第349話

まだ日没ではないが、少し早めに帰宅した。

マジでダミアンの奴は来るのか、などと考えていたら……もう来ていた。このやろう……


「いやー旦那が自慢するだけありますわ! 奥さん美人すぎるでしょ!」


「うふふ、嫌ね。私もうすぐ四十歳なのよ?」


「いやいや看板女優なんてレベルじゃないですよ!? 何でそんなに綺麗なんすか!?」


なんだこいつ? 母上を口説いてんのか?


「ただいま。変な奴が来てるね。早く帰ればいいのにね。」


「おうカース。帰ってきたかよ。お前のお母様って凄ぇーな!」


「おかえり。いいじゃない、正直な男性は嫌いじゃないわよ。」


確かに母上の美貌を看板女優ごときと一緒にしないのは褒めてやる。


「勘定は足りたのか? 相当高くついたんじゃないの?」


「くっ、足りるわけねーだろ! どいつもこいつも容赦なく飲みやがってよ! 貸してくれるんだろうな? 金貨百六十枚だ。何でこんな辺境のギルドに魔法酒が置いてあんだよ! 足りるわけねーだろ!」


おお、噂の魔法酒か。いつか飲んでみたいものだ。


「いいぜ、約束だしな。ちなみにトイチの複利な。領都のギルドに返済しろよ。契約魔法をかけるから逃げられんぞ? いいな?」


「おお、借りてやるっぐぉ…… 昨日の契約魔法より魔力がキツくないか……? まあいい。これで大手を振って領都に帰れるぜ。」


当たり前だ。私は金貸しだからな。絶対破れんよう魔力を強めに込めたんだ。まあもし破ったら辺境伯邸を灰にしてやろう。


「しばらく滞納してていいぞ。どこまで金額が膨れ上がるか楽しみだからな。ところで春ごろそっちに行くけど余計なことすんなよ。」


「俺達は友達だろ? つれないこと言うもんじゃねーぜ? 旨いミルクセーキを飲ませてやるからよ。では奥さん、お邪魔しました。もし劇団に興味がありましたら言ってくださいね。」


「まあダミアンちゃんたら。気が向いたらお願いするかもね。それまで死なないでね。」


こうしてダミアンは夕食前に帰っていった。夕食ぐらい食べていけばいいものを。忙しない奴だ。


それにしても不思議な奴だった。あれだけムカついたのにコロッと許してしまうなんて。その上、あの彫刻の腕前ときたら……アレクのミスリル像をお願いしたいな……だめなら石像でもいい。奴が春になっても借金を返済し終えてないなら頼むのもアリだな。


案外父上も同じことを考えてるかも知れないな。黄金の母上像……とか?





こうして一触即発だった領都との関係は一旦は沈静化しクタナツに平和が訪れたのだった。

そして代官はサヌミチアニに第二騎士団から百名、魔法部隊から二十名を派遣した。




そして三週間後。


全滅の知らせが届いた。

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