第10話 ウリエン、家庭教師が決まる

夕食にて、今日は全員が勢揃いしている。

いないのはマリーだけだ

オディロン兄は寂しそうにしている。


「あなた、やっぱりカースちゃんはすごかったのよ。天才だわ。

経絡魔体循環けいらくまたいじゅんかん』を午前中いっぱい耐えたのよ。しかも午後からはマリーの補助なしで耐えたの。こんなの陛下だって二歳の時には出来なかったはずだわ。」


「おおー! すごいなカース! イザベルのあれを耐えたのか。このまま頑張れば近衛にだってなれるんじゃないか?」


「きつかったー。でもあしたもがんばるー」


「さすがカースちゃん。お母さんもがんばるわ。」


思うにあれ、経絡魔体循環とは、他人の魔力回路に無理矢理魔力を流し道筋を作るものなのだろう。

魔法を使うためには体内で魔力を練り上げる必要があるとすれば、練り上げた魔力を効率よく運用するためのインフラを整備したようなものだろうか。


ん?


ということは、魔力の最大値は上がってないのか?

私が自分で自分の魔力を使ったわけではないのだから。

まあいっか。

母上の指導方針通りにやった方が確実そうだ。


ところで陛下とか言ってたな。

王族はスパルタってことだが同じことをやるものなのか。

この国は王位が強さで決まるのか?

それともただの基準の一つなのか……



「そうそう、ギルドに行ってきたぞ。ウリエンの家庭教師だがな。聞いて驚け。

なんと私の兄弟子で現在四等星の剣鬼ことフェルナンド・モンタギュー殿だ。」


「まあ! フェルナンド様!? よくお引き受けいただけましたわね? そもそもクタナツのギルドには偶然いらしたの?」


「そうなんだ。偶然依頼を終えたところらしい。

しかも一年から二年ぐらいのんびりしてから魔境に挑戦しようと考えているらしい。

よってこの半年は週二回ぐらいは我が家に来てもらえることになった。

よかったな、ウリエン。」


「はい、父上ありがとう。一生懸命がんばるよ。

カースも今日から頑張ってることだし、僕らも負けていられないよ。なあオディロン?」


「う、うん。母上のあれはきついよね。

カースは明日からも続けるんだよね。

すごいよ。僕そっちもまたやりたいな。そしたら僕もマリーとお風呂に……」


「まあオディロンちゃん! えらいわ! さすがお兄ちゃんね! もうすぐ学校だものね。今のうちに頑張っておけば後々有利だもの。

じゃあ午前中はカースちゃんと一緒に経絡魔体循環をして、午後からはウリエンと一緒に剣術をするのね。」


「オディロンにできるのー? どうせすぐ『マリー助けてー』とか言って逃げるんじゃないのー?」


「う、姉上、そんなことないよ。カースにできたんだ、僕にもできるよ。

かなり母上に手加減してもらうけど……」


「どうせそんなことだろうと思ったわ。

私だってもう二度とやりたくないんだから。

オディロンには無理よー。」


「まあまあエリもそれぐらいにしておけ。やってみれば分かることだ。オディロンだってもう小さくないんだ。

弟達に抜かれても知らないぞ?」


「えー、父上甘ーい。私が抜かれるわけないわよー。

私なんてあれに一週間耐えたんだから。クラスの魔力発動速度は私がダントツでトップなんだから。

兄上なんか二週間よ?

でも抜かれたら悔しいから学校から帰ったら少しだけやってみようかしら。」


「はいはい、みんなやる気なのね。お母さん嬉しいわ。

オディロンちゃん、心配しなくてもカースちゃんに魔力を多めに使うんだから、あんまり苦しくないと思うわよ? もちろんエリもね。」


「「はーい。」」


嘘だろ…

姉上、あれを一週間だって?

一週間やっただけでダントツ?

兄上なんか二週間とか…


でも発動速度?

やはり総量が増えるわけではないのか?


でもやっぱりこういうことは早い時期に始めた方が有利なんだろうな。

だとしたらやはりやるしかない……


「フェルナンド先生は明後日から来てくれるからな。それまでひたすら走り込んでおくよう宿題が出てるぞ。

そこでウリエン、明日から学校は走って行け。

マリーに指示しておくから馬車のペースに合わせて隣を走るんだ。分かったな?」


「押忍!」


おお、一家全員がマジモードになってる。

私も負けられない。

明日からも頑張るしかない……

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