第52話 ピカピカの二年生

新しい春が来て私は二年生になり、オディ兄は五年生になった。

兄上と姉上は領都に戻った。あの二人は一体どうなるのだろう。


担任の先生は変わらずウネフォレト先生だ。

クラスも変わらず一組でメンバーも変わりない、と思ったら何人か増減がある。

春だから親の赴任・左遷・栄転などがあるのだろう。


「みなさんおはようございます。今年も一年間よろしくね。では国語の授業を始めますよ。」


二年からは漢字にあたる神代文字を勉強する。

『火』や『水』のような象形文字、

『一』『二』『三』のような指示文字、

『丸』『男』のような会意文字など、

これまた漢字とほぼ同じなので私には楽勝でありがたい。

ただし、止めや払いには注意が必要だったりする。人によっては『神への敬意が足りん!』とブチ切れることもあるらしい。


「みなさんよく書けましたね。この調子で神代文字を少しずつ覚えていきましょうね。」




「算数は今日から大きい数に入りますよ。十三+十八なんて難しい問題をやりますので、頑張りましょうね。」


五年間で小三レベルって話だからかけ算が出てくるのはもう少し後だろう。

大抵の中世と言えば、計算はおろか自分の名前すら書けなくて当然なイメージだが、ここでは違う。

クタナツのような大きい街に住んでいれば学校が普通にあるため読み書き計算は皆できる。

ただし、クタナツと領都の間に点在する村では異なり、村長クラスでないと読み書き計算ができない。それ以外の者は村から出ることもなく、日々を農耕、狩猟をして生きるために生きていく。

思えば転生先がそこでなくて本当によかった。クタナツで最高にラッキーだったのだろう。


「さあ魔法の時間ですよ。半年に一度のお楽しみ、魔力計測をしましょうね。

今回は二十まで測れますからね。」


ナウム先生がいつもの黒い球を出す。


結果、下級・上級とも貴族組は全員二十、平民組は十三〜二十とばらつきが大きくなっている。

早くも差が出るものなのか。


さあお昼ご飯だ弁当だ。

いつも通りアレックスちゃん、サンドラちゃん、スティード君、セルジュ君の五人で食べる。


いつも二人だけで食べていた上級貴族のパスカル君とエルネスト君だが、今日は三人だ。

下級貴族の転入生、イボンヌ・ド・クールセルちゃんが混ざっている。

新たな転入生は上級貴族一人に下級貴族四人、一気に五人増えはしたがそのせいか平民組が四人減り現在六人しかいない。


ちなみに五人の貴族転入生のうち、イボンヌちゃん以外の四人は親の上下関係がそのまま子供にも影響しているようで、下級貴族君達はやたら丁寧な言葉遣いで上級貴族ちゃんに接していた。

