第358話

スパラッシュさんが亡くなってから二ヶ月と少し。明日、私達は卒業する。




あっという間の二ヶ月、色んなことがあった。

スパラッシュさんが受け取るはずだったのはオウエスト山の西側の廃村、ルイネス村。そして騎士爵位。盗賊に襲われ村民が皆殺しにされた村。その中にスパラッシュさんの妻子も含まれていたのだ。スパラッシュさんは妻子の仇を討つため殺し屋になった。ただし闇ギルドや暗殺ギルドと対等に付き合えるプロでない限り仇の情報など手に入るものではないし、使い捨てにされて終わりだ。だからフリーで活動し実績を重ね組織から声がかかるまでになったのだ。

その後、仇の盗賊を皆殺しにしたスパラッシュさんだが、渡世の義理は重い。次から次へと闇ギルドから依頼が舞い込んだ。その中に父上暗殺があったのだ。そして初の失敗、逃亡すらできず母上の前に引きずれ出され、全てを自白させられた。同情か気まぐれか父上は許した。許されたスパラッシュさんは闇ギルドの人間を皆殺しにし、冒険者へと転身したそうだ。何がそうさせたのか……


結局ヤコビニの居場所を突き止めた情報ネタ元は分からなかった。もう使えないって言っていたのできっと闇ギルド関連なのだろう。


遺品だが、ギルドカードの残高や手持ちの現金は全て代官府に寄付した。父上から私が判断するよう言われたのでそうした。武器や防具も業物ばかりが揃っていると思われるが、私にはよく分からない。以前私の大腿部を貫いた短剣だけを貰っておいて、残りはゴレライアスさんに託した。相応しいと思う人に渡すよう頼んだのだ。


ローランド王国では貴族以外は墓を建てる習慣がない。故人を偲ぶ時は教会に行くのが普通だ。だから私はルイネス村に行き、スパラッシュさんの墓を建てた。私が加工するとなると鉄しかない。だから日本風の墓を鉄で再現してみた。遺骨はないので、内部に空洞もない。外見だけ同じだ。そして墓碑銘は『勇士スパラッシュ・ド・ハントラ男爵』


スパラッシュさんが受け取るはずだった爵位は騎士爵。しかし代官が与えたのは男爵だった。騎士爵ならば代官の権限でどうにでもなる。だが男爵位は辺境伯ほどの権限が必要となる。子爵以上は上級貴族であり、国王のみが権限を持っている。

つまり代官は辺境伯に働きかけて、男爵位をもぎ取ったのだ。やることがにくいぜ。



スパラッシュさんの死後、一ヶ月も経たないうちにサヌミチアニはあっさり陥落、辺境伯の手に戻った。


ヤコビニは公開処刑。意外とこれには代官の温情が含まれている。粗方の事件が解決し、吐かせる情報もなくなったため恩赦を出したのだ。年寄りであるため鉱山で働かせるのを不憫に思ったのだろうか。

代官自ら壇上で首を刎ね、そして晒し首となった。かなり珍しいことである。


その後、二男、四男以外の子世代も捕まるか殺された。孫世代もほとんどが捕らえられ王都かクタナツに送られた。


中には逃げ延びた者もいるらしい。ファンタジーあるあるとしては、そのような者が捲土重来を期してクタナツ滅亡とかしそうだがどうなのだろうか。





さて私だが、賞金として白金貨を十枚貰ってしまった。そして偽勇者が纏っていた鎧も私の物になった。ノリでくださいと言ったら貰えてしまったのだが、使い道がない……

サイズは合わないし、ド紫で趣味が悪い。鋳潰して盾にでもしてくれようか。金操と相性が悪い金属のようで、ますます使い道がない。今後の課題だな。


その偽勇者だが、脱走した。私に返すべく循環阻止の首輪を外してから三日後のことらしい。普通の魔封じの腕輪を付けていたらしいが、効かなかったのか? それでも手枷足枷はあるし、牢屋に閉じ込められていた。なおかつ契約魔法もガチガチにかけられていただろうに、一体どうやって? しかも騎士団の追跡から逃げ切ったとは……

逃げる過程で騎士が何人か殺されたらしい。偽物でも勇者ってことか……



そんな二ヶ月だった。

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