第346話

アレクにも来て欲しいと思った私は急いで呼びに走った。


「今ギルドに例の三男が来てて宴会やってるんだ。面白いからアレクを呼びに来たんだよ。バイオリン持っておいでよ。」


「? そうなの? よく分からないけど行くわ。」


ギルドに戻ってみれば、ダミアンは宴会の中心となっていた。コミュ力高すぎだろ!


「あいつがバカ三男のダミアン。凄い宴会芸を持ってやがるんだよね。僕と友達になりたいんだって。」


「変わり者なのね。お代官様が許したのなら私から言うことはないけど。」


「バイオリンを持ってきてもらったのはね。あいつにアレクの腕を自慢したかったからなんだよ。絶句させてやってよ。おいダミアン! オメーがご執心のアレクサンドリーネが来たぞ!」


その一言でダミアン以外もアレクに注目する。


「おおカース。姿が見えねーと思ったら愛しのハニーを呼びに行ってたって訳か。アレックスちゃんは俺のこと覚えてないだろ。小さかったもんなー。あぁソルダーヌから手紙を預かってるぜ。」


何ぃ? 早く言えよ!


「そうですか。わざわざありがとうございます。まったくいい迷惑をかけてくれましたね。ソルに免じて許してあげます。」


「さあさあアレク! ノリのいい曲を弾いてよ! 全員踊らせてやってよ!」


「無茶言わないでよ……やってみるわ。」


アレクの演奏はやはり圧巻だった。バイオリンでどうやったらそうなるのか分からないが、うねるようなグルーブに跳ねるリズム。ノリノリだ。

ダンスなど知らない冒険者達が好き勝手に踊り出す。私もツイストを踊ってしまうぞ。オッさんだからな!


そんな音に惹かれたのか吟遊詩人まで現れて曲に歌がついた。

その後当然のようにリクエストを聞かれたので『辺境伯の歌』をリクエストしてみた。


『人は無謀と言うけれど

誰かがやらねば始まらぬ

人跡未踏の大魔境

踏み入りたるは冒険者

屠った魔物は砂の数

その名も偉大なドリフタス

救った村人星の数

稀代の初代だドリフタス

ああ辺境フロンティア

ああフランティア』


素晴らしい!

アレクのバイオリン、吟遊詩人のリュート。

そこに優しく滑らかな歌が乗り、聴き入ってしまった。

冒険者達も盛り上がってどんどんリクエストを言っている。

夜は長いんだぜ。何するの。

踊りに行こうぜロックンロールだ。


「カースも何か弾いてよ。」


無茶言うな。ブーイングをくらってしまう。下手すりゃタコ殴りだ。でも楽しいから弾いちゃう。スリーコードブルースなら素人でも比較的簡単に弾けてノリノリになれる。バイオリンでやるのは難しいが。ロックにしたりシャッフルにしたり意外と弾けるものだ。でもブーイングがきたから交代。やはり付け焼き刃はだめだな。


「おおカース。下手くそなりに頑張ったじゃねーか。」


うるせーなダミアンの野郎。いつのまにか呼び捨てにしやがって。酔ってやがるのか。


「文句があるなら弾いてみやがれ! リュートか何か持ってないのかよ?」


「なんだ? 俺の美声を聴きたいってか? 仕方ねーな。聴かせてやるぜ。おう吟遊詩人の兄ちゃん! リュート貸してくれ!」


馬鹿かこいつ? 吟遊詩人が命とも言えるリュートを他人に貸すわけないだろ。


「大事に使えよ。」


貸すんかい! この短時間にどうやって信頼関係を築いたんだよ! コミュりょくモンスターか!?


「クタナツの野郎共! しっかり聴いとけよ! 辺境伯三男ダミアン様の叫びをよぅ!」






結論から言うと、こいつは音痴だった。だが美声だった。音程は三度上がったり五度下がったり意味不明いや高等な?外し方をしている。なのにブーイングがない。なんなんだこいつは!?

リズム感は絶妙で声にグルーブ感が満載だった。そのためかサビ後のコール&レスポンスが最高潮に盛り上がった。


「俺はフランティア辺境伯」「三男!」

「ガキにやられてマジで」「災難!」

「アステロイドは突撃」「突貫!」

「女傑エロイーズ背中が」「敏感!」

「クタナツ男の肉体」「アイアン!」

「魔獣トロルの変異種」「ジャイアン!」


途中から謎かけみたいになってきたが面白かった。夜はまだまだこれからだが、日が沈んだのでアレクを送り届けないとな。そして私も帰ろう。


「ダミアン! 俺は帰るからな。もし勘定が足りなかったら言いな。貸すからよ。」


「おおカース! クタナツを出る前にお前んちに行くわ。待っとけよ。」


マジで来るのか? まあいいけど。不思議と憎めない奴になってしまった……

やはり私は甘いのか……?

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