これが本当の貴族の姿なのか…….嫌すぎる。

すまじきものは宮仕え……か。


これは狼ごっこに誘うわけにはいかない雰囲気だな。

まあ私達にはアレックスちゃんがいることだし、寄らば大樹の陰ってことで安心だな。




午後からは社会の授業で、再びウネフォレト先生の出番だ。


「みなさんは将来どんな仕事をしたいかな? 今日は将来の夢について話し合ってみましょうね。

そこでいきなりだけどバルテレモンさんはどうかな? 何か将来の夢はあったりしますか?」


フランソワーズ・ド・バルテレモンちゃん、本日転入してきた上級貴族の女の子だ。

いかにも貴族らしい金髪の縦ロール、それでいておっとりして見える。


「えーっとぉ私の将来の夢はぁきれいなお嫁さんになることですぅ。」


「素晴らしいですね。バルテレモンさんならきっとなれるでしょうね。

じゃあそのためには何をしたらいいと思いますか?」


「えーっとぉ母上はきれいな服を着てぇダンスを覚えてぇ体を美しくしなさいって言ってましたぁ。」


「なるほど! いい考えですね。

では『きれいなお嫁さん』についてもう少し話し合っていきましょう。

デュボア君はどんなお嫁さんが欲しいと思いますか?」


「はい、僕はデュボア家を継げないと思うので、それでも付いて来てくれるお嫁さんがいいです。」


フランソワーズちゃんのあんな発言の後にエルネスト君のこの発言……お、重い。

継がないのではなく、継げない。

やはり上級貴族には上級なりの問題があるんだろうな。

それでも謙虚な答えを出すエルネスト君、二年生でこれはすごい。


「いい答えですね。夫婦は助け合いが大事ですからね。じゃあクールセルさんはどうかな? どうすれば『きれいなお嫁さん』になれると思いますか?」


転入生、イボンヌ・ド・クールセルちゃんだ。黒髪を肩甲骨ぐらいまでストレートに伸ばしている。清楚な雰囲気が漂っている。


「はい、夫となる方の助けになれるかどうかだと思います。騎士には騎士の妻、商人には商人の妻として振る舞うことが大事だと思います。」


「とてもよい意見ですね。みなさんが毎日勉強していることは全て将来に繋がるものです。勉強をしないことには将来もありません。楽しく、一生懸命勉強しましょうね。」


将来か、さすがに金貸しをやるとは言えない。もし聞かれたら、お金に困ってる人を助ける仕事がしたい、とでも言うことにしよう。


さて最後の授業はデル先生の体育だ、外に出よう。


「よーし今日からみんな二年生だから剣術の授業に入るぞー。みんな杖は持ってるな。

しばらくは魔法用の杖を使ってもらうからなー。

おっ、マーティン君いい物持ってるなー。木刀とは渋い!」


そうか、木刀は渋いのか。

確かにみんな普通に杖だもんな。


「さあまずは素振りからいくぞー。先生がやるように杖を振ってみよう。

持ち方は自由、振り方も足の位置も全部自由。タイミングだけ同じようにな。

いくぞ。一、二、一、二。」


一で振り上げ二で降ろす。それだけだ。

ゆっくりだからみんな問題なくできているようだ。


「いいぞー、その調子な。一、二、一、二。」


ペースは変わらない。ゆっくりだ。

なのに少しずつ遅れる者が出てきている。

スタミナが尽きつつあるのか。


「遅れるなよー。はい、一、二、一、二。」


十分が経過しようとしている。

平民組のみんなはもう遅れまくっている。

貴族組も女の子は遅れつつある。


さらに十分が経過した。

平民組は座り込んでいる。

他のみんなも遅れている。

先生の声に合わせて振れているのは私とスティード君だけだ。


「よーし今日はこんなもんかな。マーティン君とメイヨール君はお見事!

特にメイヨール君は型がいいな。地道に稽古してるな。」


さすがスティード君、騎士を目指すだけある。私は力任せに振り続けただけだし。


「さあ残り時間は型のチェックをするぞー。

先生と同じように杖を握ってー、そして構える。」


剣道で言う正眼の構えだ。

さすが先生、ビシッと決まっている。


「よーし、メイヨール君とマーティン君はあっちで向かい合って素振りをしとこうか。

他のみんなはその場で構えたまま静止。」


おお、何だか本格的だ。せっかくだからチェックしてもらおう。


「スティード君、僕の振り方はどう? こんなとこかな?」


「いいと思うよ。さすがカース君だよね。基礎をしっかり学んだ未経験者って感じ。」


なるほど、木刀を振ったことなんてほとんどないけど、度重なる狼ごっこなどで足腰がしっかり鍛えられていたんだな。

それに錬魔循環が木刀にまで及ぶようになったことも関係してそうだ。

よし、錬魔循環しながら素振りしよう。


「よーし今日はここまで。気をつけて帰れよ。」


こうして二年生最初の一日は終わった。

やはり気を引き締めていかないとな。

中身がおっさんなんだから子供に負けたら悔しすぎるぞ。

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