第226話

ギルドから帰った。


マリーにツナマグロとシーオークとトビクラーの肉をいくつか渡し、明日の料理を頼む。

少し驚いていたようだ。


さあ夕食だ。


「キアラー、明日は美味しい料理が食べられるからなー。」


「えー楽しみー!」


「あらあらカース、今日は何を獲ってきたの?」


「ツナマグロとシーオークとトビクラーだよ。シーオークはかなり美味しいらしいね。母上は食べたことある?」


「まあ! シーオークですって? あれはかなり美味しいわよ。トビクラーも新鮮なレバーは絶品よ。ツナマグロは食べたことがないわ。」


「それは楽しみだね。獲ってきてよかったよ。ところでトビクラーの飛膜で服を作りたいんだけど、どこかオススメの店とか職人とか知ってる?」


「あぁ、それなら一番街の『ファトナトゥール』がいいわ。魔物素材の扱いにも慣れてる店よ。」


これは楽しみだ。前世ではスーツを仕立てたことすら無かったからな。


そこにキアラが、

「カーにい、お風呂で本読んでー」


キアラも風呂が好きになってきたかな。


「よーし行こうか。どこから読もうかなー。」


『四天王が全滅したと聞いても魔王は平気です。なぜなら……


「四天王が全滅したらしいな。」

「ふふ、所詮やつらは使い捨て。」

「うむ、魔王様のお遊びで作られた部隊よな。」


「我等『魔王親衛隊三人衆』こそが本物の側近よ。」

「ふふ、使い捨てのやつらとは違う。」

「うむ、初めから我等が出張ればよかったものを。」


「魔王様は聡明な御方、決して敵を甘く見ることはない。」

「ふふ、あんな使い捨てのやつらでも少しは役に立ったか。」

「うむ、勇者の手口は割れたよな。」


「魔王様からのご命令だ。我等三人衆が協力し勇者を殲滅せよとのことだ。」

「ふふ、さすが魔王様。慎重であらせられる。」

「うむ、よもや負けることはあるまい。」


「作戦はこうだ。ブドゥーカン大森林を突破した勇者だが、明日にはドゥーム山に到着するだろう。それにはウギィース谷を抜ける必要がある。そこで待ち受け罠にかける。」

「ふふ、えげつないな。上から土砂でも落とすか。」

「うむ、いい考えだ。生き埋めにしてくれよう。それでも生きているようなら我等が相手をしてくれる。」


卑劣な罠が勇者を待ち受ける!

危うし勇者!

どうする勇者!』





さすが勇者だよな。

まさかあんな方法で回避するとは思わなかったな。


「さあキアラ、洗ってやるぞ。きれいにしような。」


「うん!」


ん? キアラは何に座ってるんだ?


「キアラ、それ何?」


「これ椅子だよ。水の魔法で作ったの。」


何……だと……


水壁を応用して椅子を作っただと?

思いつかなかった……

ただの箱ではない、四本脚の立派な椅子だ。

背もたれも付いているし、水だけに弾力もあり座り心地が良さそうだ。

そうなると机も作れるし馬車だって作れる。

いや、形あるもの何でも作れるではないか!

何という発想の自由さ!

魔力でごり押しばかりする私とは大違いだ。


悔しいから私も凹の形のした椅子を作ってみた。くっ、技術的には大したことはない。込める魔力も微々たるものだ。

それなのに考えもしなかった!

私の負けだ……


私は悔しい気持ちを隠してキアラを洗い流し外に送り出す。


決めた!

思えば循環阻止の首輪を買ったのに、付けたり外したりだった。

こんな温いことではだめだ!

今から一ヶ月、絶対外さない!

『私は循環阻止の首輪を今から一ヶ月間外さないことを約束する』

これでもう外れない。

契約魔法は魔力で無理矢理破ることもできるらしいが、それにはかけた者より何倍も高い魔力が必要だ。

つまり一ヶ月経つか、今の魔力を数倍に高めなければ外せないのだ。

やってやる!

兄より優れた妹など存在しねぇ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る