第424話

友人達が心配しているとも知らずカースとアレクサンドリーネは領都の南側、巨大なムリーマ山脈に来ていた。

とは言っても山脈の中心部には少しも近付いてはいない。山脈の北端、標高が五百メイルぐらいの地点である。





「ムリーマ山脈にはいくつも盆地とかあるらしいね。オーガの集落とか。」


「かなり広いわよね。何でもいそう。」


「今日は用心して出会うに任せようか。どんな魔物が出るんだろうね。」


「この辺りならそこまで危険な魔物も出なさそうね。」


この山は巨大だ。東西におよそ六百キロル、南北におよそ三百キロルもある。北の山岳地帯もすごいらしいが、私からすればここもすごい山だ。

峻険な峰もあれば、平坦な台地もある。山に挟まれて隠れるように点在する盆地もある。湖もあれは大河も滝もあるだろう。ハイキングをするにも面白いかも知れない。


おっ、定番の魔物ゴブリンだな。さすがに多い、十五匹ぐらいか?


「一人で大丈夫?」


「ええ、やってみせるわ! 見てて!」


氷散弾ひさんだん


おお、私の散弾の魔法を氷で再現したのか。やるな。弾数は多いが威力はそこまででもないのか。四、五匹は生き残っている。


『氷弾』


生き残ったゴブリンは個別に額を撃ち抜かれて倒れた。


「まだまだ威力が足りないわね。じゃあ魔石を取るから死骸の処理をお願いしていい?」


「いいよ。弾数はいい感じだったね。まさに弾幕だね。」


アレクは解体の腕も上達しており、次々と魔石を取り出している。私も負けていられない。『水操』


いつかのように逆円錐状の水を回転させて大穴を掘る。まさかここの地下にサウザンドミヅチがいるなんてことはないだろう。半径五メイルの泥沼の完成だ。ゴブリンの死骸を次々と投げ込む。やはりこれは楽でいい。大して魔力も使ってないので魔物もあまり来ないだろう。


コーちゃんは泥沼をプールのように楽しそうに泳ぎまわっている。ゴブリンの死骸だらけなのに……「ピュイピュイ」


「今度はコボルトかしら? 十匹ぐらいね。」


「頑張ってね!」


やはり血の匂いに引き寄せられるのか。雑魚がたくさん寄ってくる。

そんな雑魚どもを始末していると、


「ぎゃあー!!」


どうした!


アレクが怯えた子供のように私の後ろに回り込む。オークか。こんな雑魚になぜ……


あ……


ゴブリンやコボルトはなぜか腰布を巻いていることが多い。ない奴もいるけど。

ここのオーク達は巻いていない……


死刑!


『火球』

『火球』

『火球』

『火球』

『火球』


ふう、どいつもこいつも跡形も無く燃やしてやった。魔石も残ってない、少し勿体無かったか。「ピュイー!」

ごめん、食べたかったのね。


『水操』


山の中で火を使ってしまったからな。消しておかないと。

まったく、アレクの目を汚しやがって!


「オークは下品だよね。せめてゴブリンを見習えって話だよね。」


「え、ええ。怖かったわ。あれに襲われる冒険者もいるのよね……」


「ゴブリンやオークはそうするらしいね。魔物は怖いよね。でもアレク? 次は自分でやるんだよ。」


「ええ、みっともないところを見せたわ。もう大丈夫よ。」


それからしばらくは魔物ラッシュだった。強めの魔法を使ってしまったもんなー。




「アレク上!」


『氷壁』

魔物の一撃でアレクの氷壁は砕けた。しかし砕けた氷をそのまま攻撃に使っている。が、効いてない……


近くで見るとやはりデカイな。トビクラーか、ムササビとコウモリに似た巨大な魔物だ。翼、皮膜を広げたサイズはざっと十三メイルぐらいか。火と血が好物らしいので、早速来やがったわけか。


「アレク! やれる?」


「ええ! 任せて!」


「牙と爪には気をつけてね。」


意外とトビクラーは地上も走れる。あの巨体に体当たりなんかされたら終わりだ。アレクは大きい氷壁をいくつも用意して身を隠しながら攻撃している。しかし効いてない。火の魔法は効きにくい、氷の弾丸は威力が足りない。さあどうする?


トビクラーは地上の障害物が邪魔になったのか、空中に飛び上がり勢いをつけてアレクに突っ込んできた。口から火を吐いたりもしている。


『氷壁』


うまい! 直方体ではなく、ピラミッドのような形でトビクラーをうまく逸らした。

奴は三度空中に飛び上がり、同じコースでアレクに突っ込んできた。チャンス!


『氷弾』


長めに時間をかけて作った氷のライフル弾がトビクラーの脳天を貫いた!

奴の巨体が大地を揺らし地を滑り、アレクの氷壁の前で止まる。


「やったね! すごい威力だったよ! 頑張ったね!」

「ピュイピュイ!」


「ありがとう。やったわ、私、トビクラーを……」


「しっかり見てたよ。すごかったね。」


こいつは私が収納しておこう。

こんな大きな魔物をアレクは一人で……少し泣きそうになってきた、嬉しい。


少し早いけど、大物を仕留めたことだし帰ろう。


ギルドにて解体を頼み、私は可食部を貰い、アレクは素材と魔石を手にすることになった。

用を済まし、意気揚々と帰ろうとしていたら数人の冒険者に囲まれてしまった。お約束か!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る