第122話 十月十二日、夜明け

ちょうど日が昇る頃、アランとフェルナンドはグリードグラス草原付近まで到着していた。全力ではないがそれなりのペースで走ったようだ。


「これは……すごいことになっているな。」


「カースの魔力はすごいんだぜ。」

アランは誇らしげだ。


朝日に照らされたグリードグラス草原は最早草原ではなかった。

カースがどこを起点として魔法を使ったのか分からないぐらい何もなかった。

辺りは焼き尽くされ、灰も残らないぐらい押し流されていた。

草が生えてない所は歩きやすいグリードグラス草原だが、現在は湿地と化しており、やや歩きにくい。

このような状況を他の冒険者に見られたら、天変地異の前触れかと大騒ぎになることだろう。もっとも遮る物のない草原なので、太陽によって昼までには乾くことだろう。


二人はゆっくりと周囲を睥睨しながら奥に向かって進む。


「ベレンガリア嬢の話によると、そろそろグリーディアントがいたポイントだな。」


「ふむ、居ないな。」


「溺死させたグリーディアントは奥に向かって飛ばしたらしいからな。それだけでも確認しておかないとな。」


さらに歩みを進める二人。

段々と土が乾いてきており、代わりに焦げ跡が目立つようになる。


「結構歩いたけど、カース君はどれだけの範囲を焼いたんだ。」


「ふふふーすごいだろー。」

やはり誇らしげなアラン。


通常の焦げ跡とは別に地面のあちこちにガラス化の様子が伺える。火球の跡なのだろう。


おそらくグリードグラス草原の中央部は過ぎた。

ここからは比較的大きい草の魔物がいるエリア……のはずなのだが、やはり何もない。

地面付近に焼け焦げた茎らしき何かがわずかに確認できるのみだ。


「ふふ、グリードグラス草原をこんなにも気楽に歩けるとはな。まさに無人の野を行くが如しだ。」


「兄貴、結構ご機嫌だな。」


「そりゃそうだ。普段ならこの辺りはいちいち草を刈りながら進むからな。通り抜けるのに二日はかかる。それがどうだ、ゆっくり歩いてるのにもうここまで来てしまったぞ。」


「ふっふっふー。カースはすごいだろーすごいんだぜー。」


「バカ親ってより親馬鹿か。まあすごすぎるのは否定しようがないな。」


そろそろ昼になる。

本当にピクニック気分で食事を始める二人。


「イザベル達は朝には出発したはずだから今は草原の入口あたりかな。この分だともう二、三時間で追いついてくる頃か。」


「二人とも今頃驚いているだろうか。いや、お前と同じ反応か。」


「きっとそうだぜ。二人して、すごいすごいって言ってる光景が目に浮かぶな。」


食事を終えた二人は再び歩き出す。

すっかり地面は乾いており、ただ歩きやすいだけの荒野と化していた。

一段と焦げ具合は増している。


ここまで一匹足りとも魔物と遭遇していない、魔境でこれはかなり異常だ。


警戒したりピクニック気分になったり戦慄を覚えたりと、忙しい二人であった。

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