第165話

ティータイムを終えアレクを自宅まで送り届けた私は一人家路につく。

しかし日没にはまだまだ時間があるのでギルドに寄ってからだ。仕事を受ける気はないが少し勉強しておこうと思っただけだ。


「お疲れ様でーす。」


ギルドに入る時にこのような挨拶をするのは新人の証。新人でも無言で入る者は多いが挨拶は大事だからな。


仕事の依頼が張ってある掲示板を見ていると、自動防御が反応した。

マジか、いきなり暴力かよ! ギルド内で何やってんだ?


「てめーさっきのガキだな。ナメたマネしやがってよぉー。教えてやるからついてこいや」


何言ってんだこいつ?

幼気いたいけな新人を後ろからいきなり殴りつけておいて教えてやるだと?

意味が分からん。しかも臭い。


「誰だオメー? くせーぞ。風呂入って出直して来い。」


私も口が悪くなったものだ。朱に交われば赤くなるからな。

周りは失笑している。みんな臭いのを我慢してたんだろうな。


「ガキが! 調子に乗ってんじゃねーぞ! ここじゃあ貴族の七光りなんぞ通用しねーからよ」


私が貴族だと分かってて絡んでるのか?

しかもクタナツでは当たり前のことを今更言ってどうする。


「で? 何を教えてくれるって?」


「ふざけんな! てめーさっき城門で割り込みしやがったろうが! いい気になってんじゃねーぞ!」


「割り込みなんてできる訳ないだろ。クタナツの関所の厳しさを知らないのか? さては新人か? ちなみに僕は新人です。」


「とぼけんな! てめー門の横から通り抜けただろうが!」


「……あれは関係者ゲートだぞ? マジで新人か……? その年で……? 大変とは思うがくじけるなよ。」


周囲では笑いを堪え切れない面々が吹き出している。目の前の臭い男、クサオは顔を真っ赤にしてプルプル震えている。

同じ真っ赤な顔でもアレクとは比べるのも愚かしい。


「俺は七等星『劇斧のスメルニオフ』だ! 冒険者歴十年のベテランだぞ! 領都で俺を知らん奴はモグリだぞ!」


げきおの? ゴロが悪いな。


「だから?」


「てめーに稽古をつけてやる。有り金全部出すんなら手加減してやるぞ?」


「やっぱそのパターンか……いいのか? 俺の有り金は金貨二十枚、この金額を賭けて模擬戦をするってんなら受けてやるが?」


「ほぉーやっぱお坊ちゃんかよ。いいぜ。まあ謝るんなら許してやらんこともないぜ」


「では約束だ。オメーが勝ったら金貨二十枚くれてやる。俺が勝ったらオメーは俺に金貨二十枚借金だ。俺は『金貸しカース』利息はトイチの複利だ。」


「いいぜ。ガキのくせに金貸しだぁぐっ! 今の魔力は? てめー何か魔法を使いやがったな?」


「オメー……契約魔法も知らないのか。よく七等星になれたな……まあいい、行くぞ。」


「ガキが! もう謝っても遅ぇぞ! おう、ギルドのみんな! 俺の斧を見学してぇなら来ていいぜ!」


意外とみんなヒマなのか、何人かついてきた。

そして場所は訓練場。私とクサオは向かい合って立っている。まあ決闘じゃないし立会人も必要ないだろう。


「この石が落ちたら開始だ。謝るなら今のうちだぜ?」


「いいから早くしろ。この距離でもクセーんだよ。」


本当に臭い。ワキガとかそんなレベルではない。自動防御も臭いは遮断してくれないらしい。


そして奴は、石を……


私に向かって投げてきた。


石は私の自動防御に跳ね返り地面に落ちる。

その間に奴は私の目の前で斧を振りかぶっている。


『金操』


振りかぶった勢いに合わせて斧を後ろに動かしてやった。傍目には身の丈に合わない重い斧を使ったために振り回されているように見えたことだろう。

奴はそのまま後ろに転げた。

私は普通に木刀で奴の足を攻撃。両膝を砕いておいた。


汚い声で何か叫んでいる。


「まだやるか?」


優しい私は止めを刺す前に確認をとる。

それにしても金操って便利だわー。組合長のように素手で強い相手には使えないけど。


「うるせー! まだ負けてねーぞ!」


「そいつは残念。」


私は木刀で奴の両肘も砕く。

やはりエビルヒュージトレントの木刀はすごいな。まるでハンマーだ。

やはり汚い声で喚いている。


「まだやるか?」


「う、うるせー、まだ負けてねーぞ。」


面倒くさいな。

砕けた膝と肘を軽くリズミカルに叩く。


「しばらくこうしてるから負けを認めたくなったら言いな。」


こんな雑魚でも油断は禁物。

回復魔法を使えたり、噛み付いてきたりするかも知れない。


「そろそろ面倒になってきたから手足を切断するぞ。それでも負けを認めないか?」


「ま、待て! 俺の負けだ! た、助けてくれ!」


「いいだろう。ではオメーは俺に金貨二十枚を借金だ。利息はトイチの複利。十日ごとにギルド受付に最低でも金貨二枚を渡しとけや。それができない時は一日遅れるごとに関節が一つずつ曲がらなくなる。約束だ。分かったか?」


「わ、分かった! だから助けてくれ! ぐあっ!また魔法を!」


「契約魔法だ。オメーはもう逃げられない。子供相手に小遣い稼ぎしようなんてセコいこと考えるからこうなるんだよ。今のうちに有り金はたいて借金を減らしといた方がいいぜ?」


「ぐぅ、今はこれだけ……」


金貨二枚と銀貨五枚……


「これだけって……オメー本当に七等星か? 他に金目の物も出せ。この斧はまあまあの品だな?」


「ま、待ってくれ! これは勘弁してくれ! これがないと俺は……」


「ふーん、別にいいけどな。じゃあ残りの借金は金貨十九枚と銀貨五枚だな。次は二十日以内に金貨二枚以上受付に渡しとけ。別に逃亡してもいいけどな。」


ちなみにギャラリーはもういない。

あっさり決着がついたのでみんな帰ってしまった。

さてクサオはいくら稼がせてくれるだろうか。

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