第357話

スパラッシュさんの葬儀は大々的に行われた。スパラッシュさんがそれを望んだかどうかなんて分からないけど、それでいいと思う。


魔境で死ぬ冒険者なんて珍しくもない。みんなが言うセリフだ。スパラッシュさんはどうなのだろう。元々病気だったりしたのか、それとも酒のせいなのか。分かるのは、朝起こそうとした時の表情が、いい夢を見ているようにしか見えなかったということだ。触るまで、死んでるだなんて夢にも思わなかった。足元にばらまかれた金貨や銀貨を見ても気付かなかったぐらいだ。


前世で情けない死に方をした私だが、一体どんな顔をしていたのだろう。私を亡くした両親、彼女はどれだけ悲しんだのだろう。本当に今更だが、余計に悲しくなってしまった。


しかも、スパラッシュさんは奥さんと子供を随分昔に亡くしていたらしい。父上と出会う前、それが原因で殺し屋に身を落としたとか。あの時、私に言った言葉……


子供はとっくに大きくなって……カカアと二人で気ままに……


それを思い出すと、どんどん悲しくなって涙が止まらなくなった。くっ、これだけ大勢の人間がいるのに泣いているのは私だけか……

こんなことだから泣き虫と言われてしまう……

あの時スパラッシュさんは一体どんな気持ちで私に引退を打ち明けたんだろう。何も知らない私に……絶対遊びに来てくれって……行ったら奥さんがいないのがバレてしまうのに。




ギルド前に安置されたスパラッシュさんの棺にみんなが順番に小さい魔石を入れては手を合わせている。

代官、騎士長、組合長。

ゴレライアスさん、アステロイドさん、エロイーズさん。

父上、母上、オディ兄。

アレク、そして最後に私とコーちゃん。


神官長ネイチェルさんが祈りを唱えた後、説法が始まる。


「勇士スパラッシュ、鎮魂のお務めを致しました。本日お集まりいただいた皆様は勇士スパラッシュの御縁によります。命懸けでクタナツに平和を齎した勇士の御縁を我々は受け継がなければなりません。今日こんにちの御縁に感謝し勇士スパラッシュがトリローナ神の御許にけるよう全員で祈りを捧げましょう。」『ナマス・アミターバ』


「ナマス・アミターバ」



そして棺を抱え上げ、北の城門へと向かう。北大通りには両脇に騎士が整列し、棺の進行に合わせて抜剣し掲げていく。


やがて北の城門を通り抜け一キロルぐらい進んだだろうか。高さ一メイル程度の台が組まれ再び棺を安置する。ここで火葬をするのだろう。


「カース、お前がやれ。ド派手な炎でスパラッシュを神の御許へ送ってやれ。」


「父上…………分かった。やるよ。」


そこに代官の声がかかる。


「総員合掌!」


全員が棺から離れて手を合わせる。

スパラッシュさん、さよならだ……


火柱ひばしら


実用性皆無、高く火柱が登るだけの魔法だ。もしかしたら天空の精霊には迷惑かも知れないが、どこまでも高く火柱を燃え上がらせる。炎の直径は二メイルもないが上は見えない。この炎に乗ってスパラッシュさんの魂は……


まさか、転生管理局に行くのか?

幸せな来世だといいが……

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