第234話
急いで弁当を食べた私達は引き続き寄ってくる雑魚魔物を狩っている。
数は多いが非常に楽、もはや流れ作業だ。
アレクの魔法操作の精密さはすごい。水球を五発同時に発動しているのにその全てが同じ大きさだ。おそらく体積にしても数パーセントの誤差しかないだろう。
そして狙いも正確。的確に頭部にぶつけ水を弾けさせることなく包み込む。魔物の方から水球に頭を突っ込んでいるのではないかと思うほどだ。
魔物が六匹以上来た時のみ私に指示が来るので動けばいいだけだ。解体もアレクが自分でやっているので私は解体後の魔物を放り捨てるだけでよい。
クタナツから十五キロルぐらいしか離れてないのにこれほど魔物が出るとは、やはり魔境は魔境か。
さて、時刻は三時ぐらい。そろそろ帰り支度をしなければ。
泥沼を埋めようと目を向けてみると……おかしい。大穴が空いている。泥も水も魔物も無くなっている。ミシミシと嫌な音が聞こえる。何かやばい!
慌てて首輪を収納し、アレクと銀ボードに飛び乗る!
次の瞬間、先程まで私達が居た周辺が陥没した。泥沼跡を中心として半径三十メイルぐらいが落ち窪んでいる。危なかった。
命の危険があるほど崩落してはいないが、何が起こるか分からない。空に避難して正解だった。
原因など分からないが魔物の仕業と決めつける! 見えないがあの下にきっといるはずだ!
ならば先制攻撃
『火球』
『火球』
『火球』
魔力をたっぷり込めてあるので、泥も砂も溶けて溶岩と化している。姿は見えないがじきに燃え尽きるだろう。
「危なかったね。何事なんだろうね。」
「ええ、助かったわ。いつもありがとう。」
アレクはそう言って私の頬に唇を寄せる。
二回目だが照れる。アレクも自分でやっておいて照れている。かわいい奴め。
さて、もう少し高度を上げて様子見だ。他の大物が来るかも知れないからな。
アレクを左側に抱き寄せたまま待機すること三十分。いつもならそろそろ大物の姿が見える頃だ。
来ないので、下の魔物を確認に行こう。風操で固まった泥や砂を吹き飛ばす。空を飛ぶ以上の魔力を消費するが気になるレベルではない。邪魔な物を吹き飛ばして見ればそこにいたのは巨大な蛇だった。
地表から十五メイル程度の深さに空洞を作り寝ていたらしい。
それにしても全然焼けてない。無傷?
ピクリとも動かないが……
全長はよく見えないが試しに収納してみる……
できた!
が、魔力がごっそり減ってしまった……
収納するだけでおよそ一割も消費するとは。
「大きい蛇だったね。まともに戦わなくてよかったよ。名前とか知ってる?」
「そう言えば聞いたことがあるわ。五十年から百年ぐらいに一度ぐらい起きて近隣を荒しまわる大きな蛇の魔物がいたって。名前は確か……サウザンドミヅチだったかしら?」
「へぇー強そうな名前だね。さて、このまま飛んで帰るよ。これだけ大物だと母上に相談しないとね。」
「カースって相手が見えなくても油断しないのね。そういう容赦ない所も好きよ。」
照れる……
こうも面と向かって言われるとは。
あれだけの高温で焦げ跡すらついてないってことは、まともに火球なんか当てても無駄ってことだよな?
土中でじっくり蒸し焼きにする以外に勝ち目は無かったんだろうな。でも何で地表に出て来なかったんだ?
ともあれ我ながらナイス判断。
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