手も足も出てないからね。何か一つ勝てるものが欲しいだけなんです。もちろん円からは出てもいいですよ。」


そう言って彼は服を脱ぎ捨て上半身裸になった。かわいい顔して筋骨隆々だ。


「どうだい、美しい筋肉でしょう? あの大会の夜、ダミアン様に彫刻をしていただいたのだけど、それはそれはすごい出来だったんですよ。」


「へ、へー……」


ダミアンの奴、そんなことをしてたのか。大変だったろうに。サービスいいんだな。


彼はスッと間合いを詰めて殴りかかってきた。避ける私。殴る蹴るを続ける彼。


ん? あれ? こいつもしかして武術の心得がないのか? 型も何もない、ただ殴るだけだ。蹴りだってそうだ。ただ足を振り回してるだけで腰も全然入ってない。

弱いのか? さすがに力はありそうだから捕まるとまずい。このまま避けてればスタミナ切れで逆転できるかな。いや、それよりも……


避けた拍子に地面を転がり、こっそり砂を拾っておいた。これで目潰し……「ぐあっ!」成功。その隙に背後から近寄りチョークスリーパー、極まった! 暴れるが一度極まったものがそうそう外れるものか。彼はそのままうつ伏せに倒れた。素手でも意外と勝てるものだな。


氷弾ひだん


危なっ! さすがに油断してた。肉弾戦なものだから自動防御を張ってなかったところに氷弾を食らうところだった。まあサウザンドミヅチの装備があるからどうせ無傷だろうけど。


「最後は私よ。今のタイミングなら当たると思ったのに、さすがカースね。」


アレク……何ていい攻撃をするんだ。しかし甘い。彼ごとやれば良かったのに。私だけを狙うから避けられてしまうってものだ。


『氷弾』『氷弾』『氷弾』


せっかくだから、先程の先生の動きを意識して避けてみる。自動防御なしだ。


『氷散弾』『氷球』


そう思っていたがもう無理、こんなの避けられない。しかもこっそり風弾、風球まで撃ってるし! 先生みたいに打ち落とすこともできない!


『水壁』


仕方ない、防御しよう。しかし上から石が落ちてくる。結構大きい!


『氷壁』


ガチガチに防御しよう。アレクめ、私に攻撃の隙を与えないつもりか……いい攻めだ。

いつの間に足元の土が泥に変わっており沈み込んでいく。あんまり足が沈んでしまうとブーツの中に泥が入ってしまう! それは嫌だ。


『石壁』


上下左右を石で固めてやった。前後は水壁だ。今度はさらに大きい金属の塊が飛んできた。標的破壊用の的!? しかし金属ならば……


『金操』


いくらでも動かせる。その間にもあらゆる方向から氷弾が飛んで来る。かなりの猛攻だ。すごいぞアレク。


「今日のアレクサンドリーネ様はかなり凄くないか?」

「ああ、鬼気迫るものがあるよな」

「ひょっとしてあの男、アレクサンドリーネ様を怒らせるようなことでもしたとか?」

「浮気とかっぐ」


妙なことを口走った男の子の口に氷が詰まっていた。さすがはアレク、見事な魔法制御だ。しかし勝負の最中にそんな隙を見せてはダメだ。


『水鞭』


大蛇のような水の魔法でアレクを捕らえ、私の上方三メイル地点まで引き寄せる。そこで魔法解除、私に向かって落下するアレク。お姫様抱っこの体勢で受け止め、そのまま唇を奪う。お仕置き半分、見せつけるのがもう半分だ。


アレクの手が私の背中に回る。こんな人前で悪い子だ。しかし、名残惜しいがここまでだ。ゆっくり顔を離す。


「さあ、帰ろっか。今夜はフェルナンド先生が居るよ。」

「うん、このまま帰りたいわ。降ろさないで。」


完全に二人だけの世界だ。誰も私達に話しかけてこない。これで多少は挑戦者も減るのではないかな? でもこんな一時間もかからず金貨十数枚ってかなり割りがいいんだよな。やはりまともに働くことはバカらしいな。

このままアレクを抱っこして帰ろう。まったく、甘えん坊なんだから。






二人が帰った後の訓練場では……


「相手にならないにも程があるだろ……」

「ナユートフ先生が負けたって本当なんじゃ……」

「ナルキッソスに素手で勝つなんて……」

「シャイナール先輩の魔法が一発で霧散したよな……」

「アレクサンドリーネ様の不意打ちからの猛攻だってあっさり……」

「しかもアレクサンドリーネ様のあの顔……あれが女の顔ってやつか……」

「ああ、蕩けきった? 身を委ねきった? そんな表情だったよね……」

「俺達もっと頑張らないと……」

「アレクサンドリーネ様だって普段は放課後まできつい稽古をされてるよな」

「そうだね。僕達だっていつまでも負けていられないよね。」

「そうだ! もうすぐ夏休みなんだから彼に教えを請おう! 彼はお金で動くタイプみたいだし!」

「それはいいね! ぜひお願いしてみよう!」


この話し合いにナルキッソスとシャイナールは参加していない。先程からずっと気絶したままである。アレクサンドリーネがカースを攻撃したため、そこから目が離せなくなり誰も介抱しなかったのだ。


なお、カースとアレクサンドリーネが数日後には領都を離れることは誰も知らない。アレクサンドリーネはアイリーンぐらいにしか言ってないためである。カースの家もアイリーンぐらいしか知らないので、最早頼むには手遅れ。それを知らない彼らは、いくら払って何を教えてもらおうかと盛り上がっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る