第317話

道場に着いた。庭に何人かの姿が見える。

えっ!? スティード君にセルジュ君!? サンドラちゃんも!?


「やっと来たわね。また妙な服を着ちゃって。でも意外と礼服っぽいわね。」


「サンドラちゃん……知ってたの?」


「みんな知ってたわよ。忘れてたのはカース君だけじゃない? プレゼントは無いわよ。手ぶらで来るように聞いたし。」


「来てくれただけで嬉しいよ。僕もさっき聞いたん……」


「一人目は俺だな。」


「え!? アステロイドさん!?」


一人目って何?


「アステロイド、手加減は要りませんよ。カース、構えなさい。」


え? え? 何事? 母上?

慌てて虎徹を取り出し構える。

なぜアステロイドさんほどの人がここに?


「いくぞ!」


アステロイドさんのメイン武器は流星錘りゅうせいすい、聞くところに寄ると遠く離れた魔物も一撃らしい。

今日は手加減してくれているのだろう、細い麻縄に石が付いているだけの劣化版だ。

それなのに何という操作性。避けたと思っても後ろから襲われる。弾こうとしたら引き戻される。石に集中し過ぎると縄で絡めとられる。恐ろしい武器だ。

先端の石を砕くか麻縄を切り落とすしかないのか……

近付いたら普通にぶん殴られて終わりそうだからな。どうしよう……


そこに二つ目の流星錘が飛んで来た!

「油断してんじゃねーぞ。」


くそっ! 避けにくい! こんなのを二つも使ったらすぐに絡まりそうなのに。全然そんな気配がない。

なんて緻密なコントロールなんだ。


ならば、私に向かって来た流星錘をどうにか母上に向かって弾く。一瞬狼狽するアステロイドさん、隙あり!

虎徹一閃。


どうにか片方の麻縄を切ることに成功した。


「自分の母親に何てことを……恐ろしい奴だな。」


「アステロイドさんの腕ならあそこから逸らすことも簡単でしょ? もちろんそうでなくても母上に当たりはしませんよ。」


「ふふ、そうか。よし! いいだろう。俺はここまでだ。」


「ご苦労でした、アステロイド。中へお入りなさい。」


「はい魔女様!」


アステロイドさんは本当に信者になってしまったようだ……『俺は魔女様に呼び捨てにしてもらえるんだぜ』って誇らしげな顔をしている。


「次は私だねぇ。」


ぬおっ! エロイーズさんまで! 一体どうしたことだ!? でも嬉しいぞ。きっと今日はこういうイベントなんだ。


今日のエロイーズさんの武器は鞭。露出度の高い、男を惑わす格好をしている上に鞭か……

大抵の男は揺れる果実と深い谷間に目を奪われて、瞬く間に叩き伏せられることだろう。

しかし今の私は放浪の大賢者。世俗のおなごになどに惑わされはせぬ!


いくら短いスカートから覗く両足が細く美しくても、その上にチラチラ見える紫の布が蠱惑的でも! 私には効かない!


くっ、何とかエロイーズさんの鞭をかいくぐり、接近できても蹴りが私を攻め立てる。その度にまた紫の布がチラチラと私を惑わせ……ない! 私は惑わされてなどいない!

私は呪いを振り払うように虎徹を振るう。


「あぁいいよぉカース。もっと責めておいで。激しくさぁ。」


惑わされない! 私は賢者だ!

例えエロイーズさんの胸当てがズレようとも! うっかりスカートを切り裂いてしまおうとも!


「そうよぉ、いいわぁ。上手ねぇ。そろそろいいかい? 我慢できないわぁ。」


次の瞬間、私の首は死刑台に吊られる罪人のようにエロイーズさんの鞭によって締め上げられていた……


「ふぅ、よかったわよぉカース。もっと強くなるんだよ。」


「ぐえっ、押忍! ありがとうございます! ぜひまたお相手をお願いいたします!」


所詮魔法なしだと私の実力なんてこんなものか。分かってはいるが悔しいな。


「次は俺かぁ。」


うう、ゴレライアスさんまで……


「おら、いくぞぉ。」


今日のゴレライアスさんの得物は棍だ。斧を使いそうなイメージなのに。長さ二メイルぐらいの木製の棍だ。全く隙がない……

隙がないまま近寄って来る……

棍の両端を使い途切れのない攻撃が繰り出される。ゴツい見た目に反して技巧派なんだよな。


そんな猛攻を防ぎきれるはずもなく、何発もくらっている。痛い。麻の服じゃなくてよかった。しかし籠手や腕輪は付けてないし、サウザンドミヅチの服も着てないのは失敗だった。


手も足も出ない……そして痛い。

重いダメージにならないように手加減してくれているのだろう。

その上、突きまで織り交ぜられてきた。もう防戦一方ですらない。


「そろそろお終いだぁ。次のやつをどうにかしないと死ぬぞぉ。」


くっ、威圧感が増してきた。もっと手加減してくれよ。一先ず距離を取るが……

ゴレライアスさんの間合いを三メイル以上離せない……


「いくぞ。」


三メイルの間合いなど無いも同然なようで強力な突きに襲われた。反応することもできなかったが、運良く虎徹に当たり防ぐことができた。いや、違うな。虎徹を狙ってくれたんだろう、棍が真ん中で折れている。


「命拾いしたなぁ。強くなれよ。」


「押忍! ありがとうございます!」


何なんだ今日は……

これが無尽流のお祝いなのか……

あのレベルの一流の人達が来てくれるのは嬉しいが。後何人だ……?

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