第367話

ヘルデザ砂漠を過ぎ、そのまま北上すれば東西にも南北にも広大なノワールフォレストの森が存在する。

そもそもヘルデザ砂漠でさえ屈強な男が歩いて二週間以上もかかるのに、この森はどれだけ広いことか。砂漠と森の間には平原が存在し冒険者達にわずかな休息を与えてくれる。二日も歩けばすぐにノワールフォレストの森に到着してしまう束の間の安息なのだが。


私が今回別荘を作ろうと考えたのはノワールフォレストの森、南端部からやや東。比較的平原が多く、まだ森に飲み込まれてない地点だ。本当は森のど真ん中に作ろうとも思ったのだが、あれだけの密林を焼き尽くすことを躊躇してしまったのだ。


もちろん前世で建築などやったことなどない。だから当然の如く魔力でごり押ししてくれる。


まずは外壁だ。クタナツ並みとはいかなくても広く頑丈に作っておかないと留守の間に家を壊されてしまう。まず『鉄塊』で杭を作り五メイル間隔ぐらいに打ち込む。長さ十五メイル、直径二十センチの鉄の杭だ。これを土中に七割ぐらい打ち込む。ミスリルギロチンが大活躍し、スイスイと仕事が進む。


コーちゃんはカンカン響く音が耐えられないようでどこかに行ってしまった。お昼には帰ってくるだろう。


昼までに北側の城壁予定地、およそ二キロルに渡って杭打ちが終わった。昼ご飯にする。昨夜と同じ、オークの直火焼きだ。今日は岩塩を振りながら食べよう。


それにしても我ながらめちゃくちゃだ。どれだけ魔力を無駄遣いしたことやら。夕暮れまでには帰らなければいけないが、西側に杭打ちぐらいできるだろう。


寄ってくる魔物を倒しながらの作業ではあったが、意外と捗った。城壁の芯に鉄を使うなど後先を考えない行為ではあるが、私が鉄塊で出した鉄はなぜか錆びないので構いはしない。


こうして西側にも二キロルに渡って杭打ちが終了した。上空から見てみると、意外ときれいな正方形になりそうだ。適当にやっても何とかなるものだな。さあ帰ろう、日が沈まないうちに。






「ただいまー。遅くなってごめんね。」


「おかえり。今回はどこに行ってたの?」


「ノワールフォレストの森。キアラに負けないように武者修行をしようと思ったの。森を魔法なしで歩いたりしてみたんだけど、途中で気が変わってね。帰ってきちゃった。」


「武者修行? また変なことを……気が変わったって言うのは?」


「大したことじゃないんだけど、昨日の夜、焚き火を見ながら考えてたら別に負けてもいいやって思ってさ。負けても全然困らないって気付いただけだよ。」


「そう。それも真理かも知れないわね。好きにやりなさい。」



ちなみにオークの内臓はマリーが捌いてくれた。オディ兄とたまたま顔を出してくれたのだ。母上は新鮮なレバーが好物だからな。私はハーツを食べたがさすがにクイーンオークほどの旨さではなかった。マリーは内臓は嫌いらしい。生きているまま抜き取るぐらいの鮮度でないと無理だとか。コーちゃんは脳みそとスジ肉が好みらしい。色んな好みがあるものだ。

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