第306話
その夜、先生達は泊まってくださることになった。と言うより父上から道場が決まるまで泊まるよう頼まれたらしい。
これは嬉しい。今の我が家にはマギトレントの湯船があるのだ。ぜひ堪能していただきたい。
さて、私はマリーにより晩御飯抜きを言われてしまったので、別室にてマリーとお茶をしている。ご飯はダメだがオヤツはいいらしい。
「坊ちゃん、先程は見事な風操でした。発動するまで少しの気配もありませんでした。」
「そう? でもダメだったね。マリーほどの美人なら先生の気を逸らせるかと思ったけど。」
「先生は視線も興味も私に集中しておいででしたよ。その上で避けられたのです。本を読んでる最中、腕に止まった虫を何気なく叩く感覚に近いのでしょうね。」
達人すぎる。私の剣など虫に等しいと言うことか……何回凄いと言っても追いつかないな。
「さらに言いますと、先生は私が坊ちゃんにあれこれ仕込まれて自らスカートを捲るとお考えだったようです。ですから予想が外れ、ほんの僅かですが隙はできておりました。惜しかったですね。」
私がマリーを仕込むって何だよ。そんなハイレベルなプレイを子供に求めるなよ。先生はそっちも達人なのか。そしてマリーはなぜそこまで読み切ってるんだ?
我が家で最強なのは母上だと思っていたが、実はマリーだったりするのか?
はっ!? これもファンタジーあるあるだ!
長年仕えてくれている過去が不明の執事、もしくはメイド。その正体はどこかの国や組織に追われた暗殺者だったりテロリストだったりするアレだ!
そうなるとマリーの場合は逃亡の果てに捕まり奴隷となった所を父上に買われたってことになる。年齢不詳な所もあるあるに準拠しているし。私が小さい時から外見が変わってないし。
よし、思い切って聞いてみよう。
「ところでマリーの耳はどうしたの? 見た感じスパッと切られてるみたいだけど。」
「言いにくいことを聞かれますね。まあ大したことではありません。自分で切り取っただけの話です。旦那様にはもちろんお伝えしてありますよ。ちなみに理由は内緒です。説明に丸三日ぐらいかかるのが面倒だからです。」
「意外と正直に言ってくれるんだね。それだけ聞けば十分だよ。」
つまりマリーのいた組織では耳に特徴があるんだ。例えばピアスとか刺青とか。ところがそれだけを外すことができないから耳ごと切り落としたんだ。ならばそんな組織や地方、盗賊団とかを調べれば、マリーの素性は割れる。まあそんな面倒なことをする気はないが。
「そんなことよりたまには僕とも風呂に入ろうよ。」
時々オディ兄と風呂に入っているのが羨ましいのだ。
「もちろんいいですよ。お背中流しましょうね。」
マジか! 言ってみるもんだな!
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