第348話

ダミアンとギルドで飲んだ翌朝、父上はまだ帰ってきていない。ギルドで酔い潰れているのだろうか? しかし父上に限ってそうは思えない。

母上に言われた私は父上を迎えに朝からギルドに足を運んだ。


ギルドでは冒険者達が打ち上げられた魚のように大勢横たわっていた。いつかの道場のように死屍累々たる光景だった。

そんな中でも楽しそうな声が聞こえるではないか。父上だ!


「だがらなー、カースはなー、いい子なんだー! その理由はなー、俺とイザベルの愛情だがらよ! いーがダミアン! 子供を育てるには愛情だ! 分かってんのがー!」


「分かったって……もう二十回ぐらい聞いたぜ……もう帰れよ……」


「父上ー。そろそろ帰ろうよ。母上が寂しがってるよ。」


「何!? 寂しがってるだと!? それはいかん! すぐ帰るぞ! 分かったなダミアン! クタナツを舐めんなよ!?」


「あ、ああ……絶対にマーティン家のモンとは敵対しない……早く帰れ……」


あの厚顔なダミアンがここまで消耗してるとは、さすが父上。一体どんな手を使ったんだ?


「じゃあ父上、これに寝てよ。うちまでひとっ飛びするよ。」


外に出て父上をミスリルボードに寝かせる。普段は街中を飛ばないようにしているが、たまにはいいだろう。


我が家の庭に着陸した後、私はすぐにアレク宅に出かけた。だから父上と母上が朝から何をしようと知らない。




アレクを迎えに行ってからギルドへ行く。久々にアレクは何か依頼を受けたいらしい。


「今日はどんな依頼を受けたの?」


「蜂退治ね。冬の間に城壁の蜂の巣を退治しておくと春が安全に迎えられるって訳なのよね。蜂蜜は期待できないけどね。」


「おお〜中々危ない依頼だね。安全にいこうね。」


ここら辺の蜂は魔物でも何でもない普通の蜂なので、運良く蜂蜜でもない限り儲かる依頼ではない。あったとしても量はたかが知れている。達成報酬のみ貰って終わりである。新人を卒業しつつある私達には丁度いい難易度と言えるだろう。


「城壁外側を回るわよ。カースは周囲の警戒を頼むわね。」


「いいよ。頑張ってね。」


いつも通り私は依頼を受けてないので、アレクに付いて歩くだけだ。だから気休め程度に周囲の警戒ぐらいはやってあげよう。


第一蜂の巣発見。

城壁の中腹、だいたい地上から十メイルぐらいのところにあった。


『水球』


蜂の巣を水球で包み込んでから操作し、城壁から剥がしている。焼いてしまうと早いのだが、報酬がなくなってしまう。アレクの魔法制御の見せ所だ。

水球で包めなかった蜂は個別に水球を当てて退治する。蜂そのものは捕獲しても報酬にならないのだ。


この仕事の報酬は城壁に穴を開けていた暗殺ギルドのお陰で少し高くなった。騎士以外が城壁に触れることが禁止されたからだ。必然的に今までハシゴなどでこの仕事を受けていた者が受けられなくなったのだ。よってアレクのように魔力が豊富にある者ならよいが、そうでないものには受けにくい仕事となったからだ。


ここ最近は誰もこの仕事を受けてなかったようで、城壁にはいくつも蜂の巣ができていた。すでにアレクは五つも処理している。

私は範囲警戒と肉眼でバッチリ警戒を怠らない。安全だ。今日は何事もなく終えられるに違いない。そろそろお昼だ。


私達はミスリルボードに乗って上空へと昇った。クタナツのほぼ真上だ。隠形も使っているし見られはしないだろう。


「今日のお弁当は少し違うの……」


「へぇーどこが違うんだろ? 食べたら分かるかな。美味しそうだね。」


見た目ではさっぱり分からない。いつものように美味しそうな料理が並んでいる。


「美味しいね。いつもとの違いが全然分からないよ? 何が違うの?」


「この肉は私が焼いたの……その野菜は私が切って味付けしたの……」


何と! アレク手ずから作ってくれたというのか! 嬉しい! 嬉しいぞ!


「料理したの!? すごいね! マトレシアさんとの差が分からないよ! 美味しい!」


「肉を焼くのだけはマトレシアから合格を貰ったの……野菜の切り方と味付けはだめだった……でも美味しいって言ってもらえて嬉しいわ。」


マジかよ……

マトレシアさんから合格を貰うレベルなのか……すごいぞアレク! 確かに美味しい。

野菜の切り方の違いなど私の舌で分かるはずがない。


「あのマトレシアさんが合格を出すなんてやるね! きっと頑張ったんだよね? えらい!」


久々に頭をナデナデしてみた。かわいい表情をしやがる……! これで昼からも気合が入るというものだ。




本日の成果は銀貨六枚。十等星の稼ぎとしてはかなり多い。それを私達は半分ずつ分けて家路についた。ダミアンは今夜来るのだろうか?

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