第208話
空中露天風呂を堪能した数日後の昼休み。
教室内の様子が一変していた。
アジャーニ君の両脇をイボンヌちゃんとバルテレモンちゃんが固めている。
バルテレモンちゃんの派閥を吸収合併したのか、それとも彼女が身売りしたのか。
その他の下級貴族組は護衛君達と話しているようだ。
問題はエルネスト君だ。
ぽつんと一人……
パスカル君がいなくなり、イボンヌちゃんまで去ってしまった。
どいつもこいつも子供らしくないことばかりしやがって……
「エルネスト君、美味しそうなお弁当だね。一口ちょうだい。」
「あ、ああいいとも。珍しく母上が作ってくれたんだ。故郷の味らしい。」
「ありがと。こっちで食べようよ。僕のも食べてみてよ。」
こうして昼休みのみ、私達は六人組となった。プライベートでも六人組になるかどうかは定かではない。
エルネスト君のお母さんはローランド王国の東南部、アブハイン川の河口あたり一帯を治める貴族の血筋。
子供には少し辛い気もするこの味があの辺の特徴なのか。タンドリーチキンに近いだろうか。
「確か特殊な窯で焼くのよね。スパイシーで美味しいわ。エルネスト君のお母様は料理上手なのね。」
「ありがとうございます。それにしてもアレクサンドリーネ様は博学ですね。窯のことまでご存じとは。」
「たまたまよ。食べることに関してだけは詳しいの。」
これは半分嘘。アレクは歴史、風土に関することはサンドラちゃんより詳しい。それが最上級貴族の嗜みなのだろう。
ちなみにセルジュ君には辛すぎたらしい。一口食べただけなのに結構汗をかいている。
サンドラちゃんは気に入った様子だ。
私達が五人以外で昼食を食べたのは初めてかも知れない。たまに新鮮でいいものだ。
「そう言えばカースは昔、私にも同じことを言ったわね。一口ちょうだいって。」
「そうだっけ? アレクのお弁当が美味しいそうだったからじゃない?」
「全くカースは意地汚いんだから。」
この世界は娯楽が少ないからな。食べることぐらいしか楽しみがない気もする。
本は高いし数が少ない。
賭場に出入りできるはずもないし、そもそもどこにあるのかすら知らない。
トランプも麻雀もない。
チェス、双六、バックギャモンはある。
ファンタジーあるあるではリバーシを開発しての大儲けがあるがあまり気が進まない。
決してルールを覚えたサンドラちゃんやアレクに負けそうだからではない。
やはり昼休みの楽しみは昼寝だな。
「カース、寝るんでしょう? 全く、意地汚い上に甘えん坊なんだから。」
そう言ってアレクは膝枕をしてくれる。
今日はアレクが起きていてくれたので寝過ごして立たされることもなかった。
放課後、エルネスト君と話をした。
「イボンヌは……僕のことが好きでも何でもなかったのかな……」
「うーん、よく分からないよね。結果から考えると彼女は上級貴族に近付きたかったんじゃないかな? 卒業した先輩にも接近してたらしいし。」
「そうなんだね。知らないのは僕だけだったのか。安易に冒険者登録なんてしたのも悪かったのかな。」
「それもあるかも。家督を継げないのは分かってたからいいとしても、冒険者として生きるのと貴族として生きるのでは大違いだもんね。」
たぶんその辺りが原因だろうな。
たまに私が話しかけてもほとんど無視だもんな。上級貴族しか眼中にないのだろう。
「思えば僕でもパスカルでもどっちでも良かったんだと思う。一組に上級貴族の男子は僕らだけだったしね。」
「あー、そうなのかも知れない。女の子は怖いね。バルテレモンちゃんも不気味だし。多分王都とかってこれより凄いんだろうね。クタナツでよかったよ。」
「そうらしいよ……」
恋をして恋に破れ恋に泣く。
私も前世で覚えがある。
これもきっと青春なのだろう。
